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この世界の救世主の名は

巨大ゴキリンがどうなったのか気になり、振り返って見てみると。

ゴキリンは真っ白になっていた。そして砂で作ったお城が崩れていくように白いアレがボロボロと剥がれ落ちていく。

剥がれ落ちた白いアレは、死んだわけでは無いようだ、次々にアタシの背後に回り整列していく。そして最後にゴキリンだけが残った。

「浄化されてしまったゴキ。身も心も全てめちゃくちゃゴキ。もう純潔なゴキには戻れないゴキ」

ちょっとまった。何、そのセリフは、それではまるでアタシがゴキリンを犯したように聞こえるではないか。ゴキリンといい、変身後のアタシ自身だがコスプレナースといい、おかしなことを言わないでくれ。これが普通でアタシがおかしいみたいではないか。と内心でぼやいていることなど知らないゴキリンは、アタシをチラチラと見ている。

『ゴキリンは仲間にして欲……』

アタシは頭の中に流れ始めたテロップを頭を振ることによって、さえぎった。このコスプレナースになってから、アタシがアタシでは無くなることが多い。やっぱり呪われたアイテムだと、思わざるを得ない。

仲間なんてとんでもない。アタシはゴキリンを振り切るために背中を向けた。

そうなると、アタシの後ろで整列している白ゴキの群れと対峙する形になってしまった。

どうでも良いことだけど、軍隊のように綺麗に整列している。軟派なブラン砦の守備兵に見せたいくらいだ。

目の前で整列されているとなんだか訓示をしたくなるのは何故だろう。歳のせいだとは言わないでほしい。

「君達は、今まさに闇魔の力から解放された。その証拠が君達の体表の色である。これから君達に命令する者は誰だ。そう自分自身だ。アタシの言うことがわかるのなら、これからは自由に生きなさい。解散!」


……。


やってしまった。反応が無い。恥ずかしい。多分、アタシの顔は真っ赤だ。だって頬が熱いもの。

もしかして白ゴキには、言葉が通じないのかもしれない。だってゴキリンが部下である黒ゴキを呼ぶときに、普通に言葉を発していたから、このゴキ達は言葉が通じるものだと思ってしまったのだ。

ぴくりとも動かない白ゴキブリ達の前で格好つけて訓示をしていたぶん滑稽である。

穴があったら入りたい気分であったのだが、残念なことに穴はない。

この状況をどう収拾しようか悩み出したその時。助け船が入った。その船の名前はゴキリンである。

「俺達は元から自由ゴキ。だから自由に生きろと言われても当たり前だから困るゴキ。それならコキ使われた方がましだゴキ。俺達の身体には闇魔の残欠片もないゴキ。もう以前の使命は果たせないゴキ。そうゴキ。この世界を闇魔に染めること出来ないゴキ。することが無いゴキは野良ゴキゴキ。進化出来ないゴキ。何かしら使命を与えるゴキ。することが有るゴキは貴族ゴキゴキ。進化出来るゴキ」

ゴキゴキ入っていてわかりづらいが、今までは、闇魔の指示によって個々に考えながら闇魔の世界にしようと行動していたので進化していくことが出来たが。何も指示がなければ、自由に生きるしかなくなる為、考えることが無くなるから進化できない。

浄化された白ゴキは闇魔の(シモベ)に戻れない。だから白ゴキが進化出来るように指示が欲しいと言うことか。

話しはわかった。わかったがアタシにどうしろと。

話しが終わったゴキリンを含め白ゴキ達も期待の眼差しでアタシを見ている気がする。

でも困った。本気で困った。

なにせ白ゴキ達に何が出来て何が出来ないのかわからないからだ。きっと白ゴキ達も、白ゴキになったばかりなのでわからないだろう。

これって新しい種族の誕生。なのか。

ゴキリンは新種族を繁栄させるために骨を折るのだろう。

こんな大勢の他人(ヒト)に期待されるのは、何時振りなのだろう。人ではなくてゴキだけど……。


アタシは白ゴキ達に出来る事なのかわからないが指示を出した。


白ゴキ達がその指示を聞いて、何故かわかったのだが嬉しそうに森に消えていった。その直後から、森の雰囲気が優しくなった気がする。

最後にゴキリンが森に消えて見えなくなった瞬間、待ち望ぞんでいた時が来た。なんと突然変身が解けたのである。


元の姿に戻れて安心した半面。なんとなく残念な気がするのは、アタシは魔法少女に毒されてしまったのかもしれない。

変身中に感じられていた、身体の中からみなぎる力が無くなったことが寂しく感じているアタシがいる。

変身中は元の姿に戻ったら、すぐにブローチを投げ捨てようと考えていたのに、今は捨てることが出来ない。元に戻れるなら持っていてもいいかと思っている。


でも、あまり考察しているとあのワードを言ってしまうかもしれないので、さらっと変身後に何かしら事件を解決することが、元に戻る条件なのかもしれないと思うことにした。


長い夜が明けて、朝日が登り始めた。アタシは木漏れ日の中、軽やかに優しい雰囲気になった森を歩いている。


アタシが白ゴキ達に出した指示がうまくいけば、この世界の救世主になるのかもしれない。そんな妄想をしていたが、はたと気がついた。


世界の救世主はゴキブリ。


かなり嫌かもしれない……。


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