ちょべりぐーを祝う宴
夜になり、宴が始まった。
ちょべりぐーを祝う宴だ。
最長老さんが音頭を取り、集落中のエルフが一斉に「ちょべりぐー」と3回叫んだのは、記憶に残っている。
だが、最長老さんが新語を発見したのは人間のマッキーさんであると説明した後のことは記憶が怪しい。
日中に案内して貰った時も、たくさんの人に会って挨拶したのだが、宴の時には50人全員と挨拶したのだろうか。
幸い、記憶が怪しい部分はコギャル語を話している最中のことであるから問題はないのだが、記憶が無くなること事態が問題のような気がするのだが、今のアタシは、それが本当に問題では無いのか自信がない。
でも、一つ理解した。
エルフの集落が見つかりづらいから人間の訪問者が居なくなったのではないと言うことだ。
エルフは男女ともスリムだから肉感的ではない。でもすごい美人さんばかりである。こんな美人さんばかりなのに、人間がエルフを発見してから各種欲求を満たそうとはしないで、足が遠退くなんておかしいと思っていたのだが。
顔を見る度に言われる、コギャル語に耐えられなかったに違いない。いくら美人さんだらけで眼福な集落だといっても、口を開けばコギャル語で責め立てられれば、精神的にダメージを負うことは避けられない。そんなアタシもコギャル語に食中りしたようだ。
宴の途中で、精神的に疲労を感じて先に引き揚げさせて貰って空き家で休んでいるが、回復の兆しはない。
眠ろうとして目を瞑るが、脳裏をコギャル語が埋め尽くす。その度に慌てて起き上がりコギャル語を考えないようにしているのだが脳の片隅ではコギャル語が行進をしている。
肉体的にはダメージは無いから回復包帯は効果がない。落ち着くかと思ってココアを飲んだのだが無駄だった。
かと言って未実験の紫色の実やまだら色の実を食べたら、それこそヤバい事になりそうだから手は出せない。
そう言えばあのゲームに精神的なダメージを緩和するスキルがあった事を思い出した。
初期の設定では、魔法耐性を上げるスキルだった。
このスキルを上げることにより知力の低下を防ぐことが出来るのである。
あのゲームでは知力は魔力量に比例していたので知力が下がると使えない魔法が出来てしまう。
ギリギリまでカスタマイズしたベテランの魔法使いキャラは、接敵時や対人戦の時に撃ち込むコンボが決まっていた。
だが精神ダメージを受けると知力が減ってしまう。そうなるとコンボは失敗、十分なダメージを与えることが出来なくなる。それは負けに直結することなので。少ないスキル枠を使って耐性のスキルを振り分けていた。
そのスキルはアップデートされて火や氷、雷や風の攻撃呪文、催眠から毒、スピードダウンや体力低下、物理ダメージにも耐性が着くようになった。
え。優遇され過ぎ?
そんな事はない。なにせ魔法使いは魔力と相性の悪い金属製の鎧を着けると魔法発動まで倍の時間が掛かる上に、魔力は金属を嫌うために強制的に金属装備品を脱がされてしまうのである。
実際の手順としては、魔法を使いたいと考える、だが金属は外さないと魔法を使えない。だからまずは装備を外す、外した装備を背負い袋にしまう。魔法を唱える。魔法が発動する。
と言う手順を自動的にやらせると、通常の倍掛かると言うことだ。
しかも自動で外れた装備は、手動で装備し直さないといけないと言う不親切設定。
魔法を使う度にそんな手間が掛かる魔法使いなので、金属鎧は使えない。
その為のスキルなのであるが、金属製の鎧の方が魔法耐性の値がよっぽど高い。
このスキルは紙防御の魔法使いを救済する為、強すぎると不平が上がっていたボスに立ち向かえる様に誘導するためだけのスキルだったはずであった。
だが、この救済処置のお陰で一部の日本人プレイヤーは歓喜した。理想の戦いが出来ると。
それは、防具は仮面だけで下は何も着ていないように見える肌の色に合わせた防御力0の服を着ることである。
そう戦える裸族の誕生である。
スキルのアップデート前にも裸族はあちこちに出没していた。
戦闘イベントがあれば、どこからともなく現れ、突貫即死を繰り返していたりしていた。
だがしかし、今まではボスに触れれば、その時点で即死であったのだが、このスキルのおかげで、一撃を耐えられるようになった。
こうなると日本人は研究する、どうすれば裸族でボスを倒せるかを。
裸族は裸族のコミュニティーを持って情報交換を行っている。
実際、裸族のコミュニティーは濃厚である。なにせ裸族の一部はランキング上位のプレイヤーなのだから。
これは日本人の性なのであろう。自分自身に不利な状況を設けて、強敵と戦う。
たとえ勝ったとしても自己満足でしかないことはわかっている。裸族は言う。そこに山があれば裸で山を登る。山は裸であるからだと。
そしてついに、ある裸族が単独でボスに挑み、見事討ち取った。戦いの記録はアップされていたが、最後まで全て見た人は居るのだろうか。
再生時間4時間32分。
長時間に渡るこの戦い、とうぜんだが地味である。再生をスキップしても延々と同じ作業を繰り返しているだけだ。
動画を見た人のコメントに戦い方がせこいと、蔑む人もいたが、重要なのは単独裸族によるボス討伐と言う自己満足である。
裸族によるボス討伐は外国の運営会社も想定外であったのだろう。公式のページに動画のダウンロードのリンクが貼られ、誰にでもボス討伐の可能性はある、ボスの強さインフレはしていないとアピールしていた。
でもあの裸族のプレイヤースキルが尋常では無いことは誰でも見ればわかる。ボスを含め途中で沸いてくる雑魚も全てをコントロールして、全く同じ動作でたんたんと4時間プレイし続ける。普通は出来ない。
公式の掲示板で外国のプレイヤー達があの裸族をクレイジーとかクールだと評価していた事を思い出した。
そんなバカな話しを思い出していたらなんだか楽になったので、眠ろうかと思ったら足元に砂がある。
まさかと思い腰袋を確認すると黒い小石が一つ減っていた。精神耐性のスキルか何かを与えてくれたのかもしれない。
それならば、今後の闇魔からの攻撃に役に立ちそうであるから嬉しいのだが、もしかしたらまさかのコギャル語耐性だけであったらどうしよう。
だとしたら貴重な黒い小石を使ったのに、なんて無駄スキル。
そう思いながら、耐性なんてどうやったら確認出来るのだろうと考えていたら、いつの間にか眠っていたみたいだ。
目が覚めると朝になっていた。
今日は昨日に案内して貰った中で印象に残っている、鍛冶屋さんに行こう。
いつもの体操をしてから、身嗜みを整えて家から外に出たマッキーであった。




