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第四項 海上都市マリンハーバー(第50話)

第一部 新世界の産声編 第三章 異なる世界、異なる人々 第一節 海辺の巨龍

 バカでかい亀を目撃してから三日目、ようやく目的地が見えて来た。


「お、見えて来たぞ。あれが海上都市、なんだよな?」


「うむ、そうであるが……何やら余の知る所とは様相が異なるな?」


「俺の知っている都市とも違うな。つーか、海があるのは感動ものだな……」


「ああ、汝の世界では干上がってしまったのだったか。余には想像もつかぬが」


「残念ながら事実だ。とはいえ、あの都市にはところどころ俺が知っている都市の特徴があるな」


「うむ、余も同じ事を思っていた。ところで、汝が知るあの場にあった都市の名は何というのだ?」


「マリンハーバーって呼ばれていたな。海が干上がった後はほぼ要塞化していた」


「なるほど、余の世界とはまた違った呼び名であるか。確かに汝の言う通り、要塞らしき片鱗が見られるな」


「ああ、あの外壁は俺の世界の名残だろうな」


「あれは強化ガラスか何かかの? 都市全体を覆っているように見えるぞ」


「ありゃ実体型のバリアドームだな。異星人の技術を応用して作られてんだ」


「物理干渉可能な魔力障壁のようなものであるか?」


 魔力障壁か。艦にいた頃にクレアに見せてもらったが、銃弾を弾くところを見せられてドン引きした。


 幾ら防げるからって生身で銃弾に晒されるとか正気の沙汰じゃねぇぞ。


「まあ、似たようなもんだな。エネルギーが続く限り任意の対象を通さないようになってる」


「ほほう、対象を指定できるのは便利であるな」


「むしろ指定しないとエネルギーの消費が激しくて使い物にならねぇんだ」


「んむ? あぁ、確かにそうであるな。通さぬ対象が多いほど、その分のリソースが必要となるか」


「そういうこった。普段は不可視で対象外のものは素通りできるんだが、対象となるものが通り抜けようとするとああやって実体化するんだが――」


「む、消えたのう。問題が無くなったのか、はたまた大問題が生じたか……?」


「あの消え方なら大丈夫だな。無理やり破られた場合は全体が砕け散るように消える」


 あれが砕け散るとなると相当なことだけどもな。なんせ核爆発の衝撃及びその他諸々にも耐えられるくらいだ。


 それが一度は砕けたって話だから、当時の奴らの波状攻撃の凄まじさを物語っている。


「ほう! それはそれで見てみたくはあるな! ところで、あのバリアとやらはどのような対象を通さぬように設定されておるのだ?」


「一定以上の体積を持つ生物だな。対異星物用の設定になっていたはずだ」


 当時の奴らは惑星上の生物と融合した結果、不定形の身体から融合した生物を基にある程度の形を持ったハイブリッド型のバケモノに変化していた。


 当時の区分けとして大きさごとにポーン級といったふうに名がつけられていて、最低でも十メドル(メートル)級の大きさとなっていた。


「となれば、あの場には相当な大きさの生物が居たという事であるな?」


 クレアがワクワクとした様子で聞いてくるが、化け物共との戦いを経てきた身としては特別珍しくもない。


 ついでに言えば先日見かけたバカでかい亀の方がよっぽど脅威だ。


「だろうな。でもよ、あの亀を見た後だから、あまり驚くような事でもないんじゃねぇか?」


 なんだったら、今の世界にはあそこまでとはいかないまでも機動兵器程度には大きな生物がそこら中を跋扈している可能性すらある。


