第四項 謎の部族との遭遇(第24話)
第一部 新世界の産声編 一章 交差する世界 第四節 密林での生活
「ようやく見つけた」
大樹を中心とした周囲の捜索を始めて三日目、ようやく自分以外の人の痕跡を見つけた。
変身できるようになったとはいえ、空を飛ぶと目立ちすぎてしまう為に禁止として、地道に徒歩での探索だった為にこれだけかかってしまった。
早い方ではあるのだろうけど、こういうのは慣れていないとだめね。
私達の世代の魔法少女は黄金の世代だなんて言われているけれど、こういう時にはあまり役に立たない。
戦闘能力特化の世代でもあった為、未だに組織の最大戦力だなんて言われてもいる。
特に私と同期を含む四人が黄金の世代の中でも突出した戦闘能力から、良くも悪くも有名になってしまった印象がある。
有名になったせいか、自分達がアニメ化された時などは恥ずかしさのあまり悶絶したものだわ。
……今思い出しても恥ずかしい。
いや、それはともかく、人の痕跡を見つけたのだったわね。
見つけたのは火を起こした跡と、土を掘り返した跡だ。
土の乾き具合から、あまり時間は経っていないように思われる。
火の跡にも熱が残っているから間違ってはいないはず。
ただ、どの方角に移動したのかがわからない。
私が来た方向ではないことは確かだけれど、せめて他に痕跡はない物かしら?
「あら?」
よく見ると、足跡が残っていた。
素足なのか、人の足跡と、もう一つ、大きな獣のような足跡が同じ方角へと続いていた。
さすがに足跡の時間差までは分からないけれど、せっかく見つけた足跡が獣が原因で失われるのは困る。
「少し急いだ方が良さそうね」
痕跡の捜索こそ時間が掛かったけれど、ある程度のあたりがついているのなら、追いつくのは容易い。
変身時間はまだ十分に残っている。
足跡が続く方角へと向けて、私は飛ぶように駆け出した。
密林の中、雑多に生えている木々は何かを探し歩く分には邪魔でしかないが、その必要がなくなった今となっては大した障害にもならない。
魔女との戦闘は魔法の打ち合いによって生じる濃い弾幕を搔い潜らなくてはならない。
それに比べたら密林の木々程度は動かない上に隙間だらけなので、目を瞑っていても大丈夫なくらい。
足跡を追いかけること数分、遥か前方の木々の合間に歩く人影と、それに寄り添うように歩く大きな獣の姿を捉えた。
「よかった。敵対はしていないみたい」
少し速度を緩め、ほどよく追いつける程度の速さで接近していく。
近づくにつれて、相手の姿がはっきりと見えるようになった。
先頭を行くのは白銀の髪色に褐色の肌を持った長身の女性、その少し後ろを歩いているのはネコ科の動物を思わせる大きな獣だった。
獣の方はしきりに周囲を気にしているようなそぶりを見せている。
それにしても、あの獣は何かしら? 体毛は女性と同じ白銀なのだけど、ユキヒョウのような斑模様があるわけでもなく、全身が白銀色に輝いている。
強いて言うのであれば、クロヒョウを銀毛にした感じかしら?
距離が近づくにつれて、獣の方の落ち着きがなくなってきた気がする。
足を止めて様子を伺おうとすると、こちらが止まると同時に、あちらの足が止まった。
「この距離で気づかれた……?」
彼我の距離はおおよそ五十メートルくらいだけど、気付くものなのかしら?
魔力感知の可能性はおそらくない。
魔力感知ができるのならば、以前に私が放っていた魔力波に反応して姿を現していたはずだ。
「……」
固唾をのんで様子を伺っていると、女性がこちらを向いた。
正確に、私の方を、視た。
視た上で、その青い瞳を見開き、身構えると同時に憎々しげに言い放った。
『また来たのか! カイジンめ!』
……えっ? カイジン? あ、怪人?
