第四項 北へ~巨獣に乗って(第46話)
第一部 新世界の産声編 第二章 英雄達の新世界紀行 第四節 密林の部族
ウララさん達が帰還したことによる宴の日々も落ち着き、日常が戻ってきた頃、私達は森を出ることにした。
神鳥様が飛ぶという事で、今はクルルァさん達の居住地にいくつかある広場の中でも一番広い所にいる。
見送りに来ているのはクルルァさんだけで、他の人達とは前日までに別れの言葉は交わし合っていて、本日からはみんな日常生活へと戻っている。
クルルァさんとよく一緒にいるリベルスさんは森に出ている時以外は大体寝ているのでここにはいない。
あの毛皮の触り心地が堪能できなくなるのが少し残念ね。
「ではクルルァ、後の事は頼む」
「ウララ姉さま……無事にハルカ様の事を送り届けてください」
そう言えば結局、クルルァさんには魔法少女としての姿を見せることはなかったわね。
魔法を教える時に元魔法少女だったことは教えたのだし、一度くらい見せておけばよかったかしら?
『ま、ボクもいるんだし大船に乗ったつもりでいなって!』
「あ、はい。頑張ってください」
『あれっ!? なにその淡白な反応! ボクの繊細な心が傷ついちゃう!』
クルルァさん、魔力に目覚めて神鳥様と話せるようになってから日毎に対応が変わっていったのよね。
神鳥様は話せば話すほどにぼろが出る性質だから……。
「クルルァさん。一度帰って色々と世情が落ち着いたら、また遊びに来てもいいかしら?」
「はい、ぜひ! あ、ですが、私の方が先に会いに行くかもしれません」
「あら、もしかして機関へ?」
「はい、魔法少女に成るかはわかりませんが、近々登録をしに向かいたいと思っています」
「ええ、そうしてあげて。もしその時に連絡を取りたかったら機関の人に私の魔紋を見せてくれたらいいから」
機関の所在は以前渡した魔力紋の記された用紙に書いてあるけれど、現在の所在との齟齬は大丈夫なのかしら?
神鳥様曰く、人が書いた書類などには世界が融合した際の影響は受けていないだろうという事だけれど。
一応、融合後の世界の一般人の大半はその辺りの認識や記憶は補完されているみたいだから、誰かしらは機関を知っているでしょう。
「わかりました。当面の目標はグララ兄さんを倒すことなので、少し時間はかかると思いますが」
「え、ええ、頑張ってね……で、いいのかしら?」
「はい! しっかりと打倒して私を娶らせて見せます!」
そうなのよね。ここの人達って、求婚する際は男女問わず求婚相手を力で下す必要があるの。
なんとも乱暴な風習だけれど、そうすることで強い子を残してきたのだそうよ。
「クルルァ、グララは怪人化したことで以前より強くなっている。手心は必要ない、魔法でも何でも使って全力で潰すつもりで行くと良い」
「はい、姉さま!」
ちなみに、兄さんだとか姉さま呼びをしてはいるけれど、直接的に血が繋がっているわけではないみたい。
関係的には近所のお兄さんお姉さん的な扱いのようね。
『ボクが帰ってくる頃にはグララ君が尻に敷かれてそう』
「あの熱量なら本当にそうなりそうね……」
なんにせよ、若い子達が元気なのは良いことだと思うわ。ええ、本当に。
ちなみに、話題に上がっていたグララさんは弟さんと一緒に早朝から狩りに出たそう。
なんでも宴続きで食料が危ういんだとか。
『じゃ、そろそろいこっか?』
「ええ、そうね。ところで、本当に神鳥様に乗っていくのよね?」
『そうだよ! じゃ、ちょっと大きくなるから離れててね』
「わかったわ」
神鳥様から距離を取ると、その身体が眩く輝きだし、瞬く間に大きくなっていく。
そうして見上げるほどに大きくなると同時に光が収まっていき、大きくなった神鳥様の姿が露になった。
「……鷲獅子?」
驚いたことに、あのまんまるとした神鳥様は鷲獅子のような姿へと変貌していた。
ようなと称したのは、その姿が私の知っているそれよりも大きな事と、身体の構成の違いによるものだった。
私の知っている鷲獅子は上半分が鷲、下半分が獅子の身体を持つ生き物だけれど、神鳥様の場合は下半分が竜のような姿をしている。
竜の実物を目にしたのは過去に一度きりだったけれど、今の神鳥様にはそれに負けないくらいの迫力がある。
『ぐりふぉんっていうのは知らないけど、これがボクの本来の姿さ! どう? かっこいいでしょ!』
「ええ、すっかり見違えて……」
「そのお姿を目にするのは怪人共を退けた時以来ですね」
「普段からその姿でいた方が良いのでは?」
クルルァさん、この姿を見ても態度が変わらないのは流石だわ。
『この姿を維持するのって結構大変なんだよ? まあ、あっちの姿の方が楽っていうのもあるけど……』
「確かに、この姿は威厳があるけれど、ちょっと大きすぎるものね」
『だよね! だからいつものあの姿がちょうどいいのさ!』
「神鳥様、騎乗具を取り付けますので屈んでいただけますか?」
『おっと、そうだったね』
神鳥様は返事をすると、ぺたりと伏せをした。
どれだけ大きくなっても、こうしてみると可愛らしいものね。
「騎乗具なんてあるのね」
ウララさんが持ってきたのは座席のような物が付いた大きな鞍……でいいのかしら?
