白い風VS疾風
名乗りを聞いた時に、魔王様と魔王軍が違うなんて思いもよらなかった。
だからあだなすものではないよね。と言いたいが問答無用とばかりに突進してくる大型ワンコ。じゃなくて疾風のペガヌス。
本当にアタシの勘違いなの。ごめんなさいと思いつつ、突進をサイドステップで余裕を持って避ける。
アタシの生命線はスピードなのだから、そう簡単には当てさせないよ。
とは言え。いくら変なことをしている輩だとはいえ、勘違いのまま戦うのは嫌なので説得を試みる。
そもそも何処の組織にも肩入れする気はないのだから。話しが出来るなら対話でどうにかしたい。
けれども、アタシがいくら戦う気がないと言っても疾風のペガヌスは止まらない。鋭く長い爪を振り回してくる。
アタシはその攻撃を避ける、避ける、避け続ける。って以前、同じような事をしていた気がする。
やっぱりこう言う人の話しを聞かないような輩を相手にする時にやることは変わらないのかもしれない。
アタシは大きくバックステップで後ろに下がり、白マントを脱ぐ。理由は爪や牙に引っ掻けてせっかく新調したマントがほつれたら嫌だからだ。それだけだ。
だが、アタシがマントを脱いだときにペガヌスは動きを止めて呆然としていた。
あれ? 今なら話しを聞いて貰えるかもしれない。
「ちょっと待って。アタシの勘違いを謝るから。話しを聞いてください」
なんとか対話に戻すことに成功した。
アタシは魔王軍と魔王様が違うことを知らなかったと正直に話して「勘違いしてしまい。ごめんなさい」と謝った。
ペガヌスは、真っ黒マントと同じでアタシが白マントを脱いだときに
『やっと本気を出す気になったか、準備運動段階とはいえ私の攻撃をすべて避ける相手だ。どれだけ鍛えているのだろうか。武人として楽しみだ』
と、どんな強靭な生物が現れるかと思ったら、貧弱な人間の、しかも子供が現れたために気勢が削がれたと言うことであった。
勘違いのまま戦いたくなかったが、別の勘違いを植え付けてしまったようだ。ペガヌスさんはぶつぶつと独り言を言っている。
「人間とはいえ、子供相手に私は何をしているのだ。子供が珍しい物を見つけたら弄くるのは当たり前だ。たとえ弄ったせいで物を壊してしまっても、優しく諭すのは大人の役目だ。それを私は……」
なんだか子供のイタズラに本気で怒ってしまった事を反省している大人って風情である。
それはそれでアタシ的には何を言っているのだと突っ込みたい所だが、鎮火した火に薪をくべたくないから我慢している。
ひと通り反省が終わったらしく、ペガヌスはアタシに意識を戻したようだ。
「子供相手になんだが一応確認する。白雪は魔王軍の敵か?」
それは難しい質問である。なにせ今初めて聞いた軍隊であるからだ。ここは情報収集を兼ねて無垢な子供らしく聞いてみよう。
ペガヌスは子供好きのようである。簡単にだが教えてくれた。
魔王軍とは、知能を持った高ランクの魔物が集まった軍隊である。その中で投票で選ばれた魔物が魔王軍隊長として指揮をとっているのである。
だから魔王様と呼ばれる存在は居ないと。
魔王軍は今までも別段人間だけを目の敵にしているわけではなく。増えすぎて生態系を壊そうとしている輩を間引いている。恐竜なり、海獣なり、それこそゴブリンなり。
今回は、人間が沢山いるこの国に内乱を起こして間引こうとしていたと言う。
普通に話しているが、アタシが人間の子供だと思ったのなら間引く対象ではないのかと聞けば。
白雪は普通の人間の子供ではない、新種の生物であると気がついたからだ。
新種の生物は慈しみ育てないと、すぐに絶滅してしまうから間引く対象ではないと言う。
なので聞いた。魔王軍の敵になるのかと。
アタシの存在は魔王軍の敵にあたらない。干渉されないのなら敵にはならない。
だが、人間種に関わらず個人的な知り合いが魔王軍の手に掛かりそうになるのなら、助けるために敵になると正直に答えた。
ペガヌスは暫く思案顔であったが、何か思い当たったらしく残忍な笑みを浮かべた。
「主張を通したければ力を見せよ。力無き者は力有る者に従え」
勘違いは訂正できたが、結局戦いは回避できないのね。アタシも従順ではなく意思をみせたから今度は覚悟していたけどね。
「次は初めから全力で行く。一瞬で終わるなよ。いくぞ!」
相変わらずタイミングを教えてくれる。本気でアタシを倒す気があるのだろうか。いくら先程より速くともタイミングがわかればどうにでもなる。
自分の事を武人だと言っていたから不意打ちとかは嫌なのだろう。
潔いとは言えるが、サシでの本気の戦いは先に動いた方が敗けなのだよ。しかも隙だらけだ。
ペガヌスは右手を振り上げており左手は遊んでいる。どう考えても右手からの振り下ろしの攻撃である。せめて横からの凪ぎ払いであるなら距離を取って避ける必要があるが、袈裟斬りに代表される縦切りは威力が高い分、攻撃範囲が狭いのが難点である。
体格差が有りすぎるために振り下ろしでは、アタシの頭しか狙えない。
左右どちらでも避ければ良いだけだ。
だが右に避ければ左手から追撃されるので。アタシは振り下ろされる右手爪先に合わせてしゃがみこみながら左前に踏み込む。
頭上を爪先が通過していく事を感じながら気を流して強化しているホウキの柄を雄型生物の急所に当てた。そう当てただけだ。
何しろ、身長差が有りすぎて狙うところがそこしかない。
更に言えば、真っ黒マント着ていたから安心していたのに、脱いだらコボルトキングという高ランクな魔物のくせに、下半身丸出しでブラブラさせているのだから嫌でも目に入る。
空気を読んで今まで突っ込まなかったけど、我慢の限界である。
どいつもこいつもほんとこの世界の生き物はTPOを弁えない生き物ばかりである。
アタシの棒に棒を当てただけの突っ込みはアタシの棒の圧勝で幕を閉じた。
疾風のペガヌス一番の隙は丸分かりの急所を無防備にさらけ出していたことであるのだから。




