棒とホウキと石像と
アタシの背後では未だにペガヌスが転げ回っている。
いくらなんでも痛がりすぎではないのか?そんなんでグランド&エアマスターに良くなれたものだと思うが実は大した称号では無いのか?
それとも雄と言うのは、アタシにはわからないが、そこまで棒が弱点なのだろうか。
だったら王子への嫌がらせにやれば良かったのかもしれない。偶然何かが当たったなんて簡単にやれることだ。王城内ならいくらでも治療してくれる人が居るだろう。もう暫く滞在するし今度やってみよう。
あれ?ペガヌスが動かなくなってる。口元が白いけどもしかして泡を吹いてるのかしら。それに白眼までむいてる。
ってもしかしてこれってヤバイ状態なのかしら。
だからと言って棒を治療するなんてしたくないしどうしようとカマトトぶっている振りをしていたら痙攣まで始めた。
さんざん迷ったがアタシは治療することにした。
助けるリスクと見捨てるリスクを考えて助けるリスクの方が低いと判断したのである。
魔王軍と言う『軍』ならば、単独行動はありえない。必ず付近に魔王軍がいるはずだ。だが残念ながら飛行する輩のようで振動感知に反応がない。
このまま見捨ててペガヌスを殺せば、魔王軍に敵対生物として目の敵にされて、刺客が送られてきそうだ。いちいち相手にすることはめんどくさいことこの上ない。リスク大である。
助けると、アタシの能力や実力が一部知られてしまう。敵対する気はないが、相手に見せるカードは少ない事に限る。リスク中である。
そんな事を考えていたから体術で相手をしたが、ただ倒すだけなら間合いが開いている時に気で片付ければ後腐れなくサヨナラ出来る。
アタシはため息を付きながら棒に包帯を巻き付けて蝶結びをする。包帯は光って消えた。
その後、ペガヌスが目覚めるまでぼんやりとしている振りをしていた。だが怪しい物の気配は感じられなかった。
ペガヌスが起き上がった。まだ完全復活では無いのだろう目が虚ろで、身体がふらふらしている。
完全復活まで待っていても良かったが「ペガヌス、目が覚めたようだな。気分はどうだ」とホウキを突きつけて声を掛けてみると。
声にはあまり反応を示さなかったのに、ホウキの柄が目に入った瞬間、尻尾をお腹に回して仰向けに転がった。これってワンコの全面服従ポーズではなかったっけ?
暫く見ていたが、まるで硬直したかのように動かない。お腹に回した尻尾のお陰で棒は隠れているから正視に耐えられるが、このままでは埒があかないので何となく「ヨシ」と言ってみた。
ペガヌスはすぐに反応して四つ足で立ち尻尾を振っている。なんとなく「おすわり」「ふせ」とやればその通りに行動する。
言うことを聞いたので干し肉をあげると嬉しそうに噛み始めた。
……ペガヌスよ。さっきまでの威風堂々としていたのにプライドを何処に無くしたのだ。
アタシは干し肉を食べ終わったところを見計らって質問を投げつけた。
ペガヌスは暫くの間『おすわり』の状態で話しをしていたが要領を得ない。
アタシが「ペガヌスは魔王軍の疾風のペガヌスなのだろ」と聞いた時に、あっ、とした顔をして立ち上がった。
どうやら、あまりの棒の痛みにショックを受けて子犬返りをしていたようだ。
「こんな醜態を晒したのは初めてだ。このことが魔王軍に知られたら、居場所が無くなる。見られたのは幸い白雪ただ1人。新種の生物の子供であっても口を封じます。いざ参る』
ペガヌスは部分的に記憶が無くなっているようだ。自分が何故醜態を晒したのか忘れているし。しかも単独行動だと自白した。ならば心置き無くリスク無しで倒してしまえる。
でも、もう一つ聞いておかなければならない事があるから。まだ殺すことは出来ない。
それにしても『参る』と言いながら、ペガヌスは動かずにアタシを見ている。でも視線の先がずれているようだ。何処を見ているのだろうと視線の先を追いかけると。
アタシの右手のようだ。
なるほど。それもそうか。たとえ脳が忘れたとしても身体は覚えているものだよね。
アタシはおもむろにホウキの柄をペガヌスに突きだした。
とたんに棒を両手で隠して尻尾がお腹に回ってきた。
アタシの攻撃はペガヌスにトラウマを植え付けていたようだ。
「ペガヌスよ。アタシに楯突くのか。ならば、こうだ」
アタシは落ちている小枝をホウキで拾い上げて見せ付けながら折った。
ペガヌスは棒を両手で隠しながら内股になりそのまま座り込んでしまった。戦意喪失である。
トラウマの恐ろしさは良く知っているが、情けを掛けるつもりはない。使えるものは何でも使う。
再びペガヌスから話しを聞いた。これでペガヌスには用はない。なので二つの選択肢を与える事にした。
と言っても実質的に1択である。
この場で死ぬか。
アタシと会った事を無かった事にして魔王軍に戻るかである。
とうぜん無かった事にすることを選択したので、アタシは保健をかけた。
左前足の小指の爪を切り落とさせた。その爪を鑑定すると
『コボルトキング・グランド&エアマスターの左小指の爪
魔王軍第253部隊所属疾風のペガヌス』
と脳裏に浮かんだ。
備忘録としてはこれで十分だ。
なのでアタシはペガヌスに
「アタシは魔王軍に干渉する気はないが、今後もし魔王軍がアタシに干渉してきた時に、ペガヌスに聞いたとか、そんな話しを耳にすることがあれば、この爪がペガヌスの場所を教えてくれる。地の果てまで空の果てまで追いかけてこうする」
アタシはその場に座り込み土魔法を発動させた。
お尻の下と周囲の土が使用されて形を作り始める。
二分の一サイズのペガヌス土像が出来上がった。
等身大にするにはペガヌスが大きすぎるので拘るならパーツ単位で作り出して組み立てれば良いが。今はインパクトが大事である。
ペガヌスは目の前にいるので細部までイメージ出来る。もちろん棒もだ。
ペガヌスはいきなり出現した自分の土像に驚いていたが、更に驚く事になる。
アタシが土像の棒を掴み、そのまま折ったからだ。
ペガヌスは再び両手で自分の棒を隠し、その場で跳び跳ね始めた。トラウマを刺激したのはわかるが、なんで跳び跳ねているのだろう。今度は本当にわからない。
跳び跳ねるペガヌスと土像をそのまま残し。
「では二度と会わないこと祈る。でもこの事は覚えてろよ」
手で何かを折るポーズをしてアタシは王都に戻るために気を纏って飛行した。
保険と言ったけど爪で追うなんて能力は持っていないが、これだけやっておけば大丈夫だろう。
食べるためならまだしも、出来れば相互理解が可能な知的生物を自分の都合で殺したくない。
その辺りは弱肉強食、油断大敵、隙を見せてはいけないと言いつつ、まだ踏ん切りのついていないマッキーであった。
それにしても棒を折るって直接なら痛いのはわかるけど、土像の棒を折っただけでなんで痛がるのかしら?
人類の半数を敵に回す発言をするマッキーであった。




