親の心子知らず、子供の心も親知らず
アタシは重たい荷物を持って、空を飛んでいるところだ。重い荷物のせいで、スピードは出ないが、問題なく飛ぶことが出来る。荷物とはトビーとマリオである。
二対の翼だけで、予想総重量200キロある重量を運べる浮力をどうやって稼いでいるのか理由は解らない。気にしたら敗けな気がするので気にしないことにした。
なにせ元の姿であったら、飛ぶところか、二人を持ち上げることさえ出来なかっただろうからだ。
都合の良いことは、甘受しよう。
でもアタシって、少なくとも闇魔の存在を倒したよね。トビーを救出して事件を解決したよね。なのに何故戻らないのよ。もしかしたら前に考えていた、戻るための前提条件が間違っていたのかしら。
そう悩みつつも、頭を切り替えるために荷物達を見ると。
トビーは「スゲー。ナアス。空飛んでる」とはしゃいでいた。無邪気に騒ぐトビーに、実感は無いけど、やはり少しほっこりしてしまった。
因に、マリオには即席で作った服を着せてある。服といっても、以前作って影魔法にしまっていた、包帯を繋ぎあわせて布状にしておいた物を巻いただけでなので、完全に簀巻き(スマキ)状態であるが。
落ち着いたら、服っぽくしてあげるから、それまで我慢しなさいって感じである。
今は何処に向かっているのかと言うと、優麗さんの居る場所、あの雑居ビルに向かって飛行中なのである。
飛んでる間は、周囲の警戒はしているが、基本暇なので、なんで雑居ビルに向かうことになったのか整理していよう。
最悪の魔王は、最悪の恋人 マウオかと思えば、元の世界でのトビーの友達のマリオだという、訳のわからない戦いが終ったあと。
暫く抱き合っていた二人だが。マウオが落ち着いたところで離れた。だがあっちの世界風の危険な空気になっていたので、アタシは大人気なく介入することにしたのである。
話しを聞けば、二人は14歳の時にこの世界に来て4年経っているから18歳だと言っているが、同じ日本人の目からしてもトビーは15歳くらいにしか見えない。マリオは、外人の血が混ざっているだけあって、18歳と言われれば、そうか。と思うけど。
まあ。中身アラフォーのアタシの見た目を考えると、文句は言えない話しだが。そんなことは置いといて。
二人に、まずこれからどうするのかを聞いてみた。
トビーは、待たせている人が近くに居るから、とにかく先ずは北に向かうと即答してきた。純愛は良いね。不毛かもしれないけど、あっちの世界の不毛より増しだから大いに頑張りなさい。
だがそんなトビーとは対称的にマリオは、俺には行くところがない。なのでここに残ると言う。たくさんの人を殺した自分が受け入れられるはずがない。自分がいられるのは、この場所だけなのだからと。
確かに大量殺人者ではあるけど、殺したのはマリオ自身では無くて、闇魔のマウオがしたことである。罪を憎んで人を憎まずとはちょっと違うけど。マリオは強くなって砦の人達を守ろうとしていただけだ。それに少なくみても数百年前の話しだ。責める者はもういない。とごちゃごちゃ考えているけど。アタシにとってマリオは赤の他人。はっきり言ってしまえばどうでもいいのである。
でも、少し位は助けてあげよう。年輩者は若輩者を導く者であるから。
なのでアタシは質問をした。あなた達二人は、どれくらいの期間封印されていたのだと思っているのかと。
二人は顔を見合せて相談していたが、トビーが回答してきた。「短くて数ヵ月。長くても2年くらいかな。私の見た目は、変わってないしね。砦自体は、こんな場所ならすぐに傷むし。長くてもやっぱり2年かな。ん? そしたら20歳だ。成人だ。大人の仲間入りしてるじゃん」
トビーは嬉しそうに大人を強調しているけど。大人になりたがるのは子供の証拠。なんだか学校の先生になった気分になってしまった。なのでアタシは、それっぽく答えた。
「成人か、そうだな二人は大人の仲間入りだな。その点では正しいが惜しいな。正解は数百年から、もしかしたら数千年経っているだ。2年経ったから20歳で成人だと言うなら、あなた達二人は、とんでもない年齢のじいさんだ」
アタシの言いように、二人は目を白黒させていた。なので補足するように続けて教えてあげた。
