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旅立ち。遠足はおやつを持って

あれだけ大騒ぎしてヨミさんを追い出したアタシだが。

実はそこまでしなくても良かったのかもしれないと思い直している。

何せヨミさんは闇魔の魔王様なのだから、アタシの準備が出来ていない内に接触なんてしたら、闇魔に囚われてしまうだなんて考えていたのだが。

クレーターで見たヨミさんは、完全に魔王様であったが、今のヨミさんは良い意味で、普通だったのだ。

少しくらい話しをしても良かったのかもしれない。

済んだことはしかたがない。頭を切り替えて今は、普通にパンを焼いている。ヨミさんにもう無いとか、二度と食べられないとか、そんなことは言ってはいないのだから問題は何処にもないはずである。

作りかけのチョコレートはパンくずが混ざってしまったので、回復用のチョコレートにはしないで、おやつ用に染みチョコパンとしている。

パンをカリカリになるように焼いたのでイメージはチョコラスクである。保存食にもなるし、小腹がすいた時に食べるのにちょうど良い感じに出来上がった。チョコラスクは影魔法にしまっておいた。


そして、最後の晩餐ではないが、野菜と薫製肉をたっぷり使ったスープに薫製肉を厚目に切ったベーコンステーキとパンが今夜の夕飯である。

なんで豪勢にしているのかと言うと。明朝、この家から出ていくからだ。

ヨミさんに見付かった家にいつまでも居るわけにはいかない。いつまたチョコレートを寄越せと襲撃されるかわからないということもあるが。ちょうど良いから、旅を再開する切っ掛けにしようと考えたのである。

引きこもり体質のアタシなので、ちょっと居心地が良い場所に収まると、なかなか一歩が踏み出せないのである。そう考えれば本当に良い切っ掛けである。


それにしてもヨミさんは意外と言ってはなんだけど、妄想していた性格と比べると比較的まともであった。

もっと魔王様らしく俺様主義で逆らうものは断罪するとかと思っていたが、あれではただの子供である。5千万歳にはとても見えない。理由はわからないが、もしかして一周回って子供化したのかもしれない。


それにしても、デジャブを感じる。

アタシの結婚していた方の記憶からだ。結婚している方の記憶と特定しているならばデジャブでは無いかもしれないが。まあ結婚して子育てしていれば良くある情景だからデジャブと言いながらも何度も経験していることなんだろう。

アタシのコピーされた記憶に残っている子供の記憶。

長女、時任胡葉実(トキトウコヨミ)ときとう こよみ。10歳。

長男、時任清正美(トキトウキヨマサ)ときとう きよまさ。6歳。

長女の名前は旦那が『胡桃(クルミ)』と付けたがっていたのを大反対して、何とか一文字だけで妥協させたの。

だけど、旦那は諦めていなくて『くールみー』と微妙な発音で長女の事を呼んでいた。何度止めても続ける旦那には呆れたが、その時から未来の予想は出来ていた。

子供と言っても小学4年生にもなれば、立派なレディである。最近の記憶では『お父さんの呼び方マジきも』とか言われて凹んでいた事が思い出された。

長男の名前はこれまた旦那が『清く正しく美しく生きて欲しい』と当て字したのである。

意味はわかるし、そういう風に育って欲しいけど『美』の読みは何処に行った。

おかげで、幼稚園の時のあだ名は『トビー』である。お友達に『美』の読みがないのは可愛そうだとトキトウのトとくっ付けられてしまったからであるが。

始めはイジメに繋がるかと考えて頭を悩ましていたが。友達から気安く『トビー』と呼んでもらえてしかも「外国人みたいで格好良い」と言われたと喜んでいたから安心した。

そんな元気な二人だから、何度も誉めたし怒ったし。

アタシに記憶が二つあることによる弊害だと思う。でも、どちらかと言うと、結婚していない方の記憶の方が強いから、子供関連のデジャブは当てにならないと結論付けることにした。


翌朝、アタシは小屋を離れた。昨夜の内に綺麗に掃除もしておいたから、立つ鳥跡を濁さずである。

アタシは世界を旅するために西に進路を取った。

目的は何となくではなくて、世界の王が言っていた『闇魔の元がこの惑星の裏側に居る』という話しがあったので見に行くことにしたのである。しかもあの世界の王よりも強い存在であると言う。

世界の王は関わるなと言っていたが、関わらなくするためにも、どんな存在なのか知らなければ関わらないようにすることも出来ない。

なにせ何億年単位の寿命である。知らなければ安心してこの異世界で生きていくなんて出来るわけがない。

もしかしたら、この世界で生きている生物は、火薬庫の隣で火遊びをしている状態なのかもしれない。

そういうのは、大概、知らなかったで済まされる訳などない。と、滅亡へのカウントダウンが始まるものである。

そしてあの時、○○しておけば。と後悔するのが関の山だ。


そんな訳で、目指すはこの星の裏側に居る闇魔の元。見つけた時に出来れば調査したいけど、最悪でも無理はしない程度に観察までを行い、関わらないように生きるにはどうしたら良いかの判断をすることをしに行ってみるのである。


出来れば早目に判断したいので、空を飛んでいくことにした。地面を走るより余程安全だからだ。

危険な生物が居ないわけではないが、大空の王であるピィコやドラゴン形態の世界の王レベルの大型の生物がいれば遠くから見付けることが出来るはずである。

その時は隠れるなり迂回するなりすれば良いだろう。


アタシの新しい旅が始まる。この先に何が待ち受けているのかわからない。でもそれが冒険である。

アタシは気を身にまとい大空に飛び立った。


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