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第一項 終決からの異変(第25話)

第一部 新世界の産声編 一章 交差する世界 第五節 英雄達の凱旋

複数の登場人物の視点で進みます

『○』で視点変更

 各世界での戦いと世界の融合は、同時に終わりを迎えていた。


 戦いを生き抜いた英雄達は、其々の想いを抱えながら帰還の途に就いていた。


 世界が融合したその日、その異変に気付いたのは、たったの三人であった。



〇



 最初に違和感を覚えたのは、魔女との戦いの為に現場復帰していた、とある魔法少女だった。


 彼女達の戦いは元組織の魔女達が全員倒されたことによって、旗頭を失った残りの魔女達も投降したことにより、終決を迎えていた。


 戦後処理という事で、現場経験が豊富であった彼女が陣頭指揮を取って居る中、唐突に得も言われぬ異変を感じた。


「んっ? 今、なんか……?」


「どうしたの桜?」


 藤堂桜の呟きを聞き取ったのは元同僚の友人で、こちらもまた現場復帰していた魔法少女が尋ねる。


 そちらの方へと振り返りながら、桜は確認するように友人へ問うた。


「ねぇ、今なんか変な感じがしなかった? 何か、こう、空気が変わったっていうか。ぞくっとしたっていうか」


 桜の質問に対して友人は訝しげに問い返した。


「別に平気だけど、なに? また妊娠したの?」


 藤堂桜、元魔法少女であり、大恋愛の末に十代最後の歳で現在の夫を婿養子に迎えて結婚し、現在は七児の母であった。


「なんでそうなるのっ!?」


 思い当たる節はあるものの、そういう問題ではないと顔を赤くしつつも桜が言い返した。


 それに対して友人はしれっと答える。


「あんたが長女を妊娠した時に、今と似たようなこと言ってなかったっけ?」


「それは……言った気がするけど、あれはあの子が特別だっただけで――じゃなくて! 本当に何も感じなかった?」


「別に感じなかったけど……なに? 本気でやばそうな感じ?」


「そんなことはないけど、なんだろう。何かものすごいことが起こっている気がする」


 漫然とした言い方ではあったが、桜の直感が並外れた物だという事を理解している友人は、思わず顔をしかめた。


「ものすごい事って、ずいぶんと大きく出たけど、本当に大丈夫でしょうね?」


「多分、悪い事じゃないと思うんだけど……なんでだろう。すごく、どきどきする」


「……やっぱり、妊娠してるんじゃないの?」


「だから違うってば!」


 なお、これより一月後には双方妊娠していたことが発覚する両名であった。



〇



 次いで異変を感じ取ったのは、宇宙での決戦を終えて艦隊へ向けて帰投中の主力部隊の一人だった。


「おい、落ち着け。お前は悪くねぇって」


『ですがっ、私を庇ったせいで隊長のお父上がっ……』


 彼は決戦時において陽動部隊側の主力として出撃していたエースの少女を慰めているところであった。


 敵の本拠点たる母艦を粉砕した後、部隊と共に壊れ行く敵艦を脱出した彼が聞いたのは、実の父親の戦死報告であった。


 彼の父親は若かりし頃は影のエースとして活躍していた狙撃手であり、現役引退後はテストパイロットを経て整備班へと落ち着いていた。


 そんな彼の父親が出撃しなければならないほどに人類側は追いつめられていたが、決死隊とも言える彼らの活躍によって劇的な勝利をもぎ取っていた。


「お前がどんなに嘆いたって、親父は戻ってこねぇよ。そんなことより、お前は親父が救った命なんだ。大切にしな」


『……はいっ』


「ちゃんと帰投しろよ。艦に戻るまでが戦争だ」


『はいっ、隊長達の帰還をお待ちしております!』


「では、通信は以上だ。よく生き残ってくれた」


『はいっ、失礼します――』


 通信が切れたのを確認し、部隊を率いていた彼――アルフレッド=ダグラスはパイロットシートに身体を預け、絞り出すように呟いた。


「親父の馬鹿野郎が、死ぬなって言ったじゃねぇかよ……」


 報告によれば、彼の父親であるアルバートは陽動作戦の最中、例の化け物――コードネームをエヴォルと呼ばれている存在との戦闘に突入。


 エヴォルの狙いが自身にあることを知っていたと思われるアルバートは作戦の邪魔にならぬようにデブリ帯へとエヴォルを誘導することに成功。


 エヴォルとアルバートの戦闘は拮抗しており、陽動作戦の障害となり得たエヴォルの拘束によって作戦は順調に進行。


 作戦終盤に第三主力部隊のエースであるメルデナがアルバートの援護へ向かうも、エヴォルの攻撃を受け中破。


 エヴォルの攻撃からメルデナ機を庇い、アルバート機が大破するも相打ちという形でエヴォルの撃破に成功。


 メルデナの乱入により戦闘域が大気圏付近へ移行しており、大破したアルバート機はエヴォルと共に大気圏へ突入。


 メルデナ機は救助を試みるも、アルバートの説得により自力で帰還する。


 アルバート機の反応は大気圏突入から五分後に途絶えた。


「畜生が、最後まであの化け物に執着しやがって……?」


 父親の最後を想い、彼が落ちた星に視線を向けたところで、アルフレッドは訝しむ。


「……俺達の星って、あんなに青かったか……?」


 視線の先にある星は、異星物の侵略によって荒廃していたはずであったが、そこには青々とした美しい星が輝いていた。



〇



 最後に気付いたのは、結社の壊滅に乗じて仲間を救っていた一人の戦士だった。


