チョコレート作り
チョコレート。
製造方法は言ってしまえば簡単である。
煎って砕いて不要部を取り除き。粉砂糖と粉ミルクとカカオバターを混ぜて徹底的に磨り潰せば良い。本当に単純である。
だが、徹底的に磨り潰す工程に並みならない労力が必要になるのである。
まずはカカオバターを抽出することから始めた。
カカオ豆から油分を絞り出す。普通の人ならこの工程だけでも大変だろうが、アタシには土魔法の分離抽出がある。
あっさりカカオバターが出来た。搾りカスはココアの素になるので粉末にする。もちろん土魔法である。
お湯を沸かしココアの味見をする。甘いチョコレートの香りがするが当たり前だが苦い。でもこの苦味が良いのである。
ココアを楽しんでいると扉をノックされた。ミルクと砂糖が届いたのかと思って扉を開けると。はたしてチョコさんがミルクと草を持っていた。
ミルクはわかるが、草ってまさかと思って聞いたらやはりサトウキビであった。
チョコさんが言うには王都でも甘味はこれしか無いと言うことであった。
やはりこの世界ではお菓子が無いらしい。
でもサトウキビから砂糖が出来ることは幼稚園児でも知っている事だったようで何のためらいもなく渡された。
その時にココアの香りがしたのだろう。ねだられたので「飲んでも苦いだけだから香りだけ楽しむように。あと、決してこの扉は開けてはいけません。約束してください」と言いながら渡した。
チョコさんは少し考えていたようであったが「鶴の恩返しの話しね。わかりました」とカップを持って下がった。
以前もジャムモドキを作るときに同じやり取りをしたが、今回は魔法を使った作業をするから見られたくないだけではない。見られたらより深刻な事になるからだ。
何度も言っているが魔法はお尻からしか出ない。それは何を意味するのかと言うと。カカオ豆を粉砕する作業もココアにする為に粉末にするのも、お尻である。当然だが粉末にすれば粉になる。お尻で粉にするのだからお尻に粉がつく。
茶色い粉がだ。
真っ白の包帯水着のお尻だけが茶色い。そこまで言えば十分であろう。
良い言い回しが見つからないので申し訳ない。古い表現だがチョコさんに作業中を見られたらエンガチョされてしまう。それはいくら言い訳したところでどうにもならない人の運命である。
アタシは扉を閉めてから続きの作業を開始した。
サトウキビから砂糖を抽出するのも土魔法で済ませた。甜菜の時とは状況が違うからわざわざ水に溶かす必要は無いのである。粉ミルクだって同じである水分だけを抽出した。カカオ豆から胚芽を取り除き粉砕してから砂糖、粉ミルク、カカオバターを材料を混ぜる。
後は口残りが無くなるまで磨り潰すだけである。
ここが一番の難所であるが、アタシには土魔法がある。難なく磨り潰しきった。
軽く湯煎をして舐めてみるとチョコレートの味がした。風味は足りないし雑味がする。日本で売っているチョコレートの味は世界一である。そんなチョコレートには到底敵わないが個人で作ったチョコレートだと考えれば十分美味しいだろう。
型をとり氷の魔道具で冷やして固めて完成である。
固まった所で味見すれば口の中に広がる香りを堪能することが出来た。
これなら問題ないと考えて10粒ほどをチョコさんに、残りは日持ちするように影魔法にしまった。
後片付けを済ませて、包帯水着を巻き直して持って出ようとしたら、チョコさんの居る部屋から多数の人の反応があった。
扉に耳をあてて話しを聞こうとするが何か言い争いをしているようには聞こえるが防音効果が高いのか聞き取れない。
だがこれは聞こえた。
「約束したのだ。今はここを開けてはならぬ」
これは不味いと考えて天井に張り付き潜伏スキルを使うことにした。
はたして、扉は開け放たれた。そして兵隊がところせましと調べ回る。
危なかった、その場に留まって潜伏スキルを使っていたら誰かにぶつかって見つかるところだった。
この狭いとは言わないが広くもない台所に8人も入れば満員御礼である。
あの嫌なGだって逃げ場なく踏まれてしまうだろう。
そして棚から引き出しまですべてを開けて確認してからすぐに出ていき。
「匂い以外の異常はありませんでした」誰かに報告をしているようであった。
「人神様。あまり騒ぎを起こさないで下さい。我々は御身の警護が仕事であります。人神宮で異様な匂いがすると報告を受けてしまえば調べざるを得ないのですよ。せめて何かするなら声を掛けてください。お願い致します」
ああ。兵隊さんの方が正論だ。匂いの事を放置したアタシのミスである。チョコさん。なんとか誤魔化して。お願い。頑張れと心の中で応援するしかできないでいた。
アタシが見つからなかった事で落ち着きを取り戻したように見えるチョコさんは、説明を始めた。「これはココアという香りの良い飲み物で、城に来るときにこっそり持ってきた物だ。気持ちが安らぐ良い香りだと思わないかい。
約束とは作り方は教わったが改良の余地があるから原料はまだ秘密にしなければならなかったのだ。
片付けたつもりでいるが、これを飲み終えてからもう一度確認するつもりだったのだ」と苦しい言い訳にしか聞こえないがなんとか乗りきれたようだ。
「たしかに良い香りです。コーヒーよりも女性的な香りですね。騒がせてしまいまして、申し訳ありません。失礼致しました」
そう言い残し、兵隊さん達は去っていった。
アタシは天井をつたい歩きチョコさんの居る部屋に入り暫く外の様子をうかがう。
大丈夫そうであったので振り返るとチョコさんが台所の前で泣き崩れていた。
「風魔法に反応がないなんて。なんて事をしてしまったのだ。約束を守れなかったばっかりに座敷わらし様が鶴になって小人と供に飛んでいかれてしまわれた」
なんだか色々混乱しているようだ。座敷わらしは鶴にはならない。ただ引っ越すだけだ。小人は白雪からなのか、それとも眠っている間に手伝ってくれる逸話のある靴屋さんからなのか。そもそもアタシは座敷わらしでも鶴でもない。
余りにも嘆くのでアタシは潜伏スキルを解除して、背後からチョコさんの口にチョコレートを突っ込んだ。昔から泣く子には甘いものをと言われているので実践してみた。
効果はてきめんであった。始めは驚いていたようであったが口の中ですぐに溶けだす甘いチョコレートに恍惚の笑みを浮かべている。泣いた子供がもう笑った。あ。子供ではなかった。お婆さんだ。
その後、アタシは必要な材料と作り方を記述してレシピとして渡した。チョコさんがさっき兵隊さんに作り方を知っていると言ってしまっていたからだ。
ただ材料の作り方は曖昧にしか書いていない。カカオ豆から作ったバターとココアとかサトウキビから作った砂糖とかミルクから作った粉ミルクとかだ。
でもこれだけヒントがあれば間違いなく作れるはずである。
チョコさんのチョコレート。沢山の人が感心を持てばいずれ広まり改良されていつか更に美味しいものが出来上がるであろう。




