物々交換と幸せになる食べ物
エルフのしきたりを教えてもらい。頭の中で整理していると。
ステラさんが息を弾ませて戻ってきた。
「超マッキー。マジヤバ。私涙目。マジあり得ない。ちょべりば」
いつものコギャル語であるが。なぜだか凄く悔しそうだ。
「マジ絶交。私も食べたい。マジあり得ない。あんたバカ。モデムはマッキーさんの謝罪を受け入れたそうです。逆に幸せになれる食べ物を貰ったので感謝したいそうです」
ステラさんがしっかり確認してきてくれたので、報告のつもりで来たのに、いつの間にか裁判になっていたが無事に閉廷した。
閉廷したのだが、ステラさんも最長老さんも私のことを無表情で見ている。
何だろう?表情がないので何を考えているのかわからない。
でも二人は私から何かを言い出すこと待っている気がする。気がするだけで実は、被告人から先に席を立たないと行けないとか、そんなしきたりがあるのか。わからない。わからない時は素直に聞いた方が良さそうだ。
「マジ感謝。超嬉しい。ちょべりぐー。アタシが席を立たないと二人とも動けないってことでしょうか」
私が話し始めたことで、一瞬緩んだ空気が、話し終えた瞬間に再び固まる。そして二人は再び私のことを見つめ始める。
ステラさんの視線の方が少しきついか。
きっと以前の私なら、この空気に耐えきれずに、パニクっていたであろう。だが耐性スキルを得た私には、この程度の空気圧なんて、そよ風程も感じられない。
しかたがないので、アタシも黙って二人を見ることにした。
訳のわからない膠着状態が続いている。1時間経ったのだろうか、それとも2時間か。私もこうなると意地である。とことん付き合おう。
耐性スキル万歳である。
でも耐性スキルを得たことにより日本人特有の空気読みスキルが機能不全に陥ったのかもしれない。
結局北極大冒険。じゃなくて結局、空気を読んだ最長老が、ステラさんの言いたいことを代弁する形で話し始めた。
あっさり言おう。
幸せになる食べ物、そうチョコレートが食べたいそうだ。二人して。
それならそうと初めから言って欲しい。まったく、無駄な警戒をしてしまったじゃないか。
でも二人から言い出せなかったのには理由がある。なぜならエルフは物々交換が基本にあるからだ。求めるなら見返りを提示しなければならない。
自分の持っているコレをあなたの持っているソレと交換して欲しいという形だ。
ある程度の物ならば、経験則により、見返りを提示出来る。
だが見たことも聞いたことも、ましては食べたことのない幸せになれる食べ物の価値がまったくわからない。
自分の提示する物よりも相手の持つ物の価値が高ければ、エルフのしきたりとして失礼にあたるため、言い出せなかったと。
最長老さんはずる賢く、ステラさんが提示して私が物を出した時に、それを見てから見返りを提示しようてしていたみたいだ。
口でははっきり言わないが、コギャル語で考えを喋っているので筒抜けである。
因みにエルフにとって最大級のお礼とは、見返りを要求しないことだそうだ。要はプレゼントってことらしい。
とても、ちょべりぐーな気分になれるらしい。
人間でもそれは同じだが、やっぱりプレゼントと言うのは裏を考えてしまうし、あげる方も何かしらを期待してしまうものだ。
だがエルフのしきたりでは、その場限りと決められている。
交換ではないプレゼントは貰ったが勝ちなのである。
もしあの時に、空気を読んで「食べてみますか」なんて、交換対象も無く言っていた日には大喜びしていたに違いない。
だが手持ちのチョコレートは数が少ない。せめてカカオの木を見つけない限りお試しでプレゼントなど出来ないのが実状である。
なので二人に一つずつ条件を付けた。
私はマントの中の下にあるポケットから取り出す振りをして影魔法を使い、お尻から取り出した二つの物を机の上に置いた。
一つはカカオの実、この実を探しているのだが知っているのかと聞くと。
