マウオとトビーの関係(文字数2話分)
火球を台風の風で押し返しただけで、マウオに当たった訳では無い。なので当人は風に煽られていただけで無傷のはずだ。
「ほほう。ナアスとやら。中々やりおるな。風の魔術師ってところか。威力の弱い風魔術で、火弾を弾き、この俺にダメージを与えてくるとは。だが重量のあるこれは防げまい。石つぶてよ雨の様に降れ!」
見た目ではわからなかったけど、ダメージが有ったんだ。何でだろう。でも考えている時間はない。次のマウオからの攻撃に備えなければ。
横からの攻撃では、再び風に吹き飛ばされると考えたのか。今度は縦からの攻撃しようということらしい。
どうやら両足の指には土の魔石が仕込まれているみたいだ。足下がうっすらと光っている。そして地面から次々に上空へと石が打ち上げられていった。一つ一つの石はソフトボールくらいのサイズがありそうだ。これは当たったりしたら間違いなく大怪我だ。もし当たりどころが悪ければ死んでしまうかもしれない。
「あんなデカい石、風じゃあ防げない。どうすりゃあいいんだ。やっぱりマウオには勝てないのか」
トビーが悲壮感たっぷりに叫ぶが。技名を言ってくれた上、上空に向かって打ち上げているのだから、対処する方法も時間もたっぷりある。
アタシは打ち上げられた石の軌道を見てから、最速の一歩を踏み出した。トビーは石の落下地点外にいたけど、念のため抱えあげてから更に二歩目を踏み出した。そして石つぶての完全範囲外にトビーを投げ捨ててから。三歩目を踏み出し、マウオの背後についた。
背後に回られたことに、マウオは未だに気が付いていないのか。石つぶてを打ち上げ続けている。
アタシの反応と行動が早過ぎたようだ。石つぶては、まだ落ちてきていない。なので何となく、そのままマウオの背中に飛び蹴りをした。
アタシの体重は軽すぎるので威力は期待できない。でもスピードを活かして、押し出すように蹴ったので。マウオは突き飛ばされた酔っ払いの様に、たたらを踏んでいた。
そして偶然にも、その場所に最初に打ち上げた石つぶてが降ってきてマウオの頭に当たった。そしてマウオの周囲には雨のようにソフトボールサイズの石が降ってくる。
殆どの石はそのまま地面に落ちたが。いくつかはマウオの身体を直撃した。
マウオは、思わぬダメージを受けてしまったようで、地面に倒れてしまった。でもそんな体勢になっては、ただたんに石つぶての的が大きくなったということを意味しているだけだ。
無情にも、次々に石がマウオの身体に直撃していく。マウオは、のたうち回ることしか出来ない。
この時、再び身体の自由が効かなくなった。
『ハイハイ。決め台詞ね。コスプレナースは、ただの飛び蹴りをなんて言うつもりなのかしら』
アタシは、抵抗することを諦めたので余裕ができていた。
「治療魔法技 後背押出脚。若者は先に行って露払いをするのが常識なのよ。でも怪我したら、シミるお薬塗っちゃうぞ」
いや。マウオはもう怪我しているって、あれでは全身打ち身だよ。しかも若者って後背(後輩)を押して先に行かせる技なのかい。コスプレナースはなんて性悪ナースなんだ。
後方二回宙返り一回捻り(ムーンサルト)をしてから。マウオを指差してウインクして決めポーズ。ここまでがワンセットのようだ。再び自由に動けるようになった。
マウオはボロボロじゃないか。あれで立ち上がれるのか。あ。立ち上がった。
「クソッ。四天王である俺をここまでコケにするとは、貴様は何者だ。いや。何者であっても俺は魔王になるためにも、魔王以外の者に負けるわけにはいかないのだ」
マウオは身体をフラフラさせながらも、立ち上がり気概をはいている。なんだか王道パターンになってしまったが、どう考えてもスキである。一気に決めさせてもらおう。アタシはホウキを上空に投げあげてから。
両手を合わせて気を手と手の間に凝縮し、反動に備えて腰をしっかり落とし、両手を背後まで引いて気を凝縮する。