 幸か不幸かまだお目にかかってはいないが、それらしい反応はこれまでに何度か相棒のセンサーに引っかかっていた。


「そうであったな……」


「あの大きさだと俺の世界に居た化け物共で言う所のキング級の大きさはあっただろうな」


「キング級とな? それが最大の大きさであるか?」


「いや、最大だと惑星よりもでかくてな。クイーン級と呼ばれていたぞ」


「わ、惑星だと!? よくもまあそのような存在に勝てたのう!」


「詳しい所までは俺も知らねぇが、内部に突入して核をぶっ壊したらしい」


「おぉ……御伽噺に出てくる巨大生物の攻略法みたいなことを実際に行ったとは」


「ま、相手も生物である以上、内部からの攻撃には弱かったってことだな」


「確かに、臓物は鍛えようがないとアーノルドも嘆いていたのう」


「あー、あいつか。そういや、お前の所の親衛隊連中って全員ボディビルダーみてぇな筋肉ダルマだが、あれはお前の趣味か?」


「うむ、そうであるぞ?」


「そ、そうか」


 明らかに戦闘者向きの筋肉の付き方をしていなかったからもしやと思ったが、真っ正直に返されるとは思わなかった。


 しかし、趣味か……やっぱり金持ちの趣味は解んねぇな。



 海上都市に近づくにつれ、周囲の様相が怪しくなってきた。


「……のう、汝よ。余が見ている光景は夢か幻であろうか?」


「奇遇だな。俺も似たような事を思っていたぞ」


「よもや、このような光景を目にしようとは……」


 呆然と口にするクレアの眼前、外部モニターが映す光景はこれまでの断片的なものとは違って、世界が融合したと言う現状を非常にわかりやすく示していた。


 道を往く車は見慣れた自動車も含め、新旧様々――いや、クレアの世界の事を考えると世界様々って所か?


 よく見たら旧式と思われる自動車には見覚えのない会社のロゴが入っている。


 まあ、それは良い。問題は別の乗り物にあった。


「あれ、馬車なんだよな?」


「そのように見えるが、六本足の巨馬など余は初めて目にしたぞ」


「それは俺も初めて見た」


 体長五メートルはありそうな六本足の馬が自動車顔負けの速度で金属製の馬車を引いている。


 それだけじゃない。二足歩行で走る大きな鳥が、蜥蜴が、狼が――とにかく、大きな生き物たちが同じような馬車を引きながら走っている。


「汝の世界に、あのような生き物は?」


「なりは小さいが、似たような生き物ならいるな……」


「そこは余と同じか……少し安心したぞ」


「クレアんところの一般的な交通手段は自動車でいいんだよな?」


「うむ。バイクなどもあるが、概ねそのような見解でよい。汝の所も似たような物ではあるようだが、こうしてみると技術格差が酷いな」


「世界が違うんだからしょうがねぇだろ。ところで、こっちほどじゃないがそっち以上の技術が使われてそうな自動車をそこそこ見かけるんだが、心当たりはあるか?」


「む、どれだ? 正直、見知らぬメーカーの車はあれど、汝の世界の物と区別がつかぬ」


「おう、待ってろ。画面にマーキングする――ほれ、これだ」


 判りやすいように該当する自動車を枠線で囲うようにマーキングして見せると、クレアは唸りながら画面を凝視した。


「むむむ……確かに、余の世界の物よりも洗練されておるようだな」


「ざっと見た所感だと俺の世界とクレアの世界、そしてどこかの世界が自動車を主な交通手段として使っていて、残りの世界があの馬車――いや、獣車って所か。それを使ってるみてぇだな」


