表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/102

第二項 機械トラブル(第32話)

第一部 新世界の産声編 第二章 英雄達の新世界紀行 第一節 砂漠の都市群

 いつものように仕事を終えて宿へ戻る最中、連絡用にと渡されていた携帯端末が電子音を響かせた。


「ん? 珍しいな」


 電子音が奏でる音楽は相手によって変わるんだが、それは珍しいことにクレアからの物だった。


 端末の画面にもクレアの名前が表示されている。


 というか、クレアから直接連絡が来たのは初めてだ。


 あいつ、用事がある時は大体人を寄こしてくるからなぁ。


 自動二輪を路肩に止めて、通話状態にして応答しようとすると、こちらが声を発する前に向こうの声が来た。


『問題が起きた。汝の力を貸して欲しい』


「そりゃ構わねぇが、どこに行きゃいいんだ?」


『ひとまず余の館まで来てくれぬか?』


「わかった。すぐに行く」


 声音は普通だったが、どこか焦っている様子だったな。珍しいこともあるもんだ。


 俺は自動二輪の向きを変えると、クレアの館の方へ向けて走らせた。




 そうしてクレアの館まで行くと、いつもなら屋敷の中で出迎えるはずの執事が外で待機していた。


「よほど急ぎの用事らしいな?」


「はい、クレア様がお待ちです。こちらへ」


「わかった」


 何が起こったのかさっぱりわからねぇが、俺を呼んだってことは機械関係か?


 まあ、とりあえず行けば分かるか。


 執事の後に付いて行くが、いつも通りクレアの部屋へ向かうわけではなく、なぜか地下へと向かい始めた。


「ん? 地下に何かあるのか?」


「はい、この下には、この艦の動力炉があります」


「動力炉に何か問題があったのか? 砂上艦は普通に動いてたと思うが」


「アルバート様は、この艦がどれほどの物かはご存じですか?」


「ああ、最新鋭の砂上艦なんだろ? それがどうかしたか?」


「はい、この艦は運航を開始してからまだ一年も経っていません」


「随分と真新しいんだな」


「はい、完成次第、試運転なしに引き取ったものなので」


「なるほどな、初期不良でも起こったか?」


「どうやらそのようで、魔力回路と動力炉の齟齬が出ているらしく、暴走状態に陥っています」


「あー、どうなってるのかは見てみないとわからねぇが、最悪この艦ごと大爆発だな」


 これだけでかい艦の動力炉なら低く見積もってもその程度の被害は出るだろうな。


「なので、クレア様も現在必死で魔力回路の調整を行っております」


「で、俺には動力炉の方を見て欲しいと」


「はい、そうなります」


「報酬は出るんだよな?」


「はい、言い値で払うと言っておられました」


「よし、任せとけ」


 言い値で払うとは金持ちらしい言い分だが、流石に馬鹿みたいな額を要求する気はない。


 ちょうど相棒の改修をしたいと思っていたところだ、それくらいの額はポンと払ってくれるだろう。




 妙な格好をしたクレアの傍で動力炉の調整を軽く済ませた後、疲れた様子のクレアから謝礼の言葉と共に金は後日という事で追い返された。


 あのドレスなんだかよくわからん妙な格好の意味は分からなかったが、あれはあれで必要な事だったらしい。


 ああ、あとはあれだ。なぜか頭頂部に猫のような耳が生えていたな。あれも必要な事だったんだろうか?


 で、その翌日でもある本日、クレアの呼び出しを受けて館までやってきた。


 今日はいつも通りの出迎えを受け、クレアの部屋へと通される。


「よう、元気か?」


 最初のお目通り以外は大抵だらしなくくつろいだ様子で出迎えるクレアだが、今日は昨晩の疲れが残っているのか、いつも以上にだらけた様子だった。


 クレア曰く、最初のあれは大物感を出すことで初対面の相手に侮られないようにする為の演出だったそうだ。


 今は御覧の有様だが、それもこれも俺にそういうのが通用しなかったせいだとか。


 まあ、少なくとも迫力だけならうちの軍のやべぇ奴らとは比較にもならないわな。


 具体的には獅子と子猫くらいの差がある。


「うむ、昨日は助かった。礼を言うぞ」


「執事から聞いたが、試運転も済んでいない艦を走らせていたんだって?」


 普通は異常の有無を確認する為にその程度の事はするもんだ。


 今回の異常だって動力炉の出力を見ていればすぐに気づいたはずだ。


 そもそも機械の簡易な点検程度は毎日行うものだ。


 当然、魔導技術だって例外ではないはずだ。


 一応、それらしいことはしていたようだが、点検するのとただ見るのとでは意味合いが異なる。


「建造に時間が掛かり過ぎなのだ。金はいくらでも出すと言うのに期日を守らぬ方が悪い」


 クレアがこの様子だと、この艦に備えられている機器類はほとんどが試験すら済んでなさそうだな。


 そもそも、街一つ乗っけている艦に乗り込んでいる技術者がほんの数名だったってのがおかしい。


 少ないとは聞いていたが、数えるほどしかいないと聞いた時はおもわず倒れそうになった。


 この規模なら百人いても足りねぇんじゃねぇか?


「無茶な事させやがる……金がいくらあっても、人材ってのは有限なんだぞ?」


「そのツケはしっかりと払わされたがな……さすがの余も肝が冷えた」


「あわや大爆発ってところだったからな」


 むしろ今まで平気だったのが信じられない状態だったからな。


 危うく俺まで巻き添えで死ぬところだった。


「まったくだ。次からは有能な人材を集めてから建造にかからせるとしよう」


 堪えてないのか? いや、流石に冗談か。冗談だよな?


