ヒリュウの悲劇
アタシは今、真っ黒な生物と対峙中である。
この生物は1匹倒しても30匹居そうな勢いで群がってくるのである。
ある個体は地を駆け回り、ある個体は垂直な岩山を登り、またある個体は空を飛ぶ。
そんな生物が次々と群がって来ているのだ。原形となっている生物は、何も悪いことはしていないのに、人の生活と密着し過ぎていたので、嫌われてしまっているあの悲しい生き物である。
そんな感傷的な事を言ったが、アタシだって苦手である。見つけたら逃げずにスリッパを持って追い回すくらいはできるけどね。
ドウシテコウナッタ。
久し振りに言った気がする。
変身後の力を把握したあと、ワニがいた大きな川を飛んで渡った。そして再び草原を歩きだした。
大草原をコスプレナース姿で歩く。とてもシュールであるが、誰も見ていないし。気にしたら敗けだ。
川向こうの草原とは。
そう。恐竜が闊歩している危険な場所である。
でもドラゴンを見慣れてしまったアタシには、せっかくの恐竜も大きめな蜥蜴にしか思えなくなっていた。
草食の恐竜は、暴走し始めたら体格が良いだけに体当りをされたら大怪我に繋がるけど。基本的には、まったく脅威にならないので置いといて。
この草原では肉食の恐竜が食物連鎖の頂点なのであろう。肉食哺乳類であるライオンや狼も、草食動物と一緒に逃げ出していたのだから。
だが草原を歩いているとわかるが、恐竜は常日頃から狩りをしているわけではないみたいだ。
何度か御食事をしているところを見たが、ほとんど丸飲みである。あれでは消化に時間が掛かるだろう。なので、狩りが成功したあとは、だらけているだけである。
驚いたことに、そんなだらけている恐竜に草食動物が平然と近寄ってきて周囲の草を食べているのである。
恐竜はONとOFFが極端な生き物であると理解しておけば大丈夫そうだ。
そんな動物達に混じって、魔物もこの草原にはたくさんいる。コボルト、ゴブリン、オークと御三家勢揃いだ。
初めてこの地に来たときに、すぐに川を渡って正解であったようだ。時期的なものなのか、アタシの探索能力が上がったからなのか、わからないけど、魔物が居ないエリアが見つからない。魔物がいる場所では安心して休めなかっただろうからだ。
あの頃のアタシでは耐えきれなかったであろう。潜伏スキルも使えなかったから、きっと何処かでうっかり寝てしまい。何かのお腹の中で最後を迎えていたに違いあるまい。
飛竜のいた山の頂上での判断は間違っていなかった事に安堵した。
1週間進んだところで、草原の終わりが見えた。その先は深い森である。でも良くわからないが、あの森には近付いてはいけないような雰囲気を感じる。全てを拒絶しているというような、部外者お断りというような、そんな雰囲気である。
取り合えず森には入らないと決めて、ギリギリまで近寄って様子を見ることにした。
近寄ってはみたが、見た目はやっぱり普通の森である。それこそ一見したところで何のへんてつもない普通の森である。
なのに、なんでこんなにも普通と強調しているのかと言うと。
アタシの振動感知が効かないのである。まるで不思議な力で打ち消されてしまっているかのようだ。
見た目は普通なのに、普通ではない場所。これはやっぱりダメな場所だと考えて。早々に引き下がることにした。
草原の先には森しかないが北に回れば山があり、南に回れば……たぶんそのうち海に出られると思う。
それを確めるために垂直ジャンプすれば良いが、目立つ行動をすれば世界の王達……女王様に見つかるかもしれないと思うと、なんだかする気になれない。
なので山を登ることにした。そうすれば自動的に先も見渡すことが出来ると考えたからだ。
この山は、ヒリュウに襲われた山である。はじまりの岩山をぐるっと囲んでいた山だ。
深く考えていなかったが、経験した今ならわかる。これは大きなクレーターだ。はじまりの岩山は隕石が落ちた時に隆起して出来たのかもしれない。
そこを世界の王が宇宙船を隠すカモフラージュとして利用したと考えるとなんとなく納得できる。
まあ。どうでも良いことなのだが。
ヒリュウに襲われないように周囲だけではなく、上空も気にしながら山を登り始めた。
蜘蛛の能力を使い垂直な山肌を登りきると広大な景色を一望できた。
南をみても森しかなく地平線に消えていっている。東を見ても、やはりここから先ずっと森が続いているみたいだ。
深い森だ。緑の木々も森が深すぎると黒く見える。先のことも見ずに踏み込んでいたら緊張ないつまで続くかわからない森の中を歩き続けないといけなかった。
まあ。見たからと言ってもこの森を歩いて抜けるためには何週間も掛かるとわかっただけであるが。
このまま東に向かって進むのなら歩くか飛んでいくかの二択である。
飛んでいったら垂直ジャンプしなかった意味がない。なので歩いて抜けることを考えたが、森の雰囲気が雰囲気だし躊躇してしまう。でも東に向かうには、この森を抜けるしかない。ふと北を見ると、北も森が続いているが北東の方角になにやら建物らしき物が見えた。
こんな森の中に建物があるとは……。
今更、東に向かうのを止められないし、取り合えず、あの建物を目指してみようと思った。
森の中を歩いてみて、怪しい雰囲気に、のまれそうなら飛んで逃げることに決めた。
山を下り始めたマッキーの上空では、ようやく飛来したヒリュウが出番なく円を描いて寂しげに飛んでいた。




