新たなる旅立ち
精神的ダメージが抜けきらず、座り込んでいるアタシをよそに
「ハチジュウノケーよ。お父さんが今行くからなー」
世界の王がそう叫びながら飛び立とうとした。だがその時に、女王様から待ったが掛かる。
何かと思えば、女王様は世界の王を捕捉するために、この星のあちらこちらに監視装置を配置しており、その装置から女神さんが今何処に居るのかわかるそうだ。
さっきから女王様は話しもしない、ただ静かに立っているだけだったので。娘さんが心配ではないのかと、気になっていたのだが。
でも逆に、娘さんが心配で居場所を探すために、集中していたから、はた目には静かに立っているだけにしか見えなかったのね。
世界の王が、自分の研究と娘さんとで天秤に掛けていた雰囲気だったので、宇宙人は親子の絆が薄いのかと気になっていたのだが杞憂のようで、なぜだかほっとした。
背中に女王様を乗せて飛び立つ世界の王。あっと言う間に東の空に消えていった。
さて、アタシはこれからどうしましょう。
だって、あの二人。何も言わずに飛んでいってしまったのだもの。ハムスターハウスもおいてけぼりである。
これは、アタシに自由に使っても良いと言うことなのかしら。元の姿に戻るまで隠れていれば良いということかな。
確かに一家に一台ハムスターハウスがあれば便利である。アタシも欲しいと思っていたしね。
でも、これはきっと罠だ。住み心地の良い部屋に住まわせておいて、離れられないようにする罠だ。
だって確か『中型生物用惑星内中距離移動可能型多種族観賞用ハウス』なのだから。これは宇宙人がペットを飼うためのケージである事に違いあるまい。
中にいれば安全には違いないことは、実体験済みである。あの巨大なドラゴンが降ってきても壊れないのだから。
でもアタシは冒険者である。安全、安心は魅力的であるが、自由とは引き換えに出来ない。アタシはハムスターハウスの扉を閉めてから、外鍵を掛けて、東に向かって歩き始めた。別に世界の王達を追うつもりではない。北は岩山、南はブラン砦、西はセントラル王国。行ったことが無いのは東だけだからだ。
南の更に南に向かうのも良さそうだけど、南に向かえば誰かに見つかってしまうかもしれないと思うと二の足を踏んでしまう。何せ女神様扱いされているのだから。
本当は、商人ギルドに寄ってから新たな旅に出たいところなのである。生存報告を兼ねているので、要らないけど長旅をする前に出金したいのである。有効期限は1年。失効したらもったいないけど、その時はその時でなんとかなるだろう。
さすがに二大ドラゴンが一ヶ月に渡り大暴れしていたので草原は静かである。振動感知に反応はないし、視界にも生き物は見えない。
歩きながら思ったのだが。コスプレナース+翼の対策は、超巨大マントでも作って被れば良いし、決め台詞への対策は喋らなければ良いのだ。
これからは無口なマントウーマンとして生きれば良いのである。
そうなると、変身後の力はどれだけあるのか試したくなった。変身したのだから強くなっていると思っていたけど、もしかしたら弱体化しているのかもしれない。
服装からして、前線で戦う格好ではない。どうみても後方勤務。しかも医療スタッフにしか見えない。
名乗りのところで、自分のことを治療魔法師と言っていたから、治療魔法に特化しているのかもしれない。
でも治療魔法って変身前でも使えるようになっていたから、わざわざ変身する必要はないし。回復包帯も万能薬もあるし。
もしそれだけしか出来ずに、運動能力が下がっていたら変身しただけでデメリットだらけである。
そんな事は無いだろうなと、ブローチを睨み付けてから力試しをしてみた。
結論から言おう。
メリットはあった。
気も魔力も使わずに空を飛ぶことが出来た。上限はわからないが、かなり速く飛ぶことも出来る。しかも慣性の法則を無視できるのかクイックターンも可能だし、その事による肉体へのダメージも無さそうだ。
力も上がった、自分と同じくらいの大岩も持ち上げて移動することも出来た。
すごい能力だ、自在に変身出来るのであれば、これほど使えるアイテムはない。
だが肝心な事がダメであった。これさえできれば、他が変わらなくとも決め台詞を受け入れようとも考えていたのに。やはりダメであった。神様はなんと意地悪な存在なのだろう。
肝心な事とは、やはり魔法はお尻からしか出ないのである。
念のため水魔法を使ったので、草原が水びだしになっただけで済んだが、火魔法から始めていたら背中の翼が燃えていたかもしれない。危ないところであった。
でも僅かな魔力で周囲を水びだしに出来たのだから、変身後は何かしらの力が働き、魔力を増幅しているのかもしれない。
治療する対象が居ないので治療魔法は使っていないが、きっと効果は抜群だと妄想できた。
デメリットは。
翼の分、面積が増えたので被弾率が増えたと妄想できる。ギリギリで敵の攻撃を避けるなんて芸当を見せたら、翼に当たりそうだ。
翼に掴めば掴まれた感触がわかる。間違いなく神経が通っているのだから、傷ついたら痛いに違いあるまい。
相手のギリギリ脇を駆け抜ける最速の一歩も、これでは使用不可である。
とうぜん、森の中を駆け抜けるなんて出来ないだろう。なので地上戦の場合、戦いの場は限定されそうだ。
メリットを考えれば、強くなったと実感できるが、戦闘スタイルを変えなければならないことが痛いところである。
ある程度、自分の力を把握出来たマッキーは、再び歩き始めた。
この先に、どんなことが待ち受けているのであろう。
先がわからないからこそ冒険である。新天地に向けて足を踏み出すマッキーであった。




