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第二項 刺激が足りない(第36話)

第一部 新世界の産声編 第二章 英雄達の新世界紀行 第二節 平原の遊牧民

 ここでの生活は実に平穏であるが、些か刺激が足りないと思っていた。


 そんな我の無聊を慰めるような存在が居るらしい。


 話に聞いたところによると、宇宙人という種族がいるとのことだ。


 つい先日に禿頭の男から聞いた種族の話で詳しいことまでは分からなかったが、遥かなる空の果てより来訪せし者達の総称らしい。


 我とてあの先に何があるものかと若かりし頃に挑んだことがあるが、草原に居たのとはまた違った妙な魔物が出てきた程度であったな。


 無論、いくつかの星は見つけはしたがどの星も生物が息づくような環境ではなかった。


 にも関わらず、禿頭の男の言から判断するだけでも複数、それも知性ある存在が確かに居ることがわかった。


 宇宙人、実に興味深い存在だ。久方ぶりに我の好奇心が刺激されている。


 あの妙な魔物は鬱陶しいだけであったが、宇宙人か。


 名称からして人族の一種なのだろうが、空の果てからやってきた人族とはどのような者達なのか。


 一度でもいいので会って話がしてみたい。


「長よ。どこに行けば宇宙人というのに会える?」


「宇宙人、ですか?」


 我が問うと、長は今まさに目の前にいると言いたげな視線を寄こしてくる。


「言っておくが、我は宇宙人ではないぞ。我の出身地は知っておるだろうに」


「それはこの目で見たわけではないので……それにしてもドルさんから宇宙人という単語が出てくる以上は本当に宇宙人というわけではないようですね」


「我は龍種だ。宇宙人とやらではない」


「はあ、龍……ですか?」


「聞いた事が無いのであろう? 先日、禿頭の男も言っていた」


「禿頭の? ああ、彼ですか。あれでなかなか知見の広い者なんですがね」


「そうらしいな。それで、どこに行けば会えるのだ?」


「そうですね、まず結論から言うと難しいと思います」


「そうか。理由を聞いても?」


「はい、現在の我々――人類側と宇宙人、正確には異星人ですが。彼ら側とは非常に複雑な関係にある為、この星に居た異星人達は全て宇宙の方へ避難しています」


 異星人。なるほど、異なる星の人種か。


 それにしても、複雑な関係とはどういうことだ? 少なくとも良好な関係ではないようだが、現在この地上に異星人は居ないようだ。


「複雑な関係か……いや、それだと我を異星人と判断した理由は何だったのだ?」


「正直、彼らであればこっそりと地上へ降りていても不思議ではないもので……本当に違うのですよね?」


 つまり、異星人とやらは地上と空を容易に行き来が可能だ、と。


「うむ、正真正銘、我はこの大地の生まれであるぞ?」


 正確には生じたと言う方が正しいのだろうが、まあ大差はあるまいて。


「正直信じがたくはあるのですが……信じましょう。それで、宇宙人に会いたいとのことですが、地上での可能性として挙げられそうなのは海上都市でしょうか」


「ほう、海上都市とな? それはもしやイグレイシアの事か?」


 もとは海底都市であったが、数百年ほど前の地殻変動によって海上へと浮上した都市があったはずだ。


「いえ、マリンハーバーという名の都市です。一時は異星物によって滅びましたが、現在はかなり復興が進んでいるそうです」


「む、滅んで復興した? そのような都市があったのか? しかし、そのような陳情が上がってきた覚えはないが……」


「あそこは貿易拠点でもありましたからね。異星物から取り返した後はすぐに復興に取り掛かったとか」


「ほう、貿易拠点か。さぞかし栄えているのだろうな?」


「はい、世界中の人と物が集まる場所と言われる程ですよ」


「それ程のものか……よし、決めたぞ。我の次の目的地はそこにしよう」


「おぉっ、それはいいですね! あ、いえ、寂しくなりますね……」


「そういうのは取り繕わぬほうが良いと思うぞ?」


 少なくとも我は気にせぬしな。


「それもそうですね。いやほんと、実に喜ばしいですね!」


「うむ、それでよい。ところで相談なのだが、海上都市とやらへはどの方角にあるのだ?」


「ああ、それでしたら後程、地図を差し上げますよ。ドルさんのおかげで力仕事が予定を大幅に超えて捗りましたからね」


「それはありがたい。あー、それと、長の母君の事だが……」


「母ですか? 私の母は私が幼い頃に亡くなっていますが?」


「む? では、長老は……」


「祖母ですよ! 私、そんなに老けて見えますかねぇっ!」


 さて、どうなのだろう……うむ、わからんな。


「あー、すまぬな。我は少しばかり人の年齢の見分けが苦手でな」


「少し……? おほんっ、まあ、長老……祖母に関しましては当人が納得しているようなので、もう良いです」


「む、そうか」


 それは良かった。


「ええ、おかげさまで、すっかりと若返ったようで私の叔父か叔母を産めそうだと笑っていましたよ。もし出来たら年下の叔父か叔母ですよ。私はちっとも笑えませんが」


 良かった……のか?


「あー、長は確か独身であったか。まあ、つがいを持つのは生けるものの務めであるからな。精進するがよいぞ」


「ええ、そうしているつもりなんですがねぇ……」


「あー、なんだ。よかったら長も我と共に海上都市とやらへ行くか? 世界中の人が集まるのなら運命の出会いとやらがあるやもしれぬぞ?」


「何を馬鹿な。私がここを離れることなどできるわけ……いや、長老が若返った今なら……?」


 半ば冗談交じりに言ったことなのだが、長にとっては割と現実的な話であったらしい。


「我は何時でも出立することはできるからな。ゆるりと考えると良いぞ」


 異星人とやらには会いたいが、そこまで急ぐほどのものでもないしな。


 が、長はそうは思わなかったらしい。


「いえ、行動は早い方が良いです。早速長老に打診してきます! 出会ってすぐに結婚というわけにもいきませんからね!」


 そう告げると共に、長は走り去ってしまった。


「う、うむ、そうか」


 まさかそこまで異性との出会いを求めてるとは思わなんだ。


 後に知ることとなるのだが、長の年齢は男性としてはとうに結婚適齢期を過ぎているのだそうだ。


 具体的な年齢に関しては長の名誉の為に黙っておくこととする。

龍王様は人の名前を覚えるのが苦手です(他者を役職名で呼ぶ理由)

龍王様の過去話で何らかの役職名が出てきた時はだいたいその界隈における有名人や第一人者です

名前を覚えるのが苦手な理由は他者の区別を外見ではなく魔力で視ている為で、魔力の少ない種族は皆同じ様な顔に見えています(※人の視点で例えるなら蟻の個体判別が難しいのと同じ)

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