エルフのしきたり
荷車を引きながらエルフの集落に戻ってきた。実に1ヶ月振りである。
10日ぶりでないのは、せっかくつけたベトベト糸道標であったが、すっかり硬化してしまい。鑑定でもわからず役に立たなくなってしまっていたからなのである。
おかげで森の中を右往左往してしまうはめにあってしまった。
日帰りの予定だったのに、人生ってわからないものだね。
なのでイノシシはすでに解体して薫製肉にしてある。道標が見つからなかった時に、エルフの集落にいつ戻れるかわからないと思えたアタシはきっと勝ち組。調味料はたくさんあるし薫製肉は美味しくできました。
因みに迷子になること事態は、勝ち負け関係無いからね。
脱線したが、1ヶ月振りのエルフの集落は見た目は何も変わっていない。だがあちこちから聞こえてくる『ちょべりぐー』や『ちょべりば』が耳につく。
『ちょべりぐー』はまだしも『ちょべりば』は不味いのじゃないかいと思って発信源を見ると鍛冶屋さんがうつむいて地面に棒で『の』の字を書いている。
まさか、あれから1ヶ月間あの状態だったのかしら。流石にそれは無いだろうと思いたいが、やつれかたが半端無い。
慌ててフォローに行ったが、意味がなかったようである。アタシの顔を見た瞬間に立ち上がり。
「マジヤバ。超マッキー。マジ安堵。ちょべりぐー。俺のせいで出ていった訳ではなかったのか。出掛ける時は最長老に言って出ていけ。」
どうやら、誰に何も言わずに狩りに出掛けたのがまずかったらしい。
そのせいで、一悶着あった鍛冶屋さんがアタシが出ていった原因として、皆に責められていたと。
それは、配慮が足りなかったようだ、でもそんなこと誰も教えてくれていないので、知らなかったと言い訳したいが。
集落のしきたりを聞いていないから知らないと言うのは、言い訳にはならない。
取り合えず鍛冶屋さんに謝罪として、チョコレートを差し出した。見たことのない怪しげな黒い塊を見て鍛冶屋さんは躊躇していたが「幸せな気分になる食べ物だよ」と言うと。
端っこを少しだけ口に含んだ瞬間に鍛冶屋さんが動きを止めた。暫く見ていたが、動きを止めたままだ。
まさか、エルフって犬とかと同じでチョコレート禁止の生き物なのかと変な心配になってきた時に、鍛冶屋さんは残りのチョコレートを口に放り込んだ。
するとあんなにやつれ果てていた鍛冶屋さんから陰が消えて、みるまに生気を取り戻して行くのがわかる。
そして終には。
「超・絶・ちょべりぐー」と雄叫びをあげた。
抑揚無しで無表情だが。
その後も「ちょべりぐー」を大声で連呼している。
鍛冶屋さんの豹変に周囲に居た人達が注目する。
アタシは気恥ずかしくなり、鍛冶屋さんを置いて、そそくさとその場を離れた。
鍛冶屋さんの話しから最長老さんの家に向かう。
鍛冶屋さんのフォローもそうだが、面倒だが私自身のフォローもしなければなるまい。
最長老さんの家に着きノックしてから「マッキーです。ただいま戻りました」と言って、扉を開けると最長老さんとステラさんが座っていた。
えっと。この場合のしきたりはどうしたら良いのだろう。いくら考えてもまったくわからない。わからない時は出直すべきだよね。
「失礼致しました」
アタシは頭を下げながら一歩下がり扉を閉めた。
が、間髪あけずに扉が開いた。最長老さんとステラさんはイスに座ったままなので二人のどちらかが開けたわけではない。
もう一度閉めたのだが、また開いた。また閉めたのだがすぐ開く。何なのだこの扉は。
それでも閉め続けていたのだが扉は開き続ける。
意地になって閉め続けていたところで、次に開いた時にステラさんが居た。
そして「超マッキー。マジヤバ。それ超ウケるんですけど。ちょうど良い時に来てくれました。お入りください」
ステラさんに言われて中に入って扉を閉めると今度は開かなかった。エルフの扉、マジイミフ。
イスに座り、改めてエルフの挨拶をしてから、まず私の用件である謝罪の言葉を伝えた。
すると、二人の用件も同じだったようで
「超マッキー。マジ使えない。超人騒がせ。マジヤバ。マッキーさんが行方不明と言うことで、ステラに周囲を何度か見に行かせていたのだぞ。心配を掛けさせるな。エルフの掟では、無断外出は1年間の強制労働か、一年分の食糧提出である。どちらを選ぶ」
郷に入れば郷に従え。だけどエルフの掟、マジヤバだ。どうしよう。
「と言いたいが。人間はエルフの掟を知らない。過去に来た人間に課したら二度と来なくなった。なので初犯は減刑する。刑の内容はモデムに謝罪をすること」
エルフの集落に人間が来なくなった理由がまた一つ増えた。この調子だとまだまだ有りそうだ。
って、そうじゃなくて『モデム』って何だろう電話が有るわけないし、とうぜんインターネットが有るわけないし。
アタシもインターネットに繋げるときにモデムを使っていた時期があるよ。
その為にダイヤル回線からプッシュホン回線に切り換えたしインターネットに繋げる度に『ぴーがーがー』ってうるさかったな。そしてとうぜん、テレホを使っていたから良く夜更かししていたっけ。
って、そっちに行きすぎては駄目だ。えっと。
『モデム』ってなんですかと素直に聞くと。鍛冶屋さんの名前であった。
それならば、謝罪済みですと言うと。最長老さんの指示でステラさんが席を立ち確認しに行った。
謝罪を済ませてあるだなんて、なんてGJ何だろうってこれはコギャル語ではなかったか。
どうせだから待ち時間の間に、確認しておこう。
アタシは最長老さんからエルフのしきたりを聞くことが出来た。
これである程度は把握できた。今回のようなミスは二度とするまい。
因みに閉めても開く扉は、魔法により開けていたと言うことだ、外から閉めたあと開いたなら入室して良い、中から閉めて開いたら出直せということであった。
それを聞いてエルフのしきたりは難しいと頭を悩ませるマッキーであった。




