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リラックス(?)タイム

結論から言おう。

アタシは湯船に浸かっている。久し振りのお風呂はとても気持ちが良いものである。実際、身も心も完全リラックスとまでは言えないが、特別に調合された薬液により、更に身体の芯までホカホカになる程、堪能しているのである。

なのに、なんでリラックスとは言えないのかと言うと。



お風呂の前で入るか入らないか決めるため、心の中で抜いていた花びらを抜きすぎてしまい、心の中のアタシが花びらに埋まりかけていた時に、背後から音もなく近付く気配を感じた。

気配を感じるなんて、アタシは何かに開眼したのだろうか。だなんて言う考察は後回しだ。

振動感知に反応がないと言うことは、空中に居る相手である。アタシは気配から遠ざかるように大きく右に飛んだ。

そして飛びながら身体をひねり、背後をみると、そこには身長180センチ程ある、女性と思わしき人が、何かを捕まえ損ねたような体勢で空中に浮いていた。

両腕をクロスさせた体勢のまま、こちらに顔を向けるその人は、アタシが逃げおおせた事に驚いている様子であった。

お風呂を見せておいて、油断をしているところで捕縛しようとは、なんと恐ろしい罠だ。こんな罠を仕掛けられたら日本人なんて一網打尽である。って、日本人限定の罠なのか、これは。

空中に浮かぶ女性は、空振った両腕を解き、姿勢をただしてから、口を開いた。

「おかしい。逃げられてしまった。一寸前までなら簡単に捕まえられたのに。ヨミはまだ子供だから育ち盛りか、やっぱり成長が早いな」

ヨミ?今ヨミと言ったよね。こんなところまでヨミさんは来たことがあるんだ。って5千万年生きているのだから来たことがあっても不思議ではないか。

「あれ。良く見ると貴女はヨミでは無いのか気配が似ているから間違ってしまったぞ。どおりで服が黒から白に変わっているからおかしいと思っていたのだが。納得した」

なんだか自己完結してる。もしかしてアタシの背格好からヨミさんと勘違いして背後から捕まえて「だ〜れ〜だ」とでもやろうとしていたのであろうか。

それならば人違いである。なのでここが街中であるのならば、この人は大人に見えるけど子供っぽい性格で実はお茶目な人なのだろうと、軽く受け流して、この場からアタシが去ればおしまいなのだが。

だけどここはよくわからないが誰かの私有地である。どう考えてもアタシは不法侵入者だ。なので「ごめんあそばせ。あはははは」と笑いながら逃げる訳には行かない。そんなことをしたら不審者そのものである。

