魔法少女は光り輝く
ヒリュウは間隔を開けて三匹縦に並んで突撃してきた。まるで誰か一匹でもアタシに爪を掛けられればいいと考えているように見える。
アタシは右手にホウキ、左手にハタキを持ち、距離が詰まるのを待った。
タイミングを見計らってホウキを突き出すが、先頭のヒリュウはホウキが当たる直前に急減速して右に旋回した。アタシのホウキの長さを知っていて見切った上で避けたのではなく。初めから旋回する予定であったようだ。なにせホウキを突き出す呼び動作よりも前に急減速をしはじめていたからだ。
そんなことがわかっていたなら、ホウキを突き出さなければ良かったではないかと言われそうだが、アタシは武術を習ったわけではないので、戦闘に関しては反射神経とスピード命である。なので単純なフェイントを掛けられても引っ掛かる自信がある。
今まで、そんなフェイントをしてくるような相手とは戦ったことがなかったから問題は無かったが、もしかしてピンチなのかもしれない。
突きだし伸びきったホウキは武器とすれば死んだも同然である。そのタイミングで二匹目のヒリュウが飛び込んできた。
アタシは伸びきった右手を軸にして身体を開き半回転して背中を地面側に向ける。そして遅れて到着したハタキで上空を刈る。だが二匹目のヒリュウはハタキに当たることなくすでに上空に舞い上がっていた。こいつもフェイントだったようだ。
三匹目がくるのは気配でわかるが、ただ反射で動いた結果である。
両手の武器とも空振った今、三匹目の対処が出来ない。身体を回転させた時に左足はすでに宙に浮いている。地についているのは右足だけ。
アタシは何も考えずに右足で地を蹴った。
少しでも遅かったら無防備な胴体をヒリュウの爪が抉っていたであろう。逆に早ければ背中の翼をくちばしで裂かれていたであろう。そんな僅かなタイミングの違いが生死を分けた。
右足で地を蹴ったことによりホウキの切っ先が上に流れ、ヒリュウの大きく開いたくちばしに刺さった。
とうぜん地面という支点がないアタシの身体は、突っ込んできたヒリュウの勢いのまま、空中に投げ出されてしまったが、翼を広げて空中で停止する。勢いで身体を持っていかれたが、ホウキは手放さなかったのは幸いである。
身体に穴が開いたヒリュウは山から落下していったが目で追っている時間はなく、フェイントをして右と上空に離れていったヒリュウがタイミングを合わせたかのように再び突っ込んできた。上とと右からである。
ヒリュウに気をとらわれていたがアレが地面からアタシに向かって飛んでくるのが気配でわかる。
余裕があれば風魔法を下向きに出せば良いが、ヒリュウの対処をするためには身体のバランスを崩さないようにコントロールしなければならない。水魔法も同様である。火魔法は翼を焼いてしまうだろうからダメである。
なので虫に対してどれだけ効果があるかわからないが咄嗟にお尻から光魔法を放った。暗闇に閃光を放つお尻。すべてが白に漂白された。
次の瞬間、ヒリュウは二匹とも墜落していった。よく考えれば当たり前である。暗闇の中で閃光を浴びれば目が眩むものであるから。
アタシは下から飛んできたアレに意識を向けると、飛んできたアレは真っ白になって地面を、岩壁を走り回っていたが、第二陣である黒いアレが飛んでくると白いアレが黒いアレと喧嘩を始めた。
白かろうが黒かろうがアレはアレである。ガサゴソと動き回る姿は、背筋が凍る思いである。
そんな中に着地なんて出来ないアタシは上空で静止しているしか出来ない。
その間も、森の中から次々と黒いアレが飛び出してくる。白と黒の喧嘩は数の分だけ黒の方が優勢である。なんとなく黒が増えたタイミングで光魔法を放ってみると、まるでリバーシのように黒いアレが白に変わっていく。
止めとばかりに群雲の如く飛んで来ていた黒いアレに自分から接近して向けて光魔法を放てば白いアレになって森に消えていった。
想像はしたくないが、きっと森の中では、白と黒の喧嘩が続いているのだろう。白いのは味方のような気もするが、応援できないのがアタシの心情である。
その時、真っ黒な塊が森から出てきたと思ったら、言葉を発した。
「俺は闇魔族四天王が一人、不浄の恋人 ゴキリンでゴキー。聖光を放ち俺の部下を浄化する貴様は何者ゴキー!」
突然出てきて名乗りを挙げた生物は多分、全長2mの巨大ゴキブリマンである。二本の足で立ち、四本の腕を持って頭部から二本の触覚が地面にまでのびている。
多分と言ったのは、アタシが山の頂上より高い位置にいて、巨大ゴキブリが山裾の地面に居るからだ。
大きさがよくわからないので多分と表現するしかない。
でも、その名乗りを聞いた瞬間に、何故か身体の自由が効かなくなってしまった。まさか巨大ゴキブリの特殊能力なのだろうか。だとしたらやっかいである。
身体が勝手に巨大ゴキブリに向けて移動をしはじめた。
黒のアレと白のアレが喧嘩をしはじめた理由を教えてくれたことは嬉しいが、よくわからない相手からは逃げなければならないのにどうしよう。
そう思うも身体は勝手に動き、巨大ゴキブリであるゴキリンの10mの地点に着地した。
こんな至近距離なんて、いきなり飛び掛かれられたらアウトだ。『俺、お前丸カジリでゴキー』と幻聴が聞こえてきそうなくらい恐怖におののく心情を無視して、やはり身体は勝手に動く。
右腕が天を指し。口が動く。
「天界より舞い降りし双翼の治療魔法師。白法衣のナアスここに顕在」そして右手が下がりゴキリンを指差し。左手は腰に当てて、小首を傾けてウインク「悪い子には、注射しちゃうぞ」
やってしまった。またもや、やってしまった。
変身中は名乗られたら名乗り返さなければならないのであろうか。これは呪いなのか、この変身ブローチは凄い力と引き換えに使用者を呪う、呪われたアイテムなのか。
決めポーズをしているため、動けないでいることが幸いなのか。内心で精神的大ダメージを受けていることは、見た目ではわからないようだ。
「白法衣のナアスとやら貴様は、この世界を闇魔の世界とすることを阻む者ゴキー。聖光を放つのがその証拠ゴキー。不浄の恋人ゴキリンが貴様を不浄の物と化してやるゴキー」
ゴキー、ゴキー、うるさい奴だ。ほんとうにゴキーは、違った。不浄の恋人ゴキリンは四天王なのであろうか。姿形がアレだから間違えないけど、一文字違えばゴブリンである。ゴブリンだってゴブゴブ言わなかったのに、ゴキリンはゴキーと言う。
語尾のゴキーが気になってしまい、内罰的追加ダメージが蓄積されずに済んだようだ。アタシは硬直時間が過ぎて自分の意思で動けるようになったが、膝をつくような状況にまで追い込まれずに済んだ。
こうやって、決め台詞を言い続けているうちに『しちゃうぞ』が素で言えてしまうようになってしまうのであろうか。
今まさに、対峙しているゴキリンを他所に、マッキーは魔法少女の業の深さに怯えていた。