「もしかしたら四つ以上の世界が融合しているやもしれぬぞ?」


「それはねぇな。あの獣車の造りは全部同じ世界のもんだ」


 見た目に多少の違いはあれど、大まかな造り自体は共通点が多過ぎるから、別の世界の物と言うには少し無理がある。


 ひとまとめにした自動車に関しては見る者が見れば技術の大本が異なる事くらいはすぐにわかるだろう。


 つまるところ、この場には四つの異なる技術体系によって造られた車が走っているわけだ。


「こうしてみると、改めて世界が融合したって実感がわいてきたな」


「うむ、そう考えるとなかなかに感慨深いものが――むっ!」


「ん? 動体反応? やけに速い――なんだこりゃ! とんでもなくでかいのが来るぞ!」


「上空を通過するぞ! 凄まじい魔力の圧を感じるのだ!」


 クレアがそう言った直後、空を裂く轟音と共に巨大な質量を持つ何かが上空を抜けていった。


 モニターを確認すると、画面には海上都市へ向かって悠々と飛んでいく巨大な生物が映っていた。


「なんだありゃあ……あれが本物のドラゴンか?」


「いや、あれは――あの強大な魔力は龍やもしれぬ」


「竜? ドラゴンの事だろ?」


「汝の世界の話ではどう伝わっているのかは知らぬが、余の世界においては竜――ドラゴンと龍は別物である」


 と、クレアが文字を書きながら説明する。


 読みは一緒でも文字が違うのか。もう一つの文字は初めて見たな。


「そうなのか? で、どう違うってんだ?」


「竜が生物であるならば、龍は……そうであるな。概念と言ったところであろうか」


「概念? 生き物じゃねぇってか?」


「いや、生命であることには変わらぬが、並みの生命体ではない。それこそ神に匹敵するか、それ以上とも言われておるな」


「うげっ、そんなやべぇのが居るのかよ」


 スケールがでかすぎて想像もつかねぇが、あんなバケモノと戦うなんてことになったら勝ち筋が全く見えねぇぞ。


「詳しい所までは余も知らぬが、見ての通りむやみに破壊を振りまくような存在ではない。こちらから喧嘩を吹っ掛けたりせぬ限りは大丈夫であろうよ」


「その割には、こっちに視線みたいなもんを感じたけどな」


 敵意こそ感じなかったが、やけに興味津々と言った雰囲気だったように思う。


 ……奴らと戦い続けてきたせいか、でかい生き物の視線はなんとなくわかるようになっちまったな。


「ふむ、この周辺には汝のアイボウのような乗り物がないからではないか?」


「そりゃそうかもしれねぇが……もしかして、あれも俺達と同じように世界の融合を認識してんじゃねぇか?」


「む……あり得るな。むしろ当事者である可能性すらある」


「そこまでの存在なのかよ」


「龍と言うのはそれほどのものだと認識しておくと良いぞ。余の世界の伝承においても舐めた態度を取って痛い目に遭った者は多い」


「本当に痛い目で済むのか?」


「相手によるが、死んだほうがましだと言えるような呪いを末代までに至るまで貰う事になる」


「呪いなんて実在すんのかよ」


 呪いなんてのは迷信だとばかり思っていたが、魔法を扱うクレアが言うと真実味があるな。


「ふむ、てっきり笑い飛ばすものかと思ったぞ。汝の世界にも呪いは存在するのか?」


「俺は信じてなかったし迷信だと思っていたが、それらしい現象はあったな。所謂科学的に解明できない現象ってやつだ」


「そちらの世界でも解明できぬ現象か。想像もつかぬな」 


「超常現象とか言われていたな。科学的に解明するための調査チームもあったはずだ」


 なんつったかな? 科学特捜班とか、そんな名前だったはずだ。


「ふむ、本物の呪いとなるとむしろこちら側の分野に近しいものであるから、科学的に解明するのはほぼ不可能であろうな」


「俺の世界に魔力なんてもんはねぇぞ?」


「魔力はなくとも、代用となる力はある。汝にも判りやすくいうなれば、精神力がそれに該当する」


 精神力ねぇ……心当たりはないこともねぇな。


「あー、例えばなんだが、とある場所で大量に人が死んで、その後もそこでなんか妙なことが起こり続けているとしたら、それはやっぱり呪いによる物なのか?」


「そうであるな。そのような場には数多の死者の無念により指向性のない呪いが滞留しておる状態であることが多い故に、長期に渡って事故などが起こりやすくなっておるな」


「そうか……偶然とかじゃねぇんだな」


「物事には必ず理由がある。それが自然の理と言うものである――と、余の師匠が言っておったぞ」


「自然の理ねぇ。まあ、確かに非科学的な現象とはいえ、実際に起こっているわけだしな」


「呪いは科学で解明できるものではないからのう。そも、人の業にて森羅万象を網羅することは不可能であるよ」


「ん? その言い方だとまるで魔法は人の技術じゃねぇみてぇだな?」


「それはそうである。今の我らが扱っている魔法の元となる技術は異形よりもたらされたものであるからな」


 異形ってのは前にも聞いた気がするな。確か敵対してたんだったか?


