そのもの、群雲の如し
山を下りきったところで一旦休憩した。そこで森に入る前に変身後にむき出しになっている顔に回復包帯を巻いておく。
コスプレナースになってしまったので、マントも水着もないから不安になってしまったからだ。
でもこれでサングラスでもしてバイクに跨がっていたら違うヒーローっぽいけど。包帯覆面ナースの出で立ちでいざ出陣である。
取り合えず進む道は決めてある。とうぜん獣道だ。だが獣道が、あの建物にまっすぐ繋がっている訳は無いので、途中で木登りをして方向を確かめながら進むしか無いだろう。
でも事前に心の準備が出きるのはこれくらいであろう。後は行き当たりばったり。それでこそ冒険である。
まず森の中に入った瞬間の感想は。普通であった。
なんのへんてつもないただの森である。アタシの生命線である振動感知を使ったが、特に問題は無さそうだ。
草原から振動感知を行った際、よくわからなかったのに、ここでは個別に小さな生き物……虫はたくさん感じられた。でも小動物の反応が感じられないことが気になるところではある。
細かく振動感知を行いつつ慎重に進むが何も変わらない。まあ。変わらないということは悪いことではないので先にと歩みを続ける。
でも本当におかしな森である、虫は居るのに動物は居ないなんて。
そんなことを考えつつ歩き続けたが日が暮れてきたので、夜営の準備を始めた。
久し振りに森の中での夜営だ。草原での夜営は見晴らしが良いので、潜伏スキルを使い眠っていたのだが。この森は虫だらけであるから潜伏スキルを使って寝ていたら、虫に這われていたなんて怖い状況になりかねない。
なので蜘蛛糸警報装置をこれまた久し振りに展開した。
ナース服の何処から糸を出したのかと言うと、言いたくは無いのだが、ナース服装備はノーブラ、ノーパンなのである。
ノーブラは良くないけど別にいい。子供体型にブラジヤーは早いから諦められる。でもノーパンは心許ないから回復は出来ないけど自家製パンツをはいている。だから蜘蛛糸は出せるのである。
とは言え、スカートが膝まであるから蜘蛛糸をすぐに出すなんて芸当は出来ない。
今回も、スカートをたくしあげて作業を行う。これも一人だから出来ることである。もしパーティなぞ組んで冒険をしようとしていたのなら、たとえアタシの能力を知っているメンバーであっても封印せざるを得なかったであろう。
ソロパーティ『白い風』のマッキーで良かったと思える瞬間である。
ずっと言い続けているが、この森は普通ではないと考えているので、蜘蛛糸を広範囲に広げて設置した。
ゆっくり休めればいいなと思いつつ。森の中なので火は使えないから。保存食を食べてから眠りについた。
アタシは唐突に真夜中に目が覚めた。目が覚めてすぐに飛び下がり地面に足をついた。
取り敢えず、いきなり襲われた訳では無いことに安堵しつつ、振動感知を使い状況の把握につとめると。
振動感知が効かない。
正確には効かない訳では無く、南西側から多くの振動が伝わってきていて。あまりにも多すぎるために振動が打ち消しあい、位置関係、大きさがまったくわからないのである。
状況がわからないけど、大量の生き物が居ることだけはわかった。
しかも、その生き物はアタシの方に向かって進行中である。継続して感知を行っていたので、追加でわかったが。振動が漏れ伝わってくる速度を考えると、移動速度はそれほど速くはない。普通に走れば逃げ切れる程度である。
状況がわからないのであるなら対応は一つ。さっさと逃げるべし。
地上を移動する生き物であるならと、アタシは翼を広げて森の上空に逃げ出したのだが、それだけでは意味がないことを理解した。
アタシの振動感知は空を飛ぶ生き物には効果が薄い。しかも感知範囲は狭いので見るまで理解していなかったのだが、大量の虫が空を飛びながら群がって来ていたのである。
迫りくる奴らは虫であった。黒光りしている身体は、台所にいるアレにしかみえない。
そんな奴らが真夜中の暗闇の中、月の光を背に受けて光り輝いている。黒光りだが。数なんてわからない。群雲の如くと言うのか霧のようだと言うのかわからないがとにかく大量である。
はっきりいって戦うなら、1匹ずつ叩いていたら間違いなく負ける。焦土戦術を取らないと勝てない相手だ。
アレは台所に居るからあれだけど、自然界では掃除屋だ。森なのだから居て当たり前の相手だ。
たまたま、進行方向にアタシが居るだけなのならば道を譲ろう。
だが襲いかかってくるのならば容赦しない。とは考えつつも、意思とは別に嫌悪感で身体は勝手に動く。
アタシはここまで歩いて来たことを無駄にすることになったが、山まで逃げた。
もしかして遠くからこの森を見た時に感じた、拒絶しているようなとは、森が拒絶しているのではなくて、アタシが拒絶していたのかもしれない。
そう言えば、女神さんに背後を取られたと気配を読めたことがあったのだ、自分の知らないうちに、大量のアレが居ることを読み取っていたのかもしれない。
山の縁にたどり着き、念のために潜伏スキルを使うが、姿が消えない。
と言うことは、全部か一部かわからないけどアレはアタシをターゲットにしていることがわかってしまった。それならばと思い。山の頂上にまで逃げた。
アレが森に近寄る物を排除する性質なのであるなら、この山まで登ってこないだろう、ただ単に進行方向にいた生物を狙っていたなら、ここまでは追い掛けて来ないだろう。
ここはセーフティゾーンと思っていたら、背後に気配を感じた。アタシはサイドステップを踏み、気配から遠ざかると、アタシが居たところを大きめな塊が通過していった。
アタシに避けられた塊は円を描いて再びアタシに向かってきた。月明かりに照らされた茶色い塊はヒリュウであった。
再びアタシはサイドステップを踏み避ける。今はアレの大群に追われている状況だ。襲い掛かってきたヒリュウには申し訳ないけど相手をしている場合ではないのである。
何せセーフティゾーンだと思っていたのに、一部のアレが山を登ってきている。
山に沿って飛翔してきているアレもいる。上空を見上げるとヒリュウが3匹ほど旋回しているのがわかる。
アレが地から、ヒリュウが空から。ドウシテコウナッタ。
変身後の戦闘は初めてだ。やれるところまでやって無理なら大逃げしよう。
気を集めて身構えた瞬間に、ヒリュウが一斉に襲い掛かってきた。