アタシは凝縮した気をマウオに向けて放出するイメージをしながら気合いの息と共に両手を前に突き出す。
その時、すべてが白光に塗り潰された。
「治療魔法技奥義 聖光彗星気弾 おとなしく退院しちゃいなさい」
気弾を放ち終えたアタシは、やはり強制的に決めポーズを取らされた。前回と同じように、敵に背中を向けて、ずれていないナースキャップの位置を直し、そしてトビーに向かってウインクして片腕を挙げて勝利のポーズと見せ掛けて、落ちてきたホウキをキャッチして反対の指を付きだしピースサインをした。
トビーは、いきなり出現した白光に驚いていたが、アタシのポーズを真似してピースを返してきた。
「かぁちゃじゃなくて。ナアススゲー。奥義だって。カァッ使ってみてぇ。マジスゲー。まるでアニメか何かの主人公みたいだ。あれ? ってことは。もしかしてナアスが主人公で私は脇役なのか。ってことは。私はナアスの逆ハー要員ってことかよ。マジかよ」
またトビーがおかしな妄想を口に出しているが、聞かなかったことにしよう。
アタシは硬直時間が解けてから、トビーに背を向けて、マウオがどうなったか見る。すると、マウオは真っ白な人になっていた。
全身真っ白と言うか、この世界に普通に居る白人である。髪は銀髪のようだ。引き締まった身体は細マッチョで幼顔である。だが、とうぜんのようにハダカであった。
コスプレナースの技はもしかしたら、本体へのダメージは皆無なのかもしれない。ゴキリンどころか虫達も、ダメージが合ったように見えなかったし、マウオもアタシの攻撃でダメージを受けた様子はない。でもそんな考察は後回しだ。目の前に放置していけない物体があるからだ。
アタシはアラフォーだが乙女だ。だのにこの状況には慣れっこである。アタシは何も言わずに影魔法からパンツを出して、マウオに投げつける。
暫く呆然としていたマウオであったが、ハダカであると気が付いたのか、慌ててパンツをはいた。どうやらこれで、アタシの出番は終わりのようである。
なぜかと言うと背後にいたトビーが、大声でマウオに話し掛けていたからだ。
「なんだ。マリオじゃねぇか。お前も異世界に来てたのかよ」
トビーの知り合いのようだ。でも、魔王=マウオ=マリオ?
訳がわからん。アタシはトビーに任せることにして道をゆずった。
マリオは本名を丸山マリオと言う日本国籍のハーフであった。トビーが中学1年の時に家の近所に引っ越してきたそうだ。
新しい記憶でも知らない存在であるのだが、どうやら息子の友達のハダカを見てしまったようだ。
だからと言っても、なんの感慨もないけど。
マリオは、引っ越した先に居た外人みたいなあだ名がついているトビーとすぐに友達になったそうなのだが。トビーの家に遊びに来た帰り道で光に包まれて、この世界に来てしまったそうだ。
深い森の中をさまよっている時に、この世界の闇魔の神と言う存在に出会い。魔石を取り込めば、この世界の強者になれると吹き込まれたそうだ。
まるでゲームみたいでおもしろいと考え、魔物を倒し魔石を取り込んでみれば。力が、魔力が増えていくのがわかった。マリオは、この世界で生きて行く為に力を文字通り蓄え続けた。
そんな日々を暮らしながら、この草原に来ると、建設中の砦を見つけた。
この世界での初めての人とのふれあい。そして冒険者となり、魔物退治にせいをだしていた。強い魔物は協力しあい倒し、魔術を覚えることによって、更に強い魔物を倒せるようになった。この世界の強者になる為には、経験値ではなく、たくさんの魔石が必要であると思い続け。砦の人達を守りながら、魔物から魔石を奪う日々を続けた。
そんなある日、左腕が黒く変色しはじめたのだが、その時は痛みも感覚がなくなることもなかったので『俺の左腕に黒龍が宿った』のだと考え、今思い起こせばバカだとしか思えないが、当時は俺って格好良いと思ったそうだ。