「その異形ってのはなんだ?」


「む、説明して居らなんだか。異形とは人ならざる者達の総称である」


「人ならざるってのは、人間以外の生き物ってわけじゃねぇんだよな? そいつらに魔法なんかを伝えられたってことは何らかの知的生命体か?」


「うむ、現在では有象無象を含めての総称となっておるが、本来は極めて高度な精神と肉体構造を持った生命体をそのように呼んでいたそうだ」


 極めて高度な精神と肉体構造ねぇ。なんとも聞き覚えのある文言だな。


「こっちの世界で言う異星人みてぇなもんか?」


「そちらの世界の異星人がどの程度の存在なのかは知らぬが、余の世界における本来の異形と言うのは神や悪魔と言った存在に近しい」


「そりゃまた大仰な」


「天変地異を易々と起こすような存在だぞ?」


「あー、そりゃ神や悪魔を名乗っても仕方ねぇな」


 災害なんてのは宇宙暮らしだとほとんど無縁だが、地上にいた頃は自然災害に悩まされたこともあったな。


「そして、そんな異形すらも恐れるのが龍と言うわけだ」


「あー、そういや龍の話をしてたんだったな。それにしてもでかかったなぁ」


「正直、余は生きた心地がしなかったぞ」


「そんなにか。俺はでけぇ亀の方が恐ろしかったな」


「うむ、アレはアレで恐ろしかったが、余は龍の方がよっぽど恐ろしい」


 魔力がどうとか言ってたが、そこまでか。


「魔力を感じ取れるってのもいい事だけじゃねぇんだな」


「むぅ、あれほどの圧なら一般人とて影響を受けそうなものなのだがな」


「あー、周りの様子を見た限りだとそれなりに影響受けてるのは居るみてぇだな」


 さっきの龍が上空を通り過ぎる際に停止していたんだが、一般車道の方では獣車を引いている動物達が軒並み怯えて動けなくなっているようだった。


「おぉ……一般道が渋滞になっておるな」


「さっさと抜けちまうぞ。こっちの道は利用者が少ない分、一般道に何かがあった時の非常用道路になる」


「むむっ、そういう事ならばさっさと向かってしまおう。余は待たされるのは嫌いである」


「それは俺も同じだ。しっかしまあ、今の世界にはあんなのが本当にゴロゴロといるみてぇだな」


「うむ、非常に興味深くはあるのだが、あまり遭遇したくはないものであるな」


「だな。ああ云うのは遠くから眺めてるだけが良い」


 まったく、とんでもない世界になっちまったもんだぜ。



 龍に驚かされるなんて言う珍事はあったが、その後は何事もなく海上都市に入ることができた。


「んーっ! なかなか愉快な旅路ではあったが、長いこと閉所に籠って居る身体が凝ってしまうな」


 相棒を降りてからのクレアの第一声がそれだった。


 その気持ちはよくわかる。俺も機動兵器に乗り始めた頃はそうだったからな。


「まあ、その辺りは慣れだな。機動兵器を買うつもりならこれくらいは慣れておいた方が良いぞ?」


「うむ、考慮しておこう。とはいえ、汝の手伝いでアイボウを弄っておった故か、自作するのも悪くないと思えて来たな」


「俺が言うのもなんだが、その先は底なし沼だぞ。時間が無限に溶ける。どうしてもやりたいなら、最初は既製品の改造程度にしておけ」


 機動兵器を自分で一から製造しようと思ったら、短くても年単位の時間が掛かるからな。


 頭のおかしい奴なんかはぽんぽんと新型を作っちまうもんだが、アレは戦時中かつ人と機材を自由に扱える環境があってこそだよなぁ。俺も何度か駆り出されたが、世界防衛軍のラボの奴らは本当にヤバかった。


「うぅむ、汝がそこまで言うなら手掛ける際にはそうするか。ひとまずはオーダーメイドであるな。それと、艦載用に既製品を幾らか仕入れさせるか」


「艦載機となると、砂上艦の護衛用か?」


「うむ、アーノルド達用にな。今の世界であれば機動兵器で罪を犯すような輩も出て来るであろうからな。扱えるようになってもらわねば」


 戦時中はともかく、今後は確かに危ういかもな。


 世界防衛軍の対応次第だが、異生物との戦争が終わった今では失業者が溢れかねない。


 それに、あの戦争では重罪を犯した犯罪者なんかも動員していたからな。


 奴らは全員最前線に投入されていたはずだが、絶対に逃げ出した奴が居るはずだ。


「あー、居るだろうなぁ。自衛の為にも必要か。それならそれで多少は安くなるはずだぞ?」


 名前はド忘れしたが、そう言う制度があるってのは覚えてる。なんてったっけな?


