紫、ピンク、赤黄黒のまだら、食べたい色はどれ
アタシは両足をぶらぶらさせながら枝に腰掛けて、樹利亜と話しをしている。
樹利亜は木であり1万年この地で起きたことを見ているのだから、先程の光景に驚きはしていたが何の感慨もないようだ。
それならそれでも良いが、アタシ的には釈然としない。
でも、お礼の品を沢山貰えたから良しとしよう。
アタシの質問に樹利亜は「私は樹利亜だし、この地で育っているだけだよ」と言ってきた。でも、ただの木ではあるまい。家の中の映像や音声を録画再生なんて出来る生物なんて普通ではない。アタシは表情を消して気を高めると。続きを話し出した。
一応、アタシは気を高めただけで何をするとも言ってないよ。そう一言もね。
樹利亜の話しは。
世界中に散らばる兄弟と共に樹利亜は『マザー』と呼ぶ存在に見たことや聞いたことを知らせていると言う。
アタシが樹利亜という存在を見て恐れていたのは。植物間ネットワークによる、その辺の雑草から森の木々にまでアタシの所業が伝わって、嫌がらせを受けるのではないかということであったが、
樹利亜は他の植物と話しは出来ないと言ったのでそれは杞憂だったようだ。
でもそんなアタシの妄想よりも『マザー』と言う存在の方が、なお悪いような気もする。
『マザー』は情報を集めて何をするのだろう。
少なくとも1万年以上前からしていることなのだから、今すぐどうこうすることはないと考えられるが留意しなければなるまい。
なので訳のわからない存在と敵対するのは避けるべきと選ばざるを得ない。
アタシは気を高めて放出することにより、息が出来なくなるくらいの高さまで垂直跳びをすることによる反発力で、御神木を破壊することは止めて、もう一つの案を実施した。
それは、堅くて壊せないのなら柔らかい方を壊せば良いのである。柔らかい方とは、とうぜんアタシの足の方である。
たぶん痛いと思うが、アタシには回復包帯がある。手荒だが足が抜けた後に包帯を巻けば元通りだ。
痛い時間は出来るだけ短くしたい。スピード重視である。
慎重に自分の足に狙いを定めて……
回復包帯が消えないところをみると、完治したはずだ、身を切る思いでやったことだが無事に治療できて良かったと思う。
どうやって抜け出したかと言うと、アタシの足を切断して回復包帯でくっ付けたという訳ではない。
麻酔もないのに、そんなことをしたら、まさかのショック死をしてしまうかもしれないし、そもそも足が枝に乗っている状態だ斜めにした所で下から足を抜くことは出来ない。
アタシがしたことは、冒険の当初から一緒に旅をしてきた『スネ当て』をアタシの唾液で溶かしたのである。
それこそ一緒に歩いて旅をしてきた仲間だ。そんな思い出がたくさん詰まっているすね当てを壊すなんて身を切る思いである。
アタシの防具はまともに役に立ったことはないが籠手は脳震盪攻撃や『滑』の魔術により活躍の場があった、だがすね当てはこれと言った活躍の場がなかった。
でも、刃物の様に鋭い下草から足を常に守ってくれていた縁の下の力持ちである。地味ではあるが絶大な安心感を与えてくれていたので、森を縦横無尽に走り抜けることが出来ていたのである。
そんな大事なすね当てだが、狙いを定めて唾液を飛ばせば簡単に溶けていく。
旅立ちの当初、アタシの唾液は虫専用であり、肉は溶けないと思っていた。そうでなければ自分の口が溶けてしまうからだ。だが、今更だが虫専用では無いことがわかった。
唾液はアタシの足も、むしばんでいく。どうしても掛かってしまう場所があるからだ、チクリとした痛みのあと、その部分の感覚が無くなった。
もしかしてアタシの唾液には麻酔の効果があるのかもしれない。
ちなみに枝にも唾液が掛かったが樹利亜には、効果は無かったようだ。なんともないと言っている。
アタシの唾液も研究が必要だね。自分自身の事なのに知らない事があるなんて駄目だよね。