とにかく、神鳥様に乗る為に必要な騎乗具というものだった。
「滅多に使われませんが、緊急時は神鳥様に乗って移動することがありますので」
『いざという時の便利な移動手段ってわけさ!』
「そうなの?」
それでいいのかしら? 当人はむしろ誇らしそうだからいいのでしょうけど。
『さあ、早く乗って! 乗り心地は保証するよ!』
「それじゃあ、遠慮なく乗せてもらおうかしら」
神鳥様に取り付けられた騎乗具には乗り降りする為の梯子が付いていたので、それを伝って登っていくとすんなり背中に辿り着いた。
「あら、いい眺め」
「ハルカ様、そちらの席へどうぞ」
「ここかしら?」
「はい、身体を固定しますのでしっかりと座り込んでください」
「ええ、これでいいかしら?」
「はい……これで落ちることはないはずです」
「結構しっかりと止めるのね」
「それはもう、空を飛びますので」
そう言いながら、ウララさんも自分の席についてベルトをしっかりと止めていた。
『そろそろ大丈夫かな?』
「はい! どうぞ!」
『よーし、いっくぞぉ! とりゃー!』
ぐっ、と身体が地面に引かれるような感覚に襲われる。
おそらく神鳥様が飛びあがったのだと思われるけど、視界の先には伸び上がるように動いた神鳥様の頭が見える。
そして、引かれるような感覚に浮遊感が加わった。
まるで飛行機が離陸するときのような感覚みたいだわ。
「……もうこんなに高い所に?」
ふと周りを見渡すと、辺りは真っ青な空。首を回して眼下を見れば、大きく旋回する神鳥様の身体の向こうに大きな森が見えた。
『いい眺めでしょ?』
「ええ、とっても。ところで、風を全く感じないのだけれど、これは神鳥様が?」
『そうだよ。ボクの魔法みたいなものだね』
「魔力の動きは感じるけれど、魔法ではないの?」
『うん。それはボクが特別何かをしなくても勝手になっちゃうやつだからね』
「ああ、高位生命体の動きには魔法が伴うと言う……そういえば神鳥様もそうなのよね」
そういう意味では、あの小さい姿の発光時にも魔力の動きは感じていたのよね。
私が知っている神様に連なる存在は大半が良く言えば真面目、悪く言えば融通の利かない存在だったから、神鳥様のような緩い感じは極めて珍しいのよね。
一方でその上司たる神様連中はどちらかというと神鳥様っぽいのが多いから、神々の主従は意外と性格面でもバランスを取っていたりするのかしら?
『よくわからないけど、ボクがすごいってことだよねっ!?』
「ええ、とってもすごいわ。ところでウララさん、さっきからずっと黙っているけれど大丈夫?」
「す、すみません、実は私、高い所が苦手で……」
「あら、そうだったの? それなら無理しないで陸路でも良かったのに」
「いえ、早く帰る手段があるのなら使うに越したことはありません。それに、ハルカ様のご家族もずっと心配していると思いますので、少しでも早く送り届けたいのです」
確かに心配されているとは思うけれど、家族は私の事をよく知っているからそこまで酷いことにはなっていないと思うのよね。どちらかというと機関の方が心配しているかもしれない。
とはいえ、ウララさんの気遣いはありがたいわ。
「ありがとう。無事に帰ることができたら何かお礼がしたいわ。何が良いかしら?」
「いえ、ハルカ様には郷の者達が良くしていただいたので、お気持ちだけで十分です」
『そうだよね。ウララちゃん達以外はみんな魔法を使えるようになっちゃったし』
「う……皆が魔法を……」
「ウララさん、気になっていたのだけれど、なんでそんなに魔法が使いたいのかしら?」
『あっ、それはボクも気になってた』
「……力が、欲しいのです」
あら、どこかで聞いた気がするわ。
『おやおやぁ?』
すぐに何かを察した神鳥様が意地の悪そうな声を上げた。
「……もしかして、気になる男性が?」
「その、はい……」
『やっぱりね!』
クルルァさんと同じ理由だったのね。
となると、相手は怪人であるウララさんよりも強いのでしょうね。
「お相手はどんな方なのかしら? 怪人の力に加えて魔法まで求めるほどだから、相当な強さなのでしょう?」
「は、ハルカ様? 妙にイキイキとしてらっしゃいますが……?」
「うふふ、淑女たるもの幾つになっても恋バナは大好物なのよ?」
『ボクもそういうのは大好きさっ!』
「こ、恋バナっ!? 神鳥様まで……」
『で、どんな人なのさ? うちのウララちゃんが惚れ込むくらいだから英雄級の活躍はしてるんじゃない?』
「ウララさん、こういうのは洗いざらい吐いた方が楽になれるのよ?」
「うぅ、それは――」
