エルフと神様と歴史
製造に取り掛かって数ヶ月やっと万能薬が完成した。
万能薬のレシピ自体はとても簡単だったのだが、一点だけ面倒な物があった。
なぜなら、エルフの集落から北西にある小高い丘の上に咲くサクラの花びらが必要であったからである。
しかも必要なのは咲いている花ではなく、散った花びらが地面に落ちる前の物だと。
なぜなら、咲いている花では効果が無く散るときに効果が現れると。
そして地面に落ちると効果がなくなるらしい。しかも手で触れても効果がなくなるので、魔力のこもった容器で集めなければならなかったのである。
サクラの花びらがなくても強力な効果を発揮するが、正当なレシピがあるならばまずは実践するのが日本人である。
そこから先にオマージュして行くのも日本人だが、正当なレシピ通りに完成させよう。
まずは、次のサクラの咲き始める季節まで8ヶ月待ちから開始である。
それまでに出来る事は済ませたが、時間がたくさんあるのでついでに南に降りてカカオを採種したりしていた。
残念ながらエルフはミルクを飲む風習は無いので追加のチョコレート作りはしていない。
魔力補充用と割りきってしまえばミルクなしチョコレートを作ることも薮かさではないが、コーヒーやココアとは違い、チョコレートは甘くてまろやかな方がアタシ的には好きだからだ。
基本的に自分用なのだから自分の好きなように作るのである、いくらエルフ三人がチョコレートが欲しいと騒ごうとも出来ないものは出来ないのである。
その辺りはアタシは厳しいのである。でも代わりにパンケーキの作り方は教えた。サトウキビの群生地にはマンドラゴラが居るので、そちらは内緒にして甜菜を使ったレシピである。
イノシシ肉の燻製と共に物々交換をしたので食生活に困ることはなくのんびりと生活していたのだが、万能薬のレシピをメモしている時にふと気がついた。と言うか思い出した。
アタシがマンドラゴラを持って帰ってきた時に鍛冶屋さんが『の』の字を書いていたことを。
エルフの集落で生活していると文字はまったく使わない。なにせ現物の物々交換だから覚え書きも必要ない。
その事を最長老さんに聞けば、エルフ文字は『あいうえお』の平仮名表記であった。
最長老さんが知る口伝ではエルフ族が今のような力を持っていなかった時代に、神様が現れて言葉と字と魔法を授かったそうだ。それは1千万年も前のことらしい。
そのおかげでエルフは一気に発展してミリオン王国を形成した。だが度重なる魔物の襲撃により対応の方向性の違いが起こり内部分裂した。
各地に散らばったエルフ族であったが、それほど離れたわけではなかった為、戦争が起こった。
かつて10億人とも言われたエルフ族であったが長引く戦争のために、数千万人程まで数を減らした。
それでも戦争は終わらない。戦争が嫌になったこの集落の祖先のエルフは同じ考えを持つ仲間と一緒に氷魔法で船をつくり旅立った。時には嵐に巻き込まれ、時には大凪ぎで動けなくなり、小さな島にたどり着く度に、限界を感じた仲間が脱落していき、未開の地であったこの新大陸にたどり着いたのは数十人であった。
この地にも魔物が多数、それも強い個体が多かった。そんな魔物に襲われて更に数を減らしていた時に、神様が再び現れて、魔物に対抗できる新たな力を授けてくれた。
エルフはある事を犠牲にすることで魔物に負けない力を手に入れたと言うことであった。
環境の良いこの地に集落を作り上げて数万年経つが、その間も神様が現れて感情を表す言葉を教えてくれたりしたそうだ。
魔物に対抗できる力。
それは、片仮名と力の図形(漢字)を組み合わせて自身に刻むことにより強い力を得ることが出来ると言うことだ。
ステラさんを始めエルフ達はみな細い体付きなのに、力持ちであるのは、エルフの魔術を刻み込んでいるからであると言う。
魔力を大量に消費する代わりに力がつくと言うことなら非力なアタシからすると垂涎の的である。だがそれだけではなかった。
エルフの集落がおかしい一番の原因は何か。そう、無表情である。エルフの魔術を刻み込むと副作用として言葉に抑揚が付けられなくなり、更に表情筋が動かせなくなると言う。
エルフの無表情は弱肉強食であるこの厳しい世界を生き残る力を得るために犠牲にしたものであった。
そして最長老さんは続けて言っていた。
産まれたての赤子はよく泣くし、よく笑うし、とても可愛いさと。
だが物心がつく頃には、大人のエルフに習い、ほとんど表情を変えることが無くなり、成人の儀式により完全に表情を無くす。
表情が無くなると言うことは辛いことだ。マッキーを見ていれば良くわかる。コロコロと子供のように表情が変わる。それは見ていてとても気持ちの良いものである。
表情がなくなると言うのは、いくら生き残るためだと言っても悲しいことだ。
と、最長老さんは言葉を締めていた。
アタシは1年近く住んでいながら家賃をまったく払っていない家でメモ紙を見ながら考えている。
エルフの魔術を改良するためだ。この地に住むエルフからすれば、コギャル語で感情を伝えられるから問題ないと、余計な御世話だと言われるかも知れないが。
やっておいて損はしないだろう。
漢字と片仮名との組み合わせで良いのなら元日本人のアタシには簡単に組み合わせることが出来る。
アタシは最適な解を求めて今夜も羽ペンを走らせていた。




