四項 砂上を往く都市(第12話)
第一部 新世界の産声編 一章 交差する世界 一節 オアシスにて
全部書き終わったらこのめんどくさい分け方を改めたい……話数でええやん
「……よし、どうにかなったな」
オアシス生活を始めてから四か月が経った。
どうにか直った相棒の試運転はほぼ問題なく終了し、後は出発するだけだ。
食料は糧食がまだ残っているし、獲った鼠と蛇を乾物っぽく仕上げたものがある。
水もタンクに貯めておいたから十分な量がある。
既に相棒を動かす電力は充分に貯まっているが、砂漠という事もあって貯まりやすい環境だから電力切れで立ち往生する心配もないだろう。
とりあえず、出発する分には問題はない。
問題はないんだが――
「どの方向に進めばいいんだ?」
それが問題だ。
東西南北どちらを見ても砂しかねぇ。
オアシスを出てしまえば空の青さだけが唯一の癒しか。
そう考えると、すっかり飽きたはずのオアシスから離れがたい感情が沸いてしまう。
いや、駄目だ。俺はここを出て酒を飲むんだ!
こればっかりは譲れねぇ。
「よし、こいつに頼るか」
薪に使っていた木の枝を砂の上に立て、倒れた方向へ向かうことにする。
「頼むぞっ!」
すっと手を放し、棒がぱたりと倒れた方向は――
「南、か……」
ただでさえ暑いのに、より暑い方へ向かうのか。
いや、暑いとは限らないが、こう、気分的になぁ?
「ん?」
やり直そうかと思案していると、棒の倒れた先に砂煙が見えた。
「でかしたぞ!」
俺は棒を拾い上げ、相棒に乗り込んだ。
砂煙を揚げていたのは、砂上を走る艦だった。
「おぉ、でけぇなぁ」
あれからすぐに相棒を走らせて砂上艦の方へ向かって行くと、こちらに気付いた艦が止まり、信号灯で何かを伝えてきた。
随分と古い手法な上に見慣れない信号だった為、とりあえず相棒の夜間照明で救難信号を送ってみた所、艦の発着場が開いた。
なのでゆっくりと近づいていくと、存外に大きい艦だった。
このデカさでよく砂の上なんか走れるもんだ。
あと、外観が随分と奇抜だ。猫を模しているようだが、どっかの金持ちの物か?
発着場には全身武装した奴らが並んでいたが、気にせず乗艦させてもらった。
さすがに降りたとたんに発砲されるなんてことはねぇと思うが、用心はしておくか。
乗降口を開き、両手を挙げてゆっくりと身を乗り出す。
「敵対する意思はねぇ! 救助を求めて来ただけだ!」
発砲はないが、全身武装した奴らは銃らしきものを腰だめに構えてこちらを狙ったままだ。
用心深いやつらだ。兵士としては合格だが、こっちは一人なんだから少しは融通を利かせて欲しいもんだ。
『この艦はパトラク家の物である! 貴殿の所属と名を名乗れ!』
防塵マスクだろうか。くぐもった男の声がそう告げて来た。
ああ、確かに素性不明の相手に警戒を解くことなんてできねぇか。
「名乗りもせず悪かった! こちらは世界防衛軍整備部所属のアルバート=ダグラスだ! 身分証もある!」
『要件は救助を求むという事だが相違ないな?』
「ああ! 先の戦争で付近のオアシスに不時着した! どうにか修理したがここが何処だかわからねぇんだ!」
『確かに、この付近にオアシスはあるな。よし、わかった。そのまま降りて来い! 身分証を忘れるな!』
「わかった!」
ふう、どうなる事かと思ったが、物わかりの良い相手でよかった。
相棒を降りた後は身分の確認を取り、武装した連中に囲まれながらどこかへと連行されていた。
「貴殿を我らの主の元へ連れていく。粗相のないように」
「ああ、わかった」
先ほどから俺と会話をしている男の名はアーノルドと言うらしい。
武装した連中の中でも一際ガタイがよく、割と理知的な面もある辺り、リーダー格ってところか。
今はマスクを外しているため素顔だが、褐色の肌に掘りの深い顔立ちをしている。
強面と言えば強面だが、造形は良い。さぞかし女にもてるだろう。
他の奴らも似たり寄ったりって所だが、主とやらの趣味か?
俺がガキの頃に死んじまった婆さんが見たら「いい趣味してるじゃないか」とでも言いそうな面子だ。
そうこうしている内に、アーノルドがいかにもそれっぽい、豪華な作りの扉の前で立ち止まった。
「ここだ。クレア様、例の者をお連れしました」
『うむ、入れ』
アーノルドの呼びかけに対し、部屋の中から女の声が答えた。
扉越しだから何とも言えねぇが、若そうな女の声だった。
他の者が扉の横へ並んで待機姿勢を取る中、アーノルドが扉を開けてこちらを促すように顎をしゃくった。
「入れ」
「わかった」
部屋の中に入ると、そのまま扉が閉じられた。
アーノルドも扉の外へ残ったようだ。
部屋の中には香が焚き染められているのか、甘い香りが充満している。
奥には目隠しの為か、透かしの入った薄い生地の几帳――だったか? が掛けられていて、その奥に女の影が見えた。
「不用心だと思うか?」
こちらの思考を読むかのように、部屋の中に居た女が言った。
薄い布一枚を隔てた闇の奥から、獣のように光る瞳がこちらを値踏みするように見ている。
「まあな。一応聞いていると思うが、世界防衛軍のアルバート。ただの整備部の班長だ」
「うむ、では余も名乗ろう。余はクレア=パトラクである。汝の事は報告に上がってきておるぞ。しかし、余はそのような名の組織を知らぬ」
「なに? そりゃどういうこった?」
所属している俺が言うのもなんだが、少しでも世情を知っているならば、世界防衛軍を知らない奴がいるとは思えない。
先頭に立って化け物共と戦い続けて来た組織の名前を知らないわけがない。
しかし、女はかぶりを振って知らぬと断言すると、逆に問いかけてきた。
「そのままの意味である。それよりも、汝に問いたい」
「なんだ?」
「汝は機関を知っておるか?」
「機関? どこの機関だ?」
一言に機関と言われても、複数思い当たるが、おそらく女の望む答えではなさそうだ。
どうにも、会話がかみ合わないな。
「機関と言えば機関である。少なくとも、余の身の回りにおいて機関と問えば、とある組織の名称が上がる」
「そんなに有名なのか?」
「うむ、おそらくは、汝の言う世界防衛軍とやらと同程度には、な」
ますますわからん。
世界防衛軍と同程度と言うと、相応の規模を持った組織なのだろうが、それなら俺が知らないわけはねぇ。
「すまん。わりぃんだが、どうにも思い当たる節がねぇ」
「別に構わぬ。ではもう一つ、汝の住む星の名は?」
お次は星の名前ときたか。
「星の名前? そりゃあ、メルクリアだろ」
今や見る影もないが、かつては水の惑星と言われていた星だ。
「なるほど……余が知っているのはヴィヌスと言う」
そんな名前は聞いたことがない。
そもそも、同じ星に居てそれはねぇだろうが。
「おい、冗談にしては質が悪いぞ」
「余は冗談を言っているつもりはない。しかし、今の問答で確定したな。汝は余の知らぬ世界の者か」
「こら、一人で納得すんじゃねぇ。まるで異世界でもあるような言い方をしやがって」
「否、まさしくその通りである。余と汝は生きていた世界が異なるのだ」
「……はあ?」
一体、何が起こってるってんだ?
普通
この辺から文字数を抑えるという自重ができなくなってきた(んだっけ?)