「ふむ、覚えておこう。さて、汝とはひとまずここまでの付き合いとなるわけだが、汝はこの後はどうするのだ?」


「とりあえず故郷までの列車を確認――って、今のここには空港まであんのかよ」


 頭上の低い所を飛行機が通過していって、空港があるという事が判明した。変わり過ぎだろ。


「空港は此方の世界にあったものだな。汝の言う列車というのはアレか? 余の知っているものと比べて大きいな」


 クレアが視線を向けた先には目的の駅が見える。


 少し前に到着したところなのか、停車中の列車から人がぞろぞろと降りているのが見える。


 クレアに言われて改めて見ると、確かに大きいのかもしれない。まあ、そうなったのは理由があるんだが。


「そうなのか? まあ、こっちの世界じゃ空を飛ぶと格好の的だったからな」


 異星物は動く物、特に空を飛ぶ物に対する反応が顕著で、奴らが地上に飛来した後は旅客機やシャトルが頻繁に襲われた結果、一般的な空の便は廃止されちまったんだよな。


「例の化け物の影響で地上の便が発展したというわけか。聞けば聞くほどに恐ろしい生物であるな。同時にそちらの技術力に驚かされるが」


「知的生命体が追いつめられてる時は技術が発展しやすいってのが異星人様のありがたいお言葉だ」


「それは解る気がするのう」


 クレアの方も心当たりはあるらしい。実際、こちらは異生物との戦いが始まってからの技術力の発展は凄かったからな。


「戦時中は何とも思わなかったが、落ち着いて考えるとすげぇよな。それはそうと、この街はあれだ。あちこちからいい匂いがしやがるな」


 さっきからそこらの屋台から香ばしい匂いが漂ってきやがる。


「うむ、余が前に来た時はこうも出店が多くなかったと思うが……交渉の前に腹ごしらえをしておくか」


「ん? 予定より早く着いたと思うんだが、相手方の予定は大丈夫なのか?」


「問題はない。余なら事前アポなしの顔パスでも通る相手であるからな」


 それだけの大口客ってことか。金持ちめ。


「それでも嫌われることはあるから気を付けろよ?」


「んむ? ああ、余が金で解決していると思っておるな? 違うぞ。今回の相手は余の友人なのだ」


「なんだ。友人なのか――いや、友人ならなおさらなんじゃねぇか?」


「まあ、時々迷惑をかけることはあるがな。付き合いが長い腐れ縁という奴なのだ」


「あー、そういう仲か。気の毒に」


「汝! 今のは余に対して失礼ではないか!?」


「冗談だ。それより、適当に何か買って食おうぜ。まだ時間はあるんだろ?」


「う、うむ。なんだ。汝、余の事が好きなのか?」


「それは冗談にしてもきついぞ。娘か孫みたいなもんだ。すっかり忘れてるみたいだが、お前に機動兵器を売ってくれるところの紹介がまだだっただろう?」


「むむっ! 忘れてはおらんぞ! その話は汝が故郷に戻ってからという事ではなかったか?」


 そうだったか? そうだったかもしれない。


「実はこの都市にも一件、機動兵器の製造場があってな。あまり大きい所じゃねぇんだが、性能は信頼できるところなんだ。大きい所は予定通り後日ってことで」


「ふぅむ……まあ良かろう。汝がそこまで言うのならば信じよう。では、そこらの屋台で食料を調達したら先にその製造場とやらに案内せよ!」


「ああ、そうすっか」


 ついでに手土産も持って行くか。クレアじゃないが、これから向かう製造場を取り仕切っている奴はかなり偏屈だからな。いきなり押しかけたら工具を投げつけられる恐れがある。



