バングルは留め金のないブレスレットね
クラウさんは肌身離さずリストバンドをしていてくれていた。
リストバンドを受け取り鑑定を行うと『使用不可』とでた。
もしかして壊れているのかもと考えたがゆっくりと魔力を流してみると、リストバンドは魔力を蓄え始めた。
鑑定を行いながら、更に魔力を流し込めば『使用不可』の文字が消えた。
どうやら充電ならぬ充魔完了のようだ。
そもそもアタシが初めて使う『力』の言葉を実験どころか、動作確認もしないで御祝儀だと言って渡したのがいけなかったのだが。
鐘から受けた闇の力を振り払う為に使って知ったが『聖』の魔道具は魔力の消費が激しい。
魔石に蓄えられる魔力だけでは足りなくてアタシの保有魔力の3割程もおまけしなければならなかったのだ。
その時は緊急時だったので過剰にアタシが流したのかもしれないけど。
例えそうであったとしても、大量の魔力が必要になるのは確かだ、そして初めに貯まっていた魔力は、アタシを助けるために消費された上にクラウさんの魔力も必要となった。
魔石は周囲に漂う魔力を取り込み自然回復する性質があるが、一ヶ月以上経っているのに未だに回復しきれていなかった。
アタシの魔力の吸収量からすると、一度使うと次に使用可能になるまで早くとも10年は掛かりそうだ。
意識して魔力を流せば、一般の魔術師で3年、魔力の出口が狭いクラウさんでも5年に縮まるかもしれないが、そんな回復ペースでは心許ない。
アタシは銀色のバングルをクラウさんに見せて「これから邪を払う魔道具の能力を上げます。いいですか」と許可をとり作業を始めた。
クラウさんは、本当に体調不良の様で「女神様。お願い致します」と何の疑問も持たずにアタシの作業を見ている。
クラウさんはアタシの事を妖精だと思っているはずなのに『女神様』っておかしなことを言うなあと思ったが、これ幸いと考え迅速に作業を終らせた。
作業と言っても、リストバンドから魔道具の石を取り外してバングルに付け替えるだけだ。簡単な作業である。
アタシが見せたバングルは魔銀製である。出来るだけ体積を増やそうと幅広の『C』の形にした。身体にフィットする柔らかさを最大限に利用した逸品である。
魔銀の魔力の蓄積能力は魔石の比ではない。アタシの考えたバージョンアップとは、魔石だけではすぐに魔力が無くなるので外部魔力バッテリーをつけて長持ちさせようということである。
それさえも空になったら回復は並大抵な魔力では出来ないかもしれないが、その辺りはクラウさんに説明しておけば良い。道具は道具。後は使う人に任せるしかないのだから。
アタシはクラウさんにバングルを渡して、装備してくれるように促す。
クラウさんはいくら体調不良とは言っても、女性である。バングルを見るなり「シンプルだけど素敵なデザインだね」と誉めてくれた。バングルの縁は蔦の絡まる姿を描いたのである。
バングルの能力に違いは出ないが、多少でもお洒落に見えればどんなシチュエーションでも着けていて問題ないだろう。
クラウさんがバングルを腕に着けると、魔石が白く輝き邪払いが発動した。
クラウさんの全身から黒い煙が出ていくと光は収まった。
次の瞬間、あんなに体調不良でダルそうにしていたのが嘘だったかのようにクラウさんは自身の身体を動かしている。
アタシはクラウさんに説明する。
邪がクラウさんに浸食してきていたこと。邪を払う魔道具が魔力不足で発動しなかったこと。10回程度なら邪を払うことは可能だが、使いきったら魔力保持者に補充して貰わないと5年は使えなくなる。
なのでクラウさんはバングルに魔力を流す事を常にしていて欲しいと。
邪が払われて元気を取り戻したクラウさんは近況を話し出した。
ブラウン当主が怪しい計画を立てている様で、毎晩の様に貴族が集まるようになった。それだけではなく。母も毎日、朝早く出掛けて夜遅くに帰ってくる。ラーディッシュ王子は忙しくて殆ど会えない。会えても優しい表情の下に何かを隠しているようで恐い感じがする。
マッキーさんは置き手紙だけで居なくなるし、誰もが何もがおかしなことになっているから。不安でしかたがなかった。そうしたら次は自分の体調が悪くなるし、この先どうなるのかと、私はどうすればよいのかと悩んでいたと言う。
アタシはラーディッシュ王子とブラウンさんが筆談をしていたことを知っている。
そしてチョコさんからラーディッシュ王子が反乱を企てようとしていることを聞いた。
更に樹利亜から魔王様ことヨミさんが、ラーディッシュ王子を闇に落とし王位簒奪をそそのかしている事を見た。
なんだ解決の道は1本ではないか。単純明快である。それならばと思い。
クラウさんに入れ知恵をした。それは。
ラーディッシュ王子も邪に侵されて辛そうだったから、会ったらバングルを押し付けて邪を払うといいよ。
そうすれば元の優しく聡明な王子に戻るから。そうすればブラウンさんの事を止めてくれるはず。
クラウさんは、それを聞いてとても嬉しそうである。普通ならこれで、めでたし。めでたし。と終わるだろうがラーディッシュ王子には新たな罪悪がある。いくら相手がヨミさんだと言っても、あんなにも簡単に闇に囚われるなんて罰が必要である。
ちょっと過剰かもしれないが、以前に受けたアタシへの仕打ちを加えれば釣り合いが取れるだろう。
なので、クラウさんに王子が素に戻ったら聞いてみてと、こう話しておいた。
「真っ黒の神様は良かったですか?」
クラウさんはキョトンとして、どう言うこと聞いてきたが「王子に直接聞いてね」と流した。
それだけだと、誤魔化さられる可能性があるので「御神木はいつも見ているそうよ」と教えておいた。
王子よ時限爆弾のスイッチは入ったぞ。最後に赤い線を切るか青い線を切るかは王子しだいだ。
せいぜい戦々恐々とするがよい。
悪魔の笑みを浮かべているマッキーであった。