でもなんで――
「え、あっ」
言われてみたら、今の私の格好は怪人と言われても仕方のない物だった。
襲い掛かってきた女性と獣をどうにか制し、事情を説明することで敵意がないことは分かってもらえた。
そして、女性――クルルァと言う名らしい――は地面に手をついて頭を下げていた。
こんな時に何だけど、言葉が通じるみたいで良かったわ。
「申し訳ありません! 奴らの手がしばらく及んでいなかったので、いつ来るのかと気が張っていたのです」
どうやら、誰かを警戒していたらしく、その人達と私を見間違えたようだった。
変身を解いてから変装を取り払った私はクルルァさんに事情を尋ねた。
「まあ、そうだったの。ところで、奴らと言うのはどなたかしら?」
「はい、数年前から頻繁に出没しては私達の住処を襲い、子供らを攫っていこうとする者達で、怪人と言う化け物を連れているのです」
「怪人……それと私を見間違えたってことは、人の姿をしていないのね?」
怪人と言うと、いわゆる特撮物の作品などに出てくる悪者の事かしら?
「はい。初めて襲撃を受けた際には子供達が大勢攫われてしまい、それ以降はどうにか防いできたのです」
「そう……子供達が心配ね」
子供を攫うだなんて、目的は大体ろくでもない事でしょうね。
「攫われた子らの無事は分かりませんが、我々の戦士が数名助けに出ているので、無事を祈るほかはないのです」
助けに出ているとはいえ、数年前ともなるとさすがに手遅れかもしれない。
とはいえ、何かができないわけでもない。
「そうね。ところで、その怪人を連れた人達は最近は現れていないのね?」
「はい、半年ほど前から姿を現さなくなりました」
「その人達がどういう人達かわかるかしら。これでも私、機関と繋がりがあるから何か協力できるかもしれないの」
「協力は助かりますが、機関、ですか?」
「知らないかしら? 魔法少女機関とも呼ばれているのだけれど」
「魔法少女……? すみません、存じ上げません」
「あら、珍しいわね。でも、知らなくてもいいのよ。そういう人もいるから」
機関の存在はそれこそ全世界に知られているでしょうけれど、彼女のように知らない人がいても不思議なことではない。
「はあ、そうですか……あ、奴らの事ですが、確か結社がどうとか言っていました」
「結社? 秘密結社とか、かしら?」
「はい、おそらくは」
「結社、結社ね……」
秘密結社を名乗る組織があるのは知っているけれど、怪人のようなおかしな存在を連れているところに心当たりはない。
私達が若い頃に戦ってきた異形と呼ばれる者――それこそ怪人とも言われそうな者達は、そこまで組織立ってはいなかった。
一時は魔女達と組んで機関の魔法少女を攫ったりしていたけれど、それだって十数年も前の話だ。
「……ごめんなさい。私には心当たりがないけれど、帰ったら詳しそうな人に聞いてみるわね」
「はい、それでも助かります。それにしても、ご婦人はお年を召しているように見えますが、お強いのですね」
「あら、名乗っていなかったかしら。やぁねぇ、歳を取ると物忘れが多くて」
「いえ、お気になさらず」
「ありがとう。それで、私の名前だったわね。私は藤堂春香。元魔法少女で、今はただのお婆ちゃんよ」
「氏をお持ちなのですね。ハルカと呼んでも?」
「ええ、構わないわ。それで、クルルァさんとそちらの獣さんはどういう関係なのかしら?」
「獣? ああ、彼女はリベルス。私の家族です」
「あら、ご家族だったのね。よろしくね、リベルスさん」
「みゃあ」
返事のつもりなのか、リベルスさんが鳴き声を上げた。
……随分と可愛い鳴き声なのね。
「ところで、ハルカは行くあてはあるのですか?」
「ええ、家に帰りたいのだけれど、ここが何処だかわからなくて困っていたの」
「そうだったのですか。わかりました。我々の住処まで来てください。古い物ですが地図があります」
「あら、助かるわ。それじゃあ、お邪魔させてもらおうかしら?」
「はい、どうぞこちらへ」
クルルァさんの案内で彼女達の住処へと向かうことになった。
そして、案内された彼女達の住処で目にした地図は――
「……どういうことなのかしら?」
どこか似通った所はあるものの、私の知らない世界の物だった。
ここから抑えるのやめたんだっけ……?