 適当に出店の屋台を食べ歩きしながら、目的の製造場へと向かう道中は街の変化に圧倒されっぱなしだった。


「随分様変わりしてんなぁ……」


「異形、いや、異種族か。気付かなんだがいつの間にやら魔力が世界に満ちておる」


 クレアもぶつぶつと呟いていたが、クレアが知っている街の様子とも異なるんだろうな。


 明らかに異星人っぽい見た目の人間も出歩いているし、すげぇことになってんな。


 で、そんな変わった街中と比較して、製造所の様子は特に変わっていなかった。やけに静かな点を除いて。


「ちょっとこれ持っててくれ」


「む、土産物か。屋台の食物に酒とはなんとも色気が無いのう」


「別にそう言う相手じゃねぇよ。なんだと思ってんだ」


 そんなやり取りを交わしながら製造所の扉を開くと同時――


「勝手に入ってくるんじゃねぇ!」


 怒声と共に金槌が飛んできた。


「おっと。随分とイラついてるな。更年期か?」


「ああっ!? てめっ――親父っ!? 生きてたのか!?」


 そう言いながら走り寄ってきたのはやや歳のいった女で――俺の娘でもある。


 本当にもういい歳なんだが、未だ独身なんだよな。器量は悪くないから誰か貰ってやってくれ。


「おう、連絡は来てなかったのか?」


「いや、こっちはそれどころじゃ――って、なんで親父がここに居るんだ? 宇宙で戦ってたはずじゃないのか?」


「ちょっとしくじってな。それより客を連れてきてやったぞ。それと土産だ」


 会話しながらクレアに預けていた土産を差し出す。


 土産袋の中に入っている酒を目にした俺の娘――メリアの機嫌が少し良くなった。酒好きは相変わらずか。


「おっ、酒だ。へへ……にしても、客だぁ? 今更、機動兵器を欲しがる奴なんか要るのか?」


「ああ、ここに居るぞ」


「お初にお目にかかる。余はクレア=パトラックという」


「あー、お嬢ちゃん。悪いんだが子供に売るわけにはいかねぇんだわ」


「余はこれでも成人しておるぞ」


「えっ、そうなのか? とはいえ、機動兵器は自動車と違ってポンと買えるほど安いもんじゃねぇんだが」


「それも心配はない。パトラック財閥の名は聞いたことはないか?」


 ここに来るまで、店なんかでパトラック財閥の話題を振ってみたら、名前を知らない奴が居ないってくらいには有名だった。


 メリアはそう言う所に疎い部分はあれど、世界が融合する前でも世間の時事程度はきっちりと把握していた。


「あー、いや、わりぃ。そう言うのは詳しくねぇんだ」


「ふむ……どう思う?」


 と、クレアが俺の方を見て聞いてくる。


 うーむ、ここまでメリアを観察してきたが……これは黒か?