「まあともかく、今回の件、金は言い値で払うんだったよな?」


「うむ、いくらでも出そう。いくら欲しい?」


 マジか。金持ちこえぇ。


「さらっと言うじゃねぇか……とはいえ、具体的にどれくらいかかるか分からねぇから、あとで請求してもいいか?」


「む? 何に使うのだ?」


「相棒の改修をしようと思ってな。あの通り、間に合わせの修理しかできてねぇからな。それと魔力回路を組み込んでみたい」


「ほう、あの人型か。やはり売ってはくれぬのか?」


「軍の備品扱いだから無理だ」


 それに愛着もあるからな。戻ることが出来たら軍に掛け合って退職金代わりにもらう予定だ。


「むぅ、余もあれが欲しいぞ」


 俺が言うのもなんだが、そこまで欲しいもんかね?


「おもちゃじゃねぇんだぞ? まあ、買おうと思えば買えるだろうけどなぁ」


「なにっ!? まことかっ!?」


「ああ、戦争も終わったし、使わなくなった旧式の物なんかは馬鹿みたいに市場に出回ると思うぞ?」


 正直、一部の旧式の機体なんかは骨董品もいいところだからな。


 状態にもよるが、最悪、同じ重さの鉄くずと同じ程度の価値しかつかない場合だってあり得る。


 ましてや戦争の後ともなると出回る物の大半はぶっ壊れてるだろうな。


「余は最新のものが良いぞ!」


 なんとなくそうなんじゃないかと思っていたが、こいつ新しいもの好きってやつだな?


 とはいえ、最新の機体を個人が入手するには敷居が高いからなぁ。値段的な意味で。


 特に兵器なんてのは個人向けだと値段や条件がかなり厳しめに設定されてるからなぁ。


「それは難しそうだが、メーカーに掛け合えばできないこともないか……?」


 メーカーによっては請け負ってくれそうな所もある業界ってのがまた闇深いが、兵器や武器を売ってるところは割とそんなもんか。


「オーダーメイドもできるのかっ!? 余専用の物ならばなお良い!」


 そうだった。こいつは自分専用の砂上艦を作らせるような奴だった。


「言っておくがあれは立派な兵器だからな? ただ金を積めば良いってもんじゃねぇぞ?」


 一応、法的な手続きだってある。もっとも、あんなもんは有って無いようなもんだが。


「うむ、分かっておるとも。余としては乗り物としての機能があれば問題はない」


 乗り物としての性能なら自動車の方が良いと思うんだが、そういう問題じゃないんだろうな。


 しかし、人型起動兵器をただの乗り物扱いか。


「まあ、武装を解除しておけばできないこともないが、それに何の意味が……いや、ありか?」


 こいつみたいな金持ちは結構いるらしいからな。


 そういう客層に需要があるなら新しい仕事として成立するかもしれないな? いや、早計か?


 機動兵器の模型や人形なんかが良く売れてるって話だし、金持ち向けのオモチャと考えればよさそうだな。


 武装関係もガワだけ整えた物を持たせれば猶更それっぽいだろうしな。


 ま、今はとりあえず候補に入れておくだけとするか。


「汝はそういうのに詳しいのであろう? どこか良さそうな所を余に紹介せよ!」


 確かに幾つかのメーカーには伝手があるが、果たしてこいつを紹介してもいいものか。


 ……まあ、大丈夫か。むしろ太客がついたと喜びそうだ。


「そうだな。無事に帰ることが出来たら良さそうな所を紹介してやるよ」


「絶対だぞ! 絶対だからなっ!?」


「わかったわかった」


「ところで、汝のアイボウとやらを改修するのなら、余が魔力回路を刻むのを手伝ってやっても良いぞ?」


「いや、お前は手伝いにかこつけて触りたいだけだろ」


「それもあるが、魔力回路の大型化は素人が易々とできるものではないからな。しかし、余ならば手伝うことが可能だ」


「なに? ただ大きくするだけじゃあ駄目なのか?」


 技術としてはお手軽な物だと思っていたが、案外そうでもないらしい。


「うむ、魔力を持たぬ者に大型の魔力回路は刻めぬのだ」


 理屈がわからんが、嘘を言っているわけでもないようだな。


「魔力ってのは誰もが持ってるもんじゃねぇのか?」


「では聞くが、汝の世界に魔力はあったか?」


「それを俺に聞かれてもなぁ。まあ、魔力回路なんてもんはなかったから、無いと考えるのが妥当だな」


 強いて言うなら異星人の技術にそれっぽい要素があったが、あれはまた別口だろう。


「であろうな。そしてそれが答えでもある。生来より魔力を持つ者は魔力を視ることができるのだが、汝には視えて居らんのだろう?」


 そんな物は見えたためしがねぇな。


「視えないな。魔力回路が光るのとはまた違うんだろ?」


「うむ。魔力回路が光を発するのは魔力を持たぬ者にも視えるようにするためであるな」


「だからどの魔力回路にも発光の記号が入ってんのか」


「そういう事であるな。だからこそ余の協力は必要不可欠というわけだ」


「しょうがねぇなぁ。許可なく乗り込んだりなんでも触ったりしないと約束できるか?」


「うむ! 心得ておるぞ!」


「じゃあ、さっそく打ち合わせと行こうか。そこそこ大掛かりな作業になるぞ」


 やるなら早い方が良い。


「おおっ! 胸が躍るなっ!」


 クレアが乗り気過ぎるのが不安だが、まあ、なるようになるだろう。


 待ってろよ相棒、今度はちゃんと直してやるからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