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第一項 砂上都市の生活(第31話)

第一部 新世界の産声編 第二章 英雄達の新世界紀行 第一節 砂漠の都市群

アルバート視点

 救助されてから一週間が経った。


 砂上艦の主であるクレア=パトラクという女に救助という形で保護されたことになったんだが、滞在費などは「自分で稼げ」と言われたので仕事をしている。


 クレアの持ち物だという砂上艦だが、驚くことに都市としても機能しているようだ。


 これだけの大きさで砂上を往き、都市機能まで備えた艦は見たことがない。


 クレア曰く、自慢の一品だそうだ。


 こうして現物を見たからこそ実感できているが、異世界云々の話もあながち馬鹿にできたもんじゃねぇな。


 クレアが言うには世界が繋がったか融合したかのどちらかだろうとの事らしいが、俺としてはこうして生きているだけで十分だ。


 もう二度と大気圏突入なんて真似はしたくねぇな。あれは生きた心地がしなかった。


 それはそうと、今の俺は金を稼ぐために働いているわけだが、この艦上の都市で使われている技術はなかなか面白い。


 魔導科学と言うそうだが、大気中に存在するエネルギーを燃料に物を動かしたり、火、水、風と言ったものを生み出すことが可能な技術だ。


 技術自体の歴史はまだ浅いそうだが、この艦にはそれがふんだんに使われているらしい。


 俺のできそうな仕事という事で機械関係の点検修理を申し出たところ、これらの物を見せられた時は面食らったもんだ。


 科学的な面では時代遅れもいいところだが、動力の基となる魔力回路とやらが面白くてしょうがない。


 回路の形式自体は用途と法則性さえ理解してしまえば簡単なもんで、俺でもすぐに習得できた。


 この魔力というエネルギーの良いところは自然界なら大体どこにでも存在するってのと、燃料タンクを必要としないっていう点だな。


 薄い鉄板に魔力回路を刻むだけで超薄型のホットプレートが作れたのには驚いた。


 たまたま様子を見にきていたクレアに見せたら気に入ったのか、それなりの額で買ってくれたな。


 今後、何かを作る時は必ず自分に言えとも言われたが、余程気に入ったんだな。


 この技術の難点は回路に使う塗料がべらぼうに高い点だな。


 まあ、その恩恵を考えると妥当っちゃ妥当なんだがな。


 どうせなら相棒に魔力回路を導入しようと思ってるんだが、とんでもない額になりそうなので断念した。


 何かでかい仕事でもできりゃいいんだが、大抵の仕事は一般家庭の家電の修理が大半だ。


 この都市の人間にしてみたら俺の存在は新参者となる為、あまり大きな仕事はさせてもらえないってのが現状だな。


 今やっている一般家庭の家電の修理も科学面での技術者が少ないおかげで成り立ってるようなもんだしな。


 というのも、魔導科学の科学面に用いられている技術は俺からしてみたら単純なものが大半だ。


 この都市に住んでいる技術者達にとってはこれが最新とのことだ。


 正直、機械いじり的な意味での物足りなさを感じてはいるが、魔力回路を覚えるのが楽しいので良しとしておこう。


「よし、こんなもんか。奥さん、修理が終わったから確認してくれるか?」


「はぁい、今行きますねぇ」


 おっとりとした口調と共にやってきた女性が修理したばかりの調理機器を操作して確認を始めた。


 この奥さん、人妻にもかかわらず他所の男(俺の事な)を前に薄着に加えて下着すらも着けていないと言うなかなかに挑戦的な格好をしている。


 この砂上艦、魔導技術の恩恵で外よりも暑さは和らいでいるのだが、日差しはそのままなので暑いことに変わりはない。


 だからこその格好なのかもしれないが、いくら暑いとはいえ、流石にこれは酷い。


 こちとら妻一筋なのに加えてもういい年だからそういう気が起きないが、他の男だったら危ないかもしれない。


 ……あとでアーノルドの奴にそれとなく注意しておこう。


 そう、この人妻、アーノルドの嫁である。


 そういえば、この都市の人間は褐色肌の者しか居ない。


 肌の色なんてのは多彩なのが当たり前で今まであまり気にしたことがなかったが、周囲の者全員が褐色肌一色ともなると多少は気になる。


 かくいう俺もオアシスの生活による日焼けのおかげで似たようなものなんだが、ここの住人の肌色は生来のもんだ。


 クレアの奴も例外ではなく褐色だったな。


 ああ、クレアで思い出したが、この街は美男美女しかいない。


 それもこれもクレアの趣味だそうだが、その筆頭たる者がクレア自身ってのがまた業が深い。


 自称ではなく世界的に絶賛されるほどの美女なのだそうだ。


