商人ギルドは黒歴史
無事に王都に入ることが出来たので、さっそく商人ギルドに向かい、出金の手続きを行った。
登録が抹消されていないかドキドキしてまっていたが、何の問題もなく渡した伝票通り金貨5枚銀貨5枚を手渡された。
ついでに預金高を見せて貰えば金貨500万枚を越えていた。えっと。金貨1万枚の価値は元の世界で100億円だから500万枚ということは5兆円だね。そっか。アタシも金持ちになったものだ。うん。うん。
余りにも数字が大きくなりすぎてピンときていない。一年以上前に預金額を確認した時も10万枚越えしていたのだが、その時は3ヶ月程度で『氷』の魔道具を10万個も売った商人ギルドが凄いと思うだけで価値は考えていなかった。
単純に生産量が倍倍に増えたのなら、確かに届く数字ではあるが、需要はそこまでないだろう。
そうすると商人ギルド内での元金保障融資による利益還元による儲けが入って来ているのかしら。
商人ギルドにある椅子に座って考えていると。知っている振動が近付いてきて対面に座った。それと共にコーヒーの香りがアタシを包み込む。座った人物はブラン砦でお世話になった商人ギルドのピエールさんであった。
知らなかったがピエールさんは、ブラン砦の副支店長をしていたそうだ、そして『氷』の魔道具の販売を評価されて王都本店に栄転となったそうだ。
なので「おめでとうございます」と言ったのだが、何故か微妙な表情をしていた。何でだろうと思っていたら。
ピエールさんに誘われたので、商人ギルドの商談室に場所を移した。「少々お待ちください」そう言ってピエールさんは出ていった。
商談室はその性質上、盗み聞きされないように声が漏れたりしないように作られている。もしかして秘密の話しでもするのだろうか。アタシからは商談する事案がないからそうとしか考えられない。なんだろう。考えたところで何も思い浮かぶはずがない。
アタシは、考えることを放棄してぼんやり商談室に飾られた絵を見ていた。
絵と言うのは心をまっさらにしてみるものだ。そうすれば描いた人物が何を考えていたのか、心のキャンパスに写し出されるものであると。お婆ちゃんが言っていたのを思い出した。
続いて出る言葉はたいてい、最近の評論家は技術技術って煩い。黙ってみていればいいのに。良し悪しなんて人の数だけあるというものだ、自分が良いと思ったものが良い絵なのだからね。と、なるのである。
そんなお婆ちゃんに影響を受けたアタシは絵をぼんやり見ていたので初めは気がつかなかった。
でも見ている間に、頭の中に演説が聴こえてくるような錯覚を覚えた。
不思議な錯覚に絵を良く見ると、真っ白な服を身にまとった少女が慈愛に満ちた微笑みを浮かべ宙に浮いている。その周囲にはたくさんの人々が祈るようにも、静かに話しを聞いているようにも見えた。
「これってまさか」
アタシが思わず声をあげたタイミングで扉が開き、コーヒーを2杯持ったピエールさんが現れた。
アタシがコーヒー好きだと覚えていてくれたみたいだ。
ピエールさんはコーヒーカップを机におき。アタシが注目してしまっていた絵を観ながら。
「気が付きましたか。そう。この絵はマッキーさんが大演説していた時の絵です。そのまま切り取った絵ではないのはわかっていますが、この絵は私が見た印象そのままなのですよ」
あの演説が絵にされている事にも驚いたけど、アタシがちょっとどころではない、かなり美化されてませんか。いったいこの人誰レベルで。しかも後光まで背負っているし。
しかもピエールさんが言うには、この手の絵はブラン砦の内の絵師の手によりたくさん描かれていて、砦内限定だが一大ブームを巻き起こしたと。
更に演説の内容は本となり知らぬものは誰も居ないそうだ。いったい何の罰ゲームだ、本気でやめてほしい。
でもブームになった原因はアタシが大演説を行ったあとに、すぐに旅に出てしまったからだ。
ブラン砦に孤児として3ヵ月程前に現れて、ネズミ駆除をしていた少女。
冒険者達は『ネズミ苦女子』とバカにしていたあの少女が冒険者の夢である一攫千金を達成した。
少女は運だけではなく、ブラン砦冒険者ギルド筆頭パーティである漆黒の鉄槌のダンさんに「まいった」と言わせる実力も持っている。
大宴会の企画もさることながら、大演説によってブラン砦の冒険者、商人、守備兵、一般人、すべての人が運命共同体であると再確認させる事により心を一つにまとめた。
そんな功績を立てた少女は、ブラン砦に住む人たちがそうと気づく前にすでに立ち去っていた。
しかもあれだけたくさんいたネズミを見ることもほとんどなくなったという。
ここで疑念が沸く。はたしてあの『白い風のマッキー』と名のる少女は本当に孤児であったのか。本当は神の使いか何かだったのではないだろうか。なにせ、隣国の貴族が少女を探しに現れたからだ。
ブラン砦は人間の住む領土の最東端にある。こんな僻地にまで、魔法大国であるセントラル王国の貴族が、わざわざ足を運び、孤児である少女を探しに来るなんてありえない。
住民たちの疑念が確信に変わった。
冒険者ギルドと商人ギルドがいくら『白い風のマッキー』は、普通の人間であると言っても。まったく聞かない。
逆にそんな事をわざわざ言うということに疑問を持たれて、マッキー=女神というのが定着してしまったそうだ。
その後、女神の絵や女神の足跡とも称されている本も爆発的に売れたそうだ。
アタシはそこまで聞いた後、ピエールさんの顔を見て頭を抱えた。なんて事になっているのだと思うと共に、ピエールさんの微笑みに隠されているが『おかげさまで儲かりました』と書いてある気がしたからだ。
商人ギルドは恐ろしい。そこに儲け話が落ちているならば、確実に拾うのだろう。
アタシの預金額のいくらかは、絵や本の売上が入っているらしい。そしてその売上は僻地限定だったためピークを過ぎて下降線を辿ったが、再び徐々に盛り返して来ていると言う。
なんとこの王都でだ。それを聞いてアタシはバーン家の兵隊さん達から、女神様と言われていた事を思い出した。
その場逃れで女神様は居なくなったと演技したが、不十分であったようだ。
ピエールさんは更に追い討ちを掛けるように話しを続けた。これはもう、とどめである。逸そ、この場で力尽きて消えてしまいたかった。
「良かったですね。これだけ広まれば、女神信仰が興りますよ。なにせすでにブラン砦では、本人は嫌がっていましたがアランさんの『青く澄み渡る風』クランを中心に置いて布教が始まっていましたからね」
アタシはどうすれば良いのよ。
真っ白に燃え尽きてしまいそうになったマッキーであった。