「メリア、もしかしてお前、今の状況に違和感を抱いてないか?」


「えっ、お、親父もか?」


「ふむ、やはりそうか。安心せよ。お主の気が狂ったわけではないぞ」


「あ、あんたもか! 良かったぁ……」


 どうやら周囲に俺達のような者が居なかったらしい。道理でいつもより機嫌が悪かったわけだ。



 とりあえず、メリアには現時点で判明しているところだけを説明してやると、安堵したようにその場に座り込んでしまった。


「はあぁ……てっきり、あたしの頭がおかしくなったのかと思ってたよ。それにしても、四つの世界が融合とか、従業員が居たらできない話だったな」


「そういや、他の従業員達はどうしたんだ?」


「こんな状態で仕事なんかできるかよ。だから終戦記念ってことで一年の休暇をやった。しばらくは依頼もなさそうだったし」


「随分とまた思い切ったことをしたな」


「現状を受け入れる時間が欲しかったんだよ……調べれば調べるほどわけわかんなくて気が狂いそうだったけど」


「それは無理も無かろう。余とてこ奴と会うまでは戸惑って居ったぞ」


「その点、無人のオアシスで何も知らずにサバイバルしてた俺はかえって幸運だったのか……?」


「「いや、それはない」」


 娘と娘みたいなやつに否定されて話はそこで終わり、依頼の話に切り替わった。


「で、機動兵器が欲しいんだよな?」


「うむ、余の専用機体が欲しい」


「専用機体ねぇ。ちなみに機動兵器には詳しくないんだね?」


「こ奴の手伝いで少し弄った程度であるな。余の注文としては、魔力回路が引きやすい構造だとありがたい」


「魔力回路? なんだいそれ?」


「別の世界の技術だ。その辺りの話を始めると長くなるから、今回の注文はセミオーダーメイド用のカタログで済ましとけ。あれなら本体と各部パーツを選ぶだけで済むだろ」


「ってことだけど、それでもいいかい?」


「うぅむ、詳しくなければ専用機体も夢物語に過ぎぬというのか……奥が深いのう」


「これが現実だ。まあ、お前ならすぐに覚えられるだろ」


 なんせ、魔力回路なんてもんを一から作り上げた天才なんだからな。


「軽々しく言いおってからに……まあ良かろう。今回はそれで我慢しよう。この後は商談もあることだしな」


「予定があるなら後日でもいいけど。今は従業員も居ないから完成も少し遅くなるだろうし」


「む、そうなのか。どれくらいかかる?」


「あたし一人だと早くてひと月かな。物によっては取り寄せが必要だからもう少しかかるかもだけど」


「一人でひと月、だと……?」


「セミオーダーメイドってのは機動兵器の本体及び各部パーツの組み合わせで作るもんだからな。おもちゃのロボットを大きくしたようなもんだとでも思えばいい」


「そういう物なのか……」


「ほい、これがカタログだよ。本体がこっち、各部位ごとのパーツがこっちね」


「……結構な量であるな」


「そりゃそうよ。本体だけでも本体だけでも数十種類、パーツは数百種類って所だもの。あと、メーカーによっては適さない組み合わせもあったりするから、わからない部分があったら幾らでも聞いて」


 メリアの言葉に頷いて、カタログを見始めたクレアだが――


「――うむ、なんもわからん! 後日で頼む!」


 書かれている内容が解らなかったのか、素直にそう言って本日の購入は諦めた。


「あっはっは! ちゃんと判断して即決しない辺り、あんたいいお客さんだよ。はい、これあたしの連絡先ね」


「うむ、本日の商談を終わらせたらすぐにでも書物を漁って勉強するとしよう。それと、余の連絡先も渡しておこう」


「はいよ。って、何この番号。ちゃんと通じる?」


「ああ、通信機器の規格が違うんだ。別の世界の樹種を買わないと繋がらねぇんだよ」


「うわ、めんどくさ。そういや親父はどうしてるの? こっちの奴から連絡しても全然連絡つかないし」


「俺のはぶっ壊れてな。今は別の世界の物と新しく買ったやつで二つ持ってる」


 完全にぶっ壊れたおかげでデータの引継ぎもできなかった。バックアップが自宅にあるのが救いだな。


「あたしも別の世界のを買わないとだめかぁ。そのうち統一されると良いんだけど」


「こっちも調べたんだが、携帯端末は三世界分あるから気を付けろよ」


 残りの一世界はどういう手段で連絡取ってんのかわからんが、携帯端末のような物はないらしい。


「げっ、それじゃあ親父の機種見せてよ。同じメーカーで買うから」


「おう、これだ」


「ふーん。うちらの世界の物と比べるとちんけな造りだね。これならあたしでも弄れそう」


「……その発想はなかったな。ちょっくら弄って三世界対応機種を作るか」


「むっ、それは余も欲しいぞ。汝らの世界の物は色々と多彩な機能があって羨ましいと思っていたのだ」


「じゃあ、家に帰る前に一仕事してくか。メリア、手伝え」


「あいよ。クレアさんは予定があるんだろ? そっちを済ませてきなよ」


「うぅむ、作業工程を見たくはあるが、仕事はおろそかにできぬか……では、行ってくる」


「おう、終わったら一報入れとくからな。あとでメリアから受け取ってくれ。もしかしたらそっちが早いかもしれないが」


「うむ……これが今生の別れというわけでもないが、今回はここまでであろうな。汝との旅は楽しかったぞ。では、またな」


「ああ、またな」


 クレアが出て行った後、メリアが何か含むような目で俺の方を見てきた。


「なんだ?」


「若い娘と二人きりの旅ねぇ」


「勘違いするな。あいつはお前と同じくらいの年齢だぞ」


 もしかするとクレアの方が上かもしれないが。


「え゛っ」


 メリアの方は心に傷を負ったような顔をしていたが、傷つくぐらいならさっさと男見つけて結婚しやがれってんだ。


 しかし、三世界対応機種とか考えもしなかったな。


 もうちょっと考えるようにしねぇとあっという間に呆けちまうから気を付けないとな。

途中で遭遇した龍=一般通過龍王様

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