死闘、vsペガヌス
「まったくワンコめ、ちょっと強くなったくらいで調子に乗るな」
アタシはペガヌスが突き出した右手から伸びる爪の攻撃を半身になって避けたと同時にホウキを突き出したが、ペガヌスの左手に装備されている籠手によっていなされてしまい、たたらを踏むようになってしまった上、前屈みになってしまった、ペガヌスに完全に背後を取られてしまった。前屈みになった人間は構造上背後からの攻撃は防げない。
いきなり戦闘中の上、絶体絶命の大ピンチだが、何があったかだけは爪で引き裂かれる前に伝えておこう。
それは選択肢を与えた時にペガヌスは悩むそぶりもせずに
「感情表現が出来なくなるって、それって相手に俺の感情が読めなくなるってことだろ。それはスゲーぜ。格好いいぜ。力が倍なんてどうでもいい。ぜひやってくれ」
なるほど、確かに武人と言っているがペガヌスはクールさが微塵もない。
ポーカーフェイスが出来るようになったら武人として一枚脱皮できそうな気がする。
でも出来ないと、しないとでは、まったく違うことが理解できているのだろうか。
一応可愛がっていたワンコなので、その事を質すが武人に二言は無いと言いはる。
そこまで言うなら折角の実験体だ、丁寧に描いてやろう。
でもまずは今のペガヌスの力を確認する。
土魔法で直径1メートルの土玉を作ったので持ち上げてもらった。
軽々とは言わないが持ち上げる事は出来た。
正確な数値を知りたいわけではないので、負荷が掛かる重さなら問題なし。
さっそくアタシはペガヌスの腰の剛毛を一部刈り取り、そこに魔術文を描いた。
描ききった瞬間にペガヌスの腰が光だし、そしてすぐに光は消えた。
「コレデオレハ、カンジョウヲ、ヨマレナクナッタノカ」
いきなり棒読みである。
「コレハスゲー。シラユキ。カンシャスル」
セリフは嬉しそうだが尻尾はまるで動かない。
確かに感情表現が出来なくなったみたいだ。
なので次に本題の力が増したか確認するために、先程の土玉を持ち上げてもらうと。
そのまま土玉を放り上げて爪先で回し始めた。まるでバスケットボールを回すがごとくである。
「コノオレサマニ、チカラガツイタノナラ、オソレルモノハ、ナニモナイ」
アタシは実験台にしたことに後ろめたさを感じながら、自分を誤魔化すためにペガヌスを褒め称えた。
「ペガヌスよ、良かったな。走攻守すべてに於いて、穴が無くなったのだからきっと将軍になれるに違いないぞ」
これで気持ちだけでも幸せな気分になれれば良いなと思っていたのだが「スコシ、マッテイテクレヌカ」と言い残し洞窟に入っていった。
次に現れた時は、魔銀の鎧に身を包んでいた。
なるほど、アタシにペガヌスの勇姿を見せたくなったのか。ほんと、かわいいワンコだ。
なんていうのはアタシの妄想であった。
ペガヌスは洞窟から出てくるなり。
「コレデオレサマニハ、ジャクテンガナクナッタ。モウ、シラユキヲ、オソレル、ヒツヨウガナイ。オレサマ、ショウグンニナル。ツギハ、タイチョウ。シラユキ、オマエヲ、タオサナケレバ、ナラナイ。マオウグンタイチョウヨリ、ツヨイヤツガ、イテハイケナイノダ」
えっと棒読み過ぎて良くわからないが、要するにペガヌスがアタシを倒すってことですか。
そうですか。
……。
もしかしてアタシ、やっちゃった?
これって仕付け出来ていないワンコの首輪を外してしまったような感じ?