それからも精力的に魔石を取り込み続けていると背中に翼がはえてきた。これで空も飛べる。俺スゲーと思いながら更に魔石を取り込み気が付いた時には、半ば以上異形の姿と化していた。
その姿を見た人は、魔物だ、悪魔に取り付かれたのだ、と逃げ出して行った。
魔物を倒し魔石を取り込むが人は殺したことも襲ったこともないというのに、人は、指差して逃げていくか、自分を殺そうと武器を向けてきた。
なのでずっと草原や森を逃げ回っていたのだが、人は執拗に追い掛けてくる。
この砦に流れ着いた時から、自分のことを知っている冒険者仲間は庇ってくれていた。『あいつは見た目はなんだが、悪い奴ではない』と、頼れるのは冒険者仲間だけであった。
でもある日、再び見つかり、逃げるために牽制に放った火球が人に当たりその人はあっさり死んでしまった。
それからは、やはり魔物になってしまったのだと、かつて冒険者仲間であった者たちも武器を片手に追い掛けてくるようになり、絶望した。
ただ強者になって人を自分を護ろうとしただけであったのに。
そして失意の中、草原をあてもなく歩いていると、闇魔の神が再び現れた。
こんな異形な姿にした神の指示に、文句を言ったが、嘘は言っていない、魔石を取り込めば強くなれると教えただけだろと言い返されて。納得してしまい何も言い返せなかった。
その後、闇魔の神に勧誘された。強者が排除されるなんておかしいと思わないか。人はお前の強さを羨んでいるだけだ。この世界を闇魔の世界とすれば、異形であろうが差別されない、排除されることもない世界とすることが出来ると。
その力を闇魔の神である私に捧げてくれはしないか。そうすれば四天王の一人として受け入れようと。
行き先のない自分には選択肢がなく。結局、その甘言にのり四天王の一人として、闇魔の神に従い魔石を取り込み続け、完全な異形の生物となってしまった。
その頃には理性と言うか、自分の心は人を襲うことが耐えきれずに、心の奥に引きこもっており、別人格である闇魔の生き物が自動的に魔物を襲い魔石を取り込み続けていた。
たが、その間に最悪なことが起こっていた。気が付いた時には、手遅れであった。守ろうとしていた人の住む砦を落としてしまっていたのだ。やってしまったことを後悔したが、もう元には戻せない。
その後、元の自分は、闇魔の生き物としての自分の影に隠れて、見ているだけであった。
闇魔の生き物の自分は、闇魔族四天王が一人 最悪の恋人 マウオと名乗りだした。そしていつか最強最悪の魔王になってやると、それが俺の望みだろと言われ自分自身に対しても言い返すことが出来なかった。
そして、この世界にトビーが居ることを知った。トビーは俺に気がつかずに俺を倒そうとたくさんの魔術を使い襲ってきた。でもそんな温い攻撃では俺を倒すことなど出来ない。だか俺は友達まで殺すことはしたくない。
闇魔の生き物としての自分をなんとか押さえて、殺さずにトビーを気絶させることが出来た。
本当は人間の住む場所に置いて行きたかったが、異形の身がそれを許さず、果物が豊富にある北の森に放置するのが限界であったと言う。
その後、何度も人が襲い掛かってきた。襲い掛かってくる人の手により、砦が壊されていく、その度に修復していたが、まるで追い付かない。
そして、軍隊が現れた。先制されて負傷したが、何時ものように火球を連発して追い払う事に成功したが、砦はボロボロである。また修復しなければならないとため息をついていたら、足元にトビーが居た。
あっと思った時には光に包まれていたと言うことであった。
長いマリオの話しが漸く終わった。全てを語り尽くしたマリオは、泣きながらトビーに謝り続けている。
トビーは、達観したように運が悪かっただけだと抱き締め慰めていた。
自分の子と半裸の男が抱き締めあっている。
好きな人は好きかもしれないがアタシ的には完全にアウトの世界だ。トビーよ。その道にだけは踏み込むなよ。
アタシは、そう願うだけであった。