 まあ、確かに美人だとは思うが、絶世の美女かと言われるとどうなんだかな。


 人様の美醜なんてのは気にしたこともねぇからなぁ。


「……うん、問題はないみたいですねぇ。ありがとうございましたぁ」


「ああ、どこが悪かったかの説明は要るか?」


「いえー、私、こういうのはちっともわからないので結構ですぅ」


「そうか。一応、修理代はこんなもんだな」


 仕事用に使っている端末で料金を表示すると、それを覗き込んだ奥さんが不思議そうに首を傾げた。


「はいはい、えぇっと、あら、お安いのねぇ」


「一応、この街の基準ってのに合わせてるんだけどな」


「あぁ、お兄さんは外来者でしたっけぇ」


 そう、外来者ってことで基本給金が低めなんだよな。仕方がないとはいえ世知辛い。


 しかし、この歳になってお兄さんなんて言われたのは初めてだ。


「お兄さんなんて年齢じゃねぇんだけどな」


「あらぁ、そうなんですかぁ?」


「ああ、もうすぐ六十になる」


「えぇ? てっきりもっとお若いのかと思ってましたぁ」


「ま、人種が違うからな。外国の人間の年齢がわかりにくいのと同じなんだろう」


 かくいう俺も、この街に住む者達の年齢は見た目から判断できない。


 アーノルドはあれで三十代後半だと言っていたから、実年齢よりも若く見える傾向にあるのかもしれない。


「あー、なるほどぉ。外来の方は初めて見たのでよくわからないんですけど、そういうものなんですねぇ」


「そういうこった。じゃあ、仕事も終わったからこれで失礼する」


「あ、はいー、ありがとうございましたぁ」


 アーノルドの家を後にし、次の依頼人の元へと向かう。今日はあと五件ほど仕事が来ている。


 街の中の移動には自動二輪を借りて使っているのだが、こいつがなかなか仕事との相性が良い。


 積載能力に長けた種類の自動二輪は俺にとっては珍しく感じるが、この街では割と主流な方らしい。


 そもそもこの街の主な移動手段は艦内を通る鉄道のような巡回車両であり、自動車はあまり見かけない。


 流通なんかもこの巡回車両が担っている為、そもそも自動車の出番がないというのが実情か。


 まだ一週間しか暮らしてはいないが、こうして暮らしていると、これはこれでなかなか上手く回っているというのがわかる。


 現在、この砂上艦はとある場所に向かって進んでおり、そこで所用を済ませた後は海上都市と呼ばれている街に向かう予定だそうだ。


 その海上都市ってのはクレア曰く、最も世界融合の影響を受けた街だそうで、おそらく俺も知っていた街であろうという話だ。


 なんだか不安になる物言いだったが行けば分かるとのことだ。


 見せてもらった地図上では確かに俺も知っている都市があった場所だったが、あの辺りは一度、海が干上がった影響で街ごと投棄された経緯があったはずだ。


 その事はクレアにも言ったが、やはり行けば分かると言われた為、従うしかない状況だ。


 実際、このような状況だと自分の目で見ない限りは判断のしようがないからな。


「それにしても、これでお安い、か」


 外来者という事もあって、俺が要求できる給金は低めに設定されているが、かといって生活に困るわけでもない。


 滞在している宿や自動二輪の貸出料を差し引いても日々の食事は充分に摂れているし、この一週間で不便だと思ったことは一度もない。


 物価が馬鹿みたいに高いという事もなく、俺の給金でも普通に生活して尚且つ多少は余るくらいの金がある。


 ではこの街の人々は何に金を使っているのかという疑問に至るわけなんだが、その答えは主に贅沢品だ。


 主だった物は貴金属品や衣類、化粧品などの中でも特に高価な物が主で、これがべらぼうに高い。


 もちろん、法外な値段というわけではなく、どれもこの街でしか手に入れることができないことに加えて不思議な効果まである。


 ちょっと見せてもらった物なんかだと、指輪に込められた魔力を使って銃弾を弾いたりしていた。


 とても俺には手の出せる料金じゃないが、見る分にはなかなか面白い。


「ま、しばらくはこの街で色々と学ぶとするかね」


 金の問題で相棒の改修は一度断念したが、なにも諦めたわけじゃない。


 ここで魔導技術をできる限り学んで、無事に戻ることが出来たら個人資産をおろして思う存分相棒を改修してやろうと思っている。


 いや、なんなら昔の相棒を復活させるという手も有りか……?


 とにかく、学ぶ機会があると言うのは良いことだ。


 あの戦争を最後に軍は引退するつもりだったからな。


 貯金は十分にあるが、相棒の改修を考えると心許ないから、帰るまでに何か商売のタネを見つけておかねぇとな。


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