「だから、トビーやマリオのこと、最悪の魔王のことを現在進行形で覚えている人は居ない。魔王との戦いは記録として書物に残されているがな。トビーは過去の偉人、魔術の祖として記録されている。だから二人は、これから居場所作るしかない。全てやり直しということだ」と。
やり直せると聞いたマリオは、二度と同じ過ちはしないと決意を立てていたのだが。トビーは、突然その場に崩れ落ちた。
「マジかよ。あれから最低数百年も経っているって。それじゃあ優麗は。優麗は、既に亡くなっているってことかよ。必ず戻るからって約束したのに。守れなかった。優麗、ごめんよ。誰にも奪われたくないからって。あんな森の中で一人ぼっちにさせてしまった。帰ってこない私を心配しながら待って。待ちながら亡くなったんだ。優麗、ごめんなさい。自分の都合だけで、なんて酷い事をしたんだ。ホントに、ごめんよぉ」
後半は涙声である。両手を地面に叩きつけて、トビーは泣き続けていた。
誰もが自分勝手に考えて行動してしまうのは、生き物の性なのであろうか。
その姿を見ているマリオは、ばつがわるそうだ。責任を感じているように見える。
元の世界のもう一人のアタシは、コスプレナースの変態だったが、情操教育はしっかりしていたみたいだ。
自分自身は責めているが、マリオに『お前のせいだ』と責任転嫁していないのがその証拠だ。
自分勝手な行動の果てを見たなら、もう同じ失敗はしないで欲しい。自分自身ごと封印するなんて無茶な行動はしないでおくれ。今の思い忘れないで欲しいと思いながら。自負の念でつぶれる前に、救済の手を伸ばすことにした。先生モードは終了にして軽い口調である。
「そうだよね。優麗さんは、美人で健気な娘だから手放したくなくなるよね。あの一途な感じって、元の世界の日本では中々お目にかかることはないよね。赤い着物も似合っているし。私も子供がいたら、ぜひ嫁に来てくださいって言っちゃいそうよ」
アタシのべた褒めに、トビーは「うん。うん」と言っていたが、途中でおかしなことに気が付いたようだ。気が付いて貰えなければ、ボケていた意味を説明しなければならなかったから。ひと安心だ。
トビーは泣いたままであるが、顔をあげて不思議そうにアタシを見ている。ほんと気付いて貰って良かったと胸を撫で下ろしていると。
「なんでナアスさんが、優麗の容姿や性格を知ってるんだよ。何百年も前に亡くなってんのに。それなのになんで知ってんだよ」
その疑問は、当たり前だよね。なので、先日優麗さんに出会った事を教えてあげた。
ずっと、トビーが帰ってくることを待って、毎日喫茶店を開けているよと。
それを聞いたトビーは、いてもたっても居られなくなったようだ。武器も道具も持たずに北に走り出そうとしたからだ。
草原も森も危険地帯である。アタシは慌ててトビーを包帯で巻いて止めた。
闇魔の力が無くなったマリオは、体格が良いので強そうにも見えるがパンツ一丁で砦跡に放置する訳には行かず同行させることにした。
初めは二人を抱えて空を飛ぶことも考えたが、子供とは言え、二人はアタシより上にも横にもでかい。
早々に諦めて、包帯でネットを作り二人を入れて飛ぶことにしたのである。
ネットに納まった二人は落ちないようにするために、囚われの少年状態である。その結果、密着状態だが気にしたら負けだ。出来るだけ急いで森の中の雑居ビルを目指すことにした。
実は、先程気が付いたのだが、問題はもう一つある。アタシが変身していると言うことだ。
ここは砦跡とは言っても、風化しているので、身体を隠せる場所がない。
身体を隠す理由? そんなの変身したらコスプレナース服の下は何も着ていないのよ。
子供の目の前で生着衣。パンツをはくわけにいかなかないのだ。なのでアタシはノーパンで空を飛んでいるのである。二人には気が付かれていないが、この状態は精神的に良くない。
早いところ現地に着いて、木陰でパンツをはかなければ。そう考えているマッキーであった。
だが重大な事実に、幸か不幸かマッキー本人は気が付いていなかったようである。
最悪の恋人 マウオを倒すために、飛び蹴りしたあと、決めポーズに宙返りをしていた事実に。
しかしその光景を見ていたはずのトビーは、何も語ることはなかった。