「む、なんだ?」


「ウララ、どうした」


 異変に気付いて声を上げたのは、異国から子供達を救う為にやってきた三兄弟の一人である女戦士のウララだ。


 そんな彼女の声に反応したのが三兄弟の長兄であるグララだった。


 この場にはいないがもう一人、末弟のゼララを合わせた三人は結社に攫われた子供達を救う為に結社に取引を持ち掛けていた。


 それは、自身らの身を実験台として差し出し、子供達を見逃してもらうと言うものであった。


 偶然その場に居合わせた結社の首魁の指示により、ウララ達は怪人化の実験体となり、その身を怪人へと変えられた。


 怪人化によってウララは辛うじて自我を失わなかったものの兄と弟は暴走状態に陥り、結社の施設を破壊して暴れ回った。


 その場に居合わせた子供達を守るために、ウララは応戦した。


 しかし、二人を同時に相手どれるほどにウララは強くはなく防戦一方だったが、そこに思わぬ助けが入った。


 それは漆黒の鬼だった。


 後にウララ達が知ることになるその者こそが悪鬼と呼ばれている結社の怨敵であり、三兄弟にとっての命の恩人である。


 悪鬼に助けられたウララと兄は彼に恩義を感じ、弟は己が助けられたことを恥じていた。


 ウララは悪鬼に惚れ込み、ついていきたかったが、攫われた全ての子供達の安否がわからなかったため、断念した。


 以降、ウララ達は別行動を取り、結社の施設を襲撃しながら子供達を助けていった。


 弟は悪鬼に何度も戦いを挑んでは返り討ちに遭っていたようだが、悪鬼は特に気にしていないようだった。


 馬鹿め、お前なんかが悪鬼に敵うわけがないのに。本当に馬鹿な弟だ。


 ともかく、ウララ達はその後も子供達の救出を続け、結社の最期である今日、ようやく全ての子供達の安否を確認できた。


 中には助けられなかった子供もいるが、大半の子供達を救うことができた。


 それもこれも、悪鬼がウララ達を助けてくれたおかげで――


「――ラ、おい! ウララ!」


「なんだ?」


「また悪鬼の事を考えていたな?」


「そんなことはない。それよりグララ、何かおかしくないか?」


「おかしい? 何がおかしい?」


 おかしいのは眼前の前に広がっている光景なのだが、それを説明する言葉をウララは知らなかった。


「わからん。だが――ここはこんなにも自然に溢れていたか?」


 ウララ達が最後に突入することになった結社の本部は、ゴミ捨て場の地下に秘密裏に作られていた。


 それなのに、基地の崩壊からどうにか逃れて外に出てみたら、ゴミの山はすっかりと消え失せて花々の咲き乱れる高原へと変わっていた。


 悪鬼と結社の首魁との戦いは時空が歪むほど壮絶な物だったそうだが、それが原因でこうなったのか?


 そんなウララの想像を他所に、グララが断言した。


「何を言っている。ここは元からこうだっただろう」


「なに? グララこそ何を言っている。結社の本部に突入する前、ゴミの山を見て絶句していただろう」


「確かにそんなものを見たら絶句するだろうが、俺はそんなものを見た覚えはない。それよりも早く行くぞ、ゼララと子供達が待ってる」


 そう言うと、グララは先に行ってしまった。


「これは、どうなっているのだ……?」


 ウララの疑問に対し、答えを持つ者はその場にはいなかった。



〇



 各地で異変に気付く者が居る一方で、それが可能な資格を持ちながらも気づけなかった者もいた。


 その者は、とある統一国家の執務室で大量――否、膨大な量の書類の処理に追われていた。


 王が出奔してから、ずっとこの作業に追われていたのだ。


 と、そこへ文官の一人が更なる大量の書類を抱えてやってきた。


「国王代理! 次の書類です!」


 追加の書類に対して一瞬殺意を放つも、それを持ってきた文官が悪いわけではないので思いとどまる。


 むしろ彼は手伝ってくれている立場なので、感謝こそすれど、怒りをぶつけるわけにはいかない。


「……そこに置いておいてください! あと国王代理ではなく宰相です!」


「はっ! 失礼致しました!」


 文官が去るなり、宰相は再び書類の処理に取り掛かりながら、王国随一と云われている美貌を歪め、呪詛を吐いた。


「くっ、書類の数が多過ぎる……! と言うか、どうでもいい問題が多過ぎる! こんなもの国王が判断するようなものでもないでしょう!」


 明らかに下の方で処理されてしかるべき書類が大量に紛れ込んでいた。


 なんだったら財務省や文部省など、他の部署で処理して然るべき物まである。


 これを難なく処理していた王には驚嘆した宰相だが、同時に配下――否、もはや配下ですらない下々の腐敗具合にも驚嘆していた。


 いっそ関係者全てを粛正してやろうかと行動に移しかけるも、その程度では生温いと思い直し、こうして処理すべき書類を相手取って奮闘している。


「……まずは仕事を奪う所からだな。その後は少しずつ居場所を奪って行けばいい。ククク……」


 陰湿な笑みを浮かべながら、宰相はこれから起こるであろう【お楽しみ】に想いを馳せる。


 後日、王国城内で要職を含む人員が上から順にじわじわと入れ替わっていくという珍事が起こったとか。


 そして、見せしめかのように辞した要職達の御家が急激に没落していき、世界各地に配属されている知事達は一層仕事に励むようになったとか。


駄目かも

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