ここは、まず謝らなければなるまい。でも何て言って謝るべきか。次のリアクションに迷っている間に、先に女性が話しかけてきた。

「ヨミの気配のそっくりさん、真っ白な服の貴女は誰ですか。ここには何をしに来たのですか」

やばい。当たり前の誰何(スイカ)をされてしまった。どうしよう。でもここは正直に話すべきであろう。



言い訳じみて長くなったのでまとめるが。アタシは、嘘をつかない程度にここに来た経緯を話した。

アタシは冒険者『白い風』のマッキー。この星を冒険している最中に、大海の王クータンと出合ってこの地に連れてきてもらった。

海岸で別れる時に、川沿いに真っ直ぐ行けば『アノ場所』という所に着くから見てくれば良いと言われたので向かっていたのだけど。

黒い目玉と遭遇してビックリして走って逃げたら穴に落ちてしまったのでここに居ますと。

自分で言っておきながら、いったいどこのドジっ子キャラなのだろう、あの岩山から旅立つ時の慎重さを思い出すんだ。アタシ。と落ち込んでいると。

「クータンか。まだ生きていたんだ。この星の生き物はすぐに居なくなってしまうからな。そういえばヨミが可愛がっていたけど。クータンの紹介なら……問題ないか」

何が問題ないのだろうか。アタシは顔をあげて女性を見ると。

「冒険者マッキーは、湯船を見ていたけど、もしかしてお風呂好きなのかな」

クータンの話しからお風呂に飛んだけど気にしない。アタシが「はい」と答えたら、何故かお風呂を頂くことが出来た。のだが。



「マッキー。いい湯加減だよね。やっぱり一人でお風呂に入るより二人で入った方が楽しいな」

そう。空中に浮いていた女性と、はだかのお付き合いをしているのである。

「女神さん。そうですね。楽しいですね。でも出来れば、その、放して頂ければ幸いなのですが」


「えー。そうか放して欲しいのか。こんなにも楽しいというのにな。でもマッキーは恥ずかしがり屋だしな。そう思うのもしかたないよね。だが断る」

誰が教えたのだ、見事なノリ、ツッコミである。なんとか今の状況を打破しようとお願いしたのだが、残念ながら無下なく断られてしまった。

もちろん始めは「女神さんの後に頂ければ十分です」と、一緒に入ることをやんわりと拒否していたのだが「恥ずかしがることなどない。ほら」と女神さんは自分が着ていた服をあっさり脱ぎ捨てた。

いきなりの行動に、アタシの目はある場所に釘付けになる。見てしまった。そしてアタシはこの女性の攻撃力を上回ることは出来ないと悟ってしまった。そうそれはあまりに巨大な双丘……いや双山である。今までに見た誰よりも恐ろしい攻撃力を蓄えている武器である。そんな武器を向けられて驚いている間にアタシは捕まってしまったのである。


手慣れた感じであっさりマントを脱がされた時に思い出して『滑』の魔道具を発動させようとしたが時既に遅し。包帯水着の端を見つけられてしまい。引っ張られてしまった。その結果。

空中でアタシはコマの様に回転してしまったのである。

「あーれー」

ここで「良いじゃないか。良いじゃないか」と言われたら完全に時代劇のアレである。


アタシは手立てがないと諦めて、呆れ返る程大きな双山を背にして女神さんの膝の上にお尻を乗せている。

アタシが女神さんと呼んでいるのには訳がある。でもこの女性は本物の神様では無い。名前を『バズドハチジュウノケー』と言うとても長くて意味がわからない名前である。実は今言った名前は女神さんにより発音が違うと却下されている。でも何度聞いても、そう言う風にしか聞こえないのだから、どうしようもない。結局諦めて貰って少し前に、この星で言われたことのある『女神』さんと呼ぶことになった。

今のようなやり取りは、以前にもしているのだが覚えているだろうか。そう、女神さんは宇宙人なのである。しかも、世界の王の娘だとさ。

年齢だって?さっき聞いたよ、この世界で換算すると、たったの15億歳だとさ。世界の王がこの星に来たのは10億年前だと言っていたから。そうすると、女神さんはこの星の生まれではないと言うことである。

まあ。女の秘密はここまでにして、世界の王と女神さんとヨミさんとお風呂の関係なのだが。

今から3億年前に、水商売に失敗したので帰星する予定であった。なのに世界の王(父)が特異点を研究したいと我が儘を言い出して、母と喧嘩になった。

こんな田舎の星になんていつまでも居たくないと。水を売る事業は失敗したと言っても継続が出来なくなっただけで、残りの人生を派手に暮らさなければ、遺産を残せるくらい儲けたのだから。さっさと帰ろうと言ったのだが。世界の王(父)はまるで聞かずにこの星の裏側の何処かに宇宙船の研究室部分を分離して隠れたそうだ。

母も始めの2億年(2年)は(儲けたこともあって)我慢してあげていたけど、研究の成果で得られるものはガラクタばかりだと知り。この半年は色々な手段を講じて父の行方を探していると言う。


「この地の生き物はお湯を嫌がるので、つまらなかったのだが。マッキーは嫌などではなく好きなんだろ。ほら。頭を洗ってやろう。なに、遠慮はいらないぞ。お風呂は楽しいな。ほら。逃げようとするではない。マッキーよ」


いやいやアタシはアラフォーだから。頭を洗うくらい大人だし一人で出来るよ。



お風呂でのマッキーの受難はまだまだ続きそうである。


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