そうしてウララさんが口にしたのは悪鬼と書いてオーガ呼ばれる怪人で、それはもう鬼のように強いのだとか。
名前の由来は怪人に対する情け容赦のない戦いぶりからくるものなのだとか。
ウララさん達を怪人にした結社という組織の総帥を倒したと言うのもその人なのだから、神鳥様の言う英雄のような活躍をした人であることには違いないわね。
『ねえねえ、その結社って所は何て名前だったの?』
「え、結社ですか? 確か、秘密結社【ナインテイルズ】という名称だったはずです」
『おー、意味はよくわかんないけどかっこいい響きだねぇ』
「ナインテイルズ……九尾の狐の暗喩かしら?」
「九尾の狐とは何でしょうか?」
知らないという事は、ウララさん達の世界には居なかったのね。
「え? ええ、私の世界にいた異形の大物の一人で、異形同士の抗争があった時に死亡したとされている方ね。本性が九本の尾を持つ狐の妖で、多彩な術を扱う他に尾の数と同じだけの超能力を有していたとされているわ」
『うわぁ、なんかすごく強そうだね』
「ええ、だから当時、無数の勢力に別れていた異形達は当時一強だった九尾の勢力を潰す為だけに一時団結したそうよ。それでも九尾を倒す頃にはいくつもの勢力が壊滅したみたいね」
その結果、異形達は大きく力を落とすことになって、魔法少女機関の前身にあたる陰陽師達の組織に降ることになってしまったのよね。
「では、現存している異形の方々は……」
「その時の生き残りやその子孫にあたるわね。異形の人達には寿命はないけれど死なないわけではないから」
『んん? 寿命がないのに死ぬの?』
「ええ、彼らの多くは普通の生物とは異なって物理的に肉体がどれだけ損傷しても死ぬ事が無いけれど、特定の手段や魔力による攻撃で滅ぼすことが可能なのよ」
『へー、じゃあボクと似たような存在なのかな?』
「私は神鳥様がどういう存在なのかは知らないけれど、同じような存在だと言うのであれば神鳥様の方が格が上だと思うわ」
事実、異形達の上には神々という存在が居たのだから。
『なるほど、そういう感じなんだね。ボクの所は同胞とかはほとんどいなくなっちゃったから、例の遊園地に行くのが俄然楽しみになってきたよ』
「神鳥様、くれぐれも面倒ごとは起こさないでください」
『大丈夫だって! 小さい方の姿でちょこっと舞うだけだから!』
「猶更です! 神鳥様の仮の姿は煽り性能が高すぎるんです!」
「あら、もしかしてあの動きかしら?」
神鳥様の声は誰にでも届くわけではないから、誰かに構って欲しい時などはその相手の前で身体を揺するように動かしながら首を時計回りに動かすのよね。七色に光りながら。
私は可愛らしいと思って見ていたけれど、クルルァさんの相棒のリベルスさんなんかは雄叫びを挙げながら飛び掛かっていくのを何度か目にしている。
その度にクルルァさんに宥められて神鳥様がお説教されていたけれど。
リベルスさんの言葉を訳してくれたクルルァさん曰く、馬鹿にされている気がしてならないのだそう。
『ボクの踊り、神様にはバカ受けだったんだけどなぁ……』
「とにかく、神鳥様はあまりふざけずにいてください」
『わかったよ……ところで、まだ先の話だけどさ、その海上都市って所に着いたらどのあたりに降りたらいい? 直接街に降りるのは流石に不味いよね?』
「そうね。飛行場はあるけれど、神鳥様の為の発着場というわけではないから、街には直接下りずに対岸の砂浜にでも降りて、そこからは歩いて向かいましょうか」
『りょーかい。ボクは今の外の事はあまり知らないから、ウララちゃんよろしくね』
「はい、おまかせを。それと、補給や宿泊などで適宜休憩をはさみますので、その際は広い所に降りるようにしてください」
『あー、ボクは飛び続けても平気だけど、二人は違うもんね』
「はい、お願いします。ハルカ様も、お身体の具合が悪くなった時などは遠慮なく言ってください」
「ええ、大丈夫よ。ウララさんもあまり無理はしないでね?」
『そうだよ。高い所が怖いんでしょ? あ、低空飛行しよっか!?』
「それは余計に怖いのでやめてください!」
「あら、神鳥様、女の子を怖がらせちゃだめよ?」
『ボクも一応女の子なんだけど!?』
「「えっ」」
神鳥様にも性別ってあったのね。
そんな意外な事実が判明しながらも、大きな神鳥様は北へ――
「神鳥様! 進路がずれています! 北です! 東じゃありません!」
『おっとっと、ごめんごめん』
私、ちゃんと帰ることができるのかしら?
鷲獅子
神鳥様の真の姿
なんで仮の姿がああなったのかは作者も知らない(当時のノリと勢いで決めました)