かなり南に行ったところで見掛けたことがあるとステラさんから聞くことが出来た。
この香りを嗅いだことがあると言うから間違いは無いだろう。
もう一つは、取り合えず持ってきた『マンドラゴラ』である。
元の世界でも『マンドラゴラ』は実在しているが、抜いたりしたくらいで死ぬなんてことはない。
でも麻薬成分に毒が配合されているというから食用ではない。
さぁ。この世界のファンタジー植物はどんな成分が有るのだろう。
最長老さん答えをどうぞ。
「超マッキー。それマジ激ヤバ。超あり得ない。マジ。マジ。マジ。」
なんだか盛り上がっているけど期待して良いのかな。
「マジイミフ。超マッキー。キモい。キモい。」
あれ。なんだか反応がおかしい。まさか知らないとか劇薬にしかならないのかな。なんて思ったが杞憂だった。
「それはマンドラゴラと言って、万病に効く薬となる貴重な植物だ。だが採取には死を覚悟せねばならない。ならないのだが、探そうとしても見つからない。見つかったとしても殆どの場合破片である。こんな見事なマンドラゴラなぞ1万年前に持ち込まれて以来だ。」
流石は最長老さんである。長生きなだけあって色々知っている。そっか1万年振りかあ。って最長老さんってば1万年以上生きているんだ。
失礼を承知して最長老さんとステラさんの歳を聞いた。
最長老さんは10,101歳
ステラさんは256歳
因みに私は精神年齢41歳、肉体年齢2歳、公表年齢13歳である。
1万年前にエルフの集落で病が流行った、それは全身が黒く染まって行くと言う奇病であった。次々に倒れていく若いエルフを見かねた当時の最長老(1,919歳)がマンドラゴラを採取したそうだ。
当時の最長老はマンドラゴラを引き抜くことにより亡くなってしまったが、その薬効により多くのエルフが助かったと言う。
当時100歳程の最年少エルフである現最長老は病には犯されていなかったが念のためと飲まされた薬のおかげなのか、病気知らずで今でも元気だと言う。
エルフは人間からすると長寿ではあるが寿命は1,000歳くらいらしい。
なので1万年生きている最長老さんはエルフ族の中でも最長老と言うことらしい。
らしいって言うのは、ここは地方集落なので他の集落に住むエルフのことはわからないそうだ。
少なくとも近くに他の集落はないと言うことであった。
薬の作り方も聞けたので、後でさっそく作ってみよう。
二人から満足出来る回答を貰えたので、チョコレートを差し出した。
初見の反応は鍛冶屋さんと同じで、疑わしそうに見ている。
どんなに美味しいと言われたところで、見たことのない物に、なかなか手は出せない。しかも見るからに怪しい黒い塊である。
そう思ってみていたのだが、ステラさんはチョコレートを手に取り、一気に口に放り込んだ。
最長老さんは、そんなステラさんを凝視している。
そして。
二番煎じだから詳細は省く。やはりステラさんも鍛冶屋さんと同じく、無表情のままだが
「超・絶・ちょべりぐー」
と雄叫びをあげた。
突然雄叫びをあげたステラさんに呆気に取られていた最長老さんであったが、
ステラさんの目が最長老さんの前にあるチョコレートに釘付けになっていることに気がついた瞬間に、慌てて口に放り込んだ。
それを見てステラさんは残念そうであるが「ちょべりぐー。ちょべりぐー」と呟いている。
はたして最長老さんの反応は、それは語る必要がないだろう。
エルフはみんな素直である。
だが『ちょべりぐー』の合唱になったのは頂けない。せめて抑揚があれば私も幸せをプレゼント出来たと良い気分になれたと思うが。
本人達は涙を流すほど幸せなのかもしれないが聞いているだけでは感動がまったく伝わってこない。
いつになったら落ち着くのかしら。日が暮れても『ちょべりぐー』を続ける二人のエルフを見て、ため息をついているマッキーであった。