こうしてすね当てを溶かした分の隙間を使って引き抜くことに成功したのである。
麻痺した自分の足に包帯を巻いたら感覚が戻ったので、これまたひと安心した。
これで漸く落ち着いて話しが出来る。アタシはまず、樹利亜の実のことを聞いた。すると恐ろしい事がわかった。
樹利亜は三種類の実をつけることが出来ると言い出した。そして先程実らせてアタシに食べさせようとした紫色の実は、食べると良い夢が見られる特殊な効果があると言う。
それだけなら、良さそうな実だが、あまりにも良い夢なので眠りから返ってこれなくなる事があるそうだ。
樹利亜は脳に直接話しかけることが出来るので、1年経ったら起こすつもりでしたと言い訳していたが、なんと恐ろしい物を食べさせようとしていたのだ。
樹利亜は頑なに否定しているが、紫色の実の使い方は、間違いなく実を食べた生物が眠り、自分の近くの地面に落ちて目覚めぬまま衰弱死して、腐り栄養満点の土になる。
そして樹利亜は吸収して成長するに違いあるまい。
ピンク色の実は食べると、とても美味しくて至福の幸せを感じる事が出来る特殊な効果があると言う。
これにもとうぜん落ちがあり。
あまりにも多大な幸福感が得られる為に効果が切れると、不幸感に襲われる。食べると幸せ、効果が無くなると不幸。そして木の近くから動かずピンク色の実しか食べなくなると言う。
睡眠の実より効率は悪そうだが幸福感とは伝播するものである。仲間が幸せそうに食べているところを見れば自分も食べたくなるものである。
でもこの木は何故か登れない。見えているのに自分から食べに行けないのだ。
樹利亜は絶妙なタイミングでピンク色の実を落とす。
そして食べてしまえば虜となりゾンビが仲間を増やすかのようにたくさんの生き物が木の回りで落ちてくるのを待ち衰弱していき死ぬ。
なにせ、ピンク色の実には栄養分がまったく無いからだ。いくら食べてもカロリーにはならない。
そして樹利亜は栄養をたっぷり吸収して成長する。
そう。やはり樹利亜は間接的ではあるが食肉植物で間違いなかったのだ。
実の付け方も巧妙で紫色の実は数年に1度、ピンク色の実に関しては数百年に1度しか実らせない。動物も馬鹿ではないから学習して食べなくなるからだ。なので大量死を見たことのある世代が交代して忘れられた頃に実らせていたと言っている。
そんな樹利亜であるが、この地に王国が出来てからはどちらの実も実らせたことはないそうだ。王国の土は人間が生活しているので汚物なり生ゴミなりで栄養が豊富に供給されるからだと言っている。
そして最後の実は、赤色と黄色と黒色がまだらになっている見るからに毒が有りそうな実だ。だがこの実が一番有能であった。
まだら色の実には栄養が豊富に含まれており、体力回復の特殊な効果がある。
この実を一口かじれば三日三晩走り回ることも出来る。すべて食べれば1ヶ月間走り回ることも可能だと。
そうすればより遠くに種を運ぶことが出来る。
実を食べた生き物の体内で種は留まり、その生き物の生涯が終り土に返ると、その栄養分を吸収して発芽することになる。
落ちを期待されても困るが、この実は樹利亜の種族を増やすための実なので悪いところは少ししかない。
強いてあげるなら、有り余る体力を発散するために、精力的に働いてしまうとか、種族が繁栄しだすとか、生息範囲が広がるとかである。
この王国の建国者もまだら色の実を食べた一人であると言う。
そんな三種類の実のうち、ピンク色の実は麻薬にしか思えないので遠慮して。紫色の実を少しと、まだら色の実をたくさん貰った。
紫色の実もいらなかったのだけど、アタシの為に実らせてしまったから引き取って欲しいと半強制であった。アタシを肥料にしようとした実である。そんな理由で渡されても釈然としないのは当たり前だと思う。




