掛け声は「せたっぷごー」
アタシは結果に満足している。エルフの魔術は面白いね。被験者が我慢さえすれば何度でもやり直しが出来るのだから。
火魔法を受けて全身火傷によりペガヌスは虫の息であったが「白雪には二度と逆らわない。約束する」と言ったので回復包帯で治療を始めた。
ペガヌスは2メートル越えのワンコである。全身火傷の治療に大量の包帯が必要となったが何とか治療完了である。
ただ燃えてしまった体毛は回復包帯では、はえてこなかった。なので魔銀鎧に守られていた場所だけ体毛があり、そこ以外はピンクの地肌となっている。
逆に言えば、腕から先、すねから先、胸と腰のあたりと頭部は体毛があるので、まるで狼男のコスプレした人間に見えるので少し可笑しく感じた。
でもそんなことで笑ってはいけない。
たとえフサフサだった尻尾の毛も無くなってブタさんの尻尾にしか見えなくとも。なにせ。
「白雪様。私の命を助けて下さり感謝致します。何なりとご指示ください」とペガヌスはシリアスモードであるからだ。
ここで笑ってしまったらペガヌスに対して威厳が保てない。アタシは出来るだけ尊大な態度で話しをした。
ペガヌスの話し言葉が元に戻っているのは、エルフの魔術が解けたからだ。背中を向かせて魔術文を確認すると完全に消えている。因みにエルフの魔術の媒体は、魔石を細かく砕いて魔力を込めた水に万能薬に使ったサクラの花弁を一晩漬けた物である。
この媒体を刺青のように身体に刻み込むのである。
刺青は一生消えない。なので効果は永続的になる筈なのだが、刺青の入っていた腰のあたりも火傷によりダメージを受けていたので、
アタシの回復包帯での治療で火傷と共に刺青まで消えてしまっていた。もちろん力も元に戻ってしまっている。
そうとわかればと思い、アタシはペガヌスを見た。
きっとアタシの目は獲物を見つけた捕食者のように輝いていたに違いない。
なにせペガヌスが背筋を伸ばして、毛の無い尻尾をお腹に回している。因みに魔銀鎧のおかげでパンツは燃えていなかった。
だがその姿は、パンツをはかせているのにも関わらず、まるでアレのようにも見える。
油断するとこれだ。この世界の生き物は相変わらず……。
自分がやったということは棚に上げてアタシは憤っている。この不満を晴らすためには、と考えてみれば。
ちょうど良いことに、ここに自由に出来る被験者がいるではないか。理由など、それさえあればそれだけでいい。お伺いなどをたてる必要はないのである。
詳細は省くがペガヌスは背後で涙を流して地に伏せている。きっと喜んでいるに違いない。
なにせペガヌスの希望通りのポーカーフェイス状態とと普通状態とを切り替えることが出来るようになったからだ。しかも力も上がると言うおまけ付き。これで喜ばない訳がない。
「ねえ。ペガヌス。パワーアップおめでとう。それって嬉しいよね。ね」
アタシがそう質問すると、ペガヌスは直立不動の体勢になり「イエスサー。私は感動のあまり涙が止まらないのであります」と言っている。
ほらね。アタシはペガヌスに酷いことはしていないよ。
アタシの記憶には、エルフの魔術を使っては消し、使っては消しと数回しただけしか覚えていない。
メモ用紙に記述したデータが何十種類分かあるような気もするけど、記憶には無いから、そんなには実験などはしていないはず。
でも何十回も犠牲になった生物がいたおかげで、蓄積したデータにより、ペガヌスは無事にパワーアップしたし、アタシもエルフの魔術のデータ採りが出来たので。
これこそ、一石二鳥である。二人でWinWin出来たのだから、この試みは大成功である。
因みに実験により、エルフの魔術は3節まで刻む事が出来るとわかった。
『起動キーワード』『マイナス条件』『プラス条件』である。
エルフに魔術を教えた神様と呼ばれる人物は、うっかり屋さんだと想像できる。
起動枠があるならば、始めから教えておけば良いのに。そうすれば後から感情を表す言葉(コギャル語)を教える必要なんかなかったはずだ。
それとも何か別の理由があったのかも知れない。
その理由は良くわからないが、起動キーワードは簡単、単純である。
『母ナル大地ヨ我ニ力ヲ与エテクレタマエ パワーアップ set up go』刻んだ文字はこれだ。英語の部分の発音は「せたっぷごー」である。
いきなり和製英語が出てきたのはビックリだが、アタシも良く見つけたものだ。
でも実は『set up go』だけでも起動したのだが、ペガヌスには内緒である。
何故かと言うと、この方がビジュアル的にも映えるからである。って言うのは半分冗談で、なんと3つまでなら魔術文を刻む事が出来たのである。
なので使い分けるために起動キーワードを長くしているのである。
とは言っても、ペガヌスには最終的に1つしか刻み込んでいないのであるから無駄なのだが。
そして1日が終わり。翌日の朝、目覚めたペガヌスに異変が起きた。
それはいつまで経ってもペガヌスが起きてこないのだ。
これではせっかく作った朝食が冷めてしまう。アタシはネボスケワンコを起こそうと寝室としている部屋を覗いた。
因みにペガヌスの家は洞窟なので、扉など一つもない。
そこにはビクビクとしか動けないでいるペガヌスが転がっていた。
そう。昨日の実験でパワーアップさせたせいで、筋肉痛になっていたのだ。
筋肉痛ならば、アタシの回復包帯で治療出来るので包帯を巻き付けると、ペガヌスはすぐに動けるようになったが、エルフに起動キーワードが伝わっていない理由は解除した時に筋肉痛になり動けなくなってしまうからかもしれない。
強い魔物と戦った翌日は動けませんでは、生き残ることは出来なかったと想像できる。
そうなるとエルフ用にするためには、まだまだ実験が必要となりそうだ。
そう考えつつ、ペガヌスを見ると、壁に張り付いてイヤイヤをしている。
以心伝心とは素晴らしきかな。
「トリアエズ 朝御飯だよ」
ペガヌスの受難は数日続く事になった。