「ワキアガルチカラ、オレサマノマエハ、ナンビトサエモ、ハシラセナイ。サア。シラユキヨ、オマエモブキヲモテ。ソシテオレサマノ、カテトナルノダ」
ペガヌスったら、殺る気満々ではないか。冗談だよね。冗談だと言っておくれ。
「ペガヌスよ、本気で言っているのか?アタシが授けた防具と力をアタシに向かって振るうというのか。笑わせる。今なら冗談で済ませられるぞ」
言葉が強気発言なのは、この世界が優しい世界ではないからだ。弱肉強食、嘗められたら終わりだからだ。
たとえどんなに知能が発達したといっても魔物は魔物なのか。
それともこれは普通なことで、動物は自身と相手の強さを天秤にかけて、強いものに従う習性と言うか自然の摂理であるからなのか。
「イクゾ」
やっぱり本気だった。だが相変わらずタイミングを教えてくれるあたり、感情表現が出来なくなったといっても甘いと思う。
アタシはペガヌスの右手からの踏み込み横払いを、バックステップをして避けた。
だがペガヌスはそれにすぐに反応し、更に踏み込んで左腕から突きを放ってきた。アタシはペガヌスの腕の挙動を見続け、少し下がったところで左に避ける。
完全に余談だけど。じっくり見ていたので小指の爪は短いけど伸び始めていることがわかった。
ペガヌスの力が増した分の速度アップは、前回の対戦とあまり違いがない。と言うことは、エルフの魔術と言うものは、瞬間的に力が上がるのでは無くて。最大値の持続力が上がる術だと想定できる。
ペガヌスの速度程度なら避けるだけなら余裕だ。なにせ大地の王であるミーヤの方がよっぽど速いからである。
だから前回と同じようにカウンターを仕掛けたいところだが、魔銀鎧が弱点を守っているため、攻めどころがない。
相変わらず甘い考えだが、どうしたら無力化出来るのかと考えながら右に左に避けていたのだが。
「シラユキヨ、オレサマノコウゲキニ、テモアシモデナイヨウダナ。シニタクナイダロウ。コウサンスルナラ、オレサマノブカニシテヤル」
と言う、ペガヌスの言葉に、アタシの頭の中にある何かがキレた。
「まったくワンコめ、ちょっと強くなったくらいで調子に乗るな」
「オレサマニ、サカラウノダナ。ナラバ、コノツメニ、ヒキサカレルガヨイ」
アタシはペガヌスが突き出した右手から伸びる爪の攻撃を半身になって避けたと同時にホウキを突き出した。
だがその攻撃はペガヌスの左手に装備されている籠手によっていなされてしまい、たたらを踏むようになってしまった上、前屈みになってしまった。
それはペガヌスに完全に背後を取られてしまったことになり、更に前屈みになった人間は構造上背後からの攻撃は防げない。
「オレサマノカチダ、シラユキ。ペガヌス。リュウセイ……」
ペガヌスは勝ちを確信しているようだが、アタシにとってこの体勢はピンチなどではない。
「火よ出よ」
そう。前屈みの体勢から背後に攻撃するなんてアタシには簡単なことである。
光魔法は、日中では効果が微妙だし。
水魔法と風魔法は、今この瞬間を止めるならいいが、戦いを止めることは出来ないだろう。
土魔法は、生き物に使うことを自主封印している。
蜘蛛糸でも良かったが、絡まって動けなくなるまでにタイムラグがあるから使うなら相手の油断を誘ってからだ。
なので消去法により火魔法をつかったのだが、少々やり過ぎたみたいだ。
アタシの火魔法は以前のガスバーナー程度の威力ではない。とっくに火炎放射器のように放射することが可能となっている。
火の魔術とは違い火魔法は『火が出るだけ』である。魔力量が以前よりも圧倒的に増えたが、そのことは変わらない。だから今でもお尻から火の玉を飛ばすことは出来ないのだが。火の柱を作ることなら出来る。
『お尻からファイヤー』
口には決して出さないが、発動させる時に頭の中で唱えるキーコマンドである。
ペガヌスが何か必殺技らしい事をしようとしていたようだったが不発だったようだ。なにせアタシは無傷であるからだ。
振り返るとペガヌスは全身の体毛に燃え広がった火を消そうと七転八倒していた。
「キヤインキヤイン」悲鳴をあげているのだが、それさえも棒読みである。感情表現が出来ないと言うのは凄まじく恐ろしい事であると理解した。
甘い考えだとわかっているが、1週間程度だが一緒に生活した仲である。なので水魔法で消火してあげた。もちろんキーコマンドは『お尻からウォーター』である。
消火は済んだが全身火傷によりペガヌスは虫の息である。
「アタシの勝ちだね。二度とアタシに爪を向けないと誓うなら、助けてあげるけど。負けた武人として死を望むなら介添えするよ」
アタシはペガヌスからの返事を黙って待った。




