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ピンチはチョコパンで乗りきれ

ヨミさんは口を開いたが何か考えているようである。

まさか日本人だと気がついたのか。緊張で喉が乾く。思わず唾を飲み込んでしまった「ゴクリ」という音が大きく感じられた。

そして。

「テキトウ? 適当に言ってくれだと。どのみち偽名だからか。ああ。そういうことか。まあ。子供が森の中にある家で一人で居るのだから、何か特別な理由でもあるのだろう。わかった。では僕が名前を付けてやろう。マッキーと白雪と言っていたから。そうだな間を取ってグレイだな」


天は我に味方した。

危なかった。ヨミさんは聞き間違えたらしい。しかも自己完結してくれるなんて。それは良かったのだけど。

マッキーと白雪の間を取ってグレイってなに。

グレイってまさかのツルツル宇宙人のこと?それともマイナーなところで放射線の吸収量のこと?

ん。もしかしてマッ○ー=黒色の油性ペンと白雪=白色の間だから灰色のグレーのことかも。

それはいくらなんでも捻りすぎだよ。

いくら適当で良いと言っても、そもそも女性の名前にグレイなんて普通つけるのか?

ほんとこんな教育をした親の顔が見てみたい。


そう思ったが自分の格好を思い出す。チョコレートを作るため髪の毛は後ろで縛っているだけ。服装は濃緑色の作業着。まるで女っぽくない格好である。もしかして男性と勘違いしてるのかしら。それならばちょうど良いし乗っかってしまおう。

「アタ。じゃなくて私の名前はグレイ。ありがとう。良い名前だ。それで名前を付けてくれた、あなたはなんて言うのだい」

慣れない男言葉を使おうとして言い回しがおかしくなっている気がするが。アタシにはこれが限界だ。

「おお、そうだな。それではグレイに習って僕も偽名を名乗ろう。ヨミとでも呼んでくれ」

それって偽名でも何でも無いじゃないか。もしかして偽名だという裏をかいて普通に呼ばせようとしているのか。

なるほど、流石は魔王様だ。捻りが効いている。アタシもそう言えばよかった。

って言うか名前を名乗りあうだけでいったいどれだけ掛かっているのよ。さっさとお引き取り願わなければ。


「ヨミさんですね。ちょうど沢山出来たところだから。分けてあげるね。アタ、私の手製だから味の保障は出来ないけど。それでも良ければどうぞお持ちください。ちょっと待ってね」

そう言い残して、ヨミさんを入り口で待たせて、アタシは奥の部屋に。入った。

そして一般用のチョコレートを影魔法から出して、木の箱に12個1ダース分入れたところで深呼吸。

さっと渡して、さっとバイバイするぞ。お互い偽名なのだから馴れ合う必要もないし。問答無用で扉を閉めてしまえば終了の簡単任務だ。

「よし。いくぞ」気合いを入れ直して扉をあけた。


「こうやっても旨いな。チョコパンなんて食べたのは久し振りだ」

『も』、と言っていることでわかると思うけど、作りかけのチョコレート……まだ固めていないのでドロドロの状態にあるやつと、

夕飯用に焼いておいたパンが机に置きっぱなしにしてあったのを忘れてた。

それを見事に食べられてしまったのである。

ちなみにパンは土魔法を利用して炭酸ガスを混ぜる事によりやわらかでふっくらするようになったアタシのオリジナルパンである。

パンは御飯用、チョコレートは回復用としか考えていなかったので、チョコレートを付けて食べるなんて考えてもいなかった。そう言えばチョコ付きパンは、子供の頃に良く食べたな。3時のおやつに良いかも。

って違う。感心していてはダメだ。きっぱりと、しっかり言わなきゃ。アタシが口を開こうとしたら。

「この組み合わせは、とても美味しいのだが僕には少し甘過ぎて口の中が甘ったるくなった。コーヒーか紅茶は無いか」

「コーヒーや紅茶は、すぐに出せないけど。ココアならすぐに出せるよ。香りは甘いけど、甘くは無いから口の中がさっぱりするよ」

「ココアか。この家は珍しいものが多いな。ではそれで頼む」

「承りまりました」

アタシは台所に向かいカップにココアをいれたところで、おかしいことに気がついた。

歓待してどうする。まずは怒らないと。勝手に家に上がって、しかもアタシの夕飯を食べてしまうなんて、なんて手癖の悪い魔王だ。

いくらよそ様の子だといっても、礼儀がなってないならお仕置きしなければなるまい。

だが相手は魔王様だ。この程度の被害で済んだと思えば、食べ物の恨みをぐらい呑み込むのは容易い(タヤスイ)。

ここは我慢して氷を小さな破片にまで砕いた、クラッシュアイスを入れてガンガンに冷やしたココアを差し出した。かき氷の要領である。せめてものお仕置きだ。頭がキーンとなってしまえ。

よっぽど口の中が甘ったるかったのであろう。ヨミさんはカップを逆さまにすると一気に中身を口に入れて氷をガリガリ砕いている。

「これは……」

良し。準備は整った。ヨミさんよ、頭を抱えろ、抱えてしまえとアタシは心の中で念じた。

「これは、頭がキーンとする。これまた久し振りだ。グレイよ。何だか楽しいのお」

作戦は成功して狙い通り、天罰は下されたが何故だか悔しい。逆に喜ばれてしまったみたいだ。

作戦を変更するしかない、今更感で白々しいけど。

「私の夕飯のパンを食べたな。それしか無いのに。しかも作りかけのチョコレートまで食べてしまうなんて酷い。出ていけ、もう来るな」

いきなり態度が変わったアタシに、ヨミさんは動揺しているようだ。目を満丸くしている。

これはチャンスだ。アタシとヨミさんは同じような体格をしている。一気に玄関まで押し出して、扉を閉めた。

アラフォーの大人が、なに子供っぽいことをしている。なんてことは言わないでおくれ。これは子供っぽい態度の演技なのだ。狙ってやっているとはいえ、めっちゃ恥ずかしいのよ。

扉を閉めた直後、ドンドンと外から扉を叩かれ。

「僕が勝手に食べたのは謝る。ごめんよ。この通りだ。だから開けておくれ」

魔王様が謝った。きっと珍しい事に違いない。でもアタシは心を鬼にして。

「いくら謝られてもパンは返ってこない。始めに食べたがっていたチョコレートも食べたのだから。もう用はないでしょ。さようなら。バイバイ」

暫く扉を叩く音が続いていたが、諦めたのか音がしなくなった。

振動感知の反応も突然消えたことから。飛んでいったに違いない。

アタシは扉に寄り掛かりながら、その場に座り込んでしまった。

危なかった。まずはヨミさん曰く同胞だと気付かれずにすんだ。それに怒らせて戦闘になることにもならなくてすんだ。


なんとかピンチを切り抜けて安堵のため息をついているマッキーであった。


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