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王子の仕事はたいへんだ

ラーディッシュ王子が居る限り執務室から出れない。

でも執務が終わるまで待てば良いことである。

のんびりしていようと思い思考の海に潜った。

アタシが何もしなくともバーン家は自爆という罰を受けることになっているらしい。もし国王がアタシを召喚するような事があったら高貴族としてはどのような言い訳をするのだろう。そう妄想にふけるだけでも気分が晴れる。貴族の面子とかそんなことアタシにはどうでも良いことだから。何があってもブラウンさんの前に姿を現すことはしないから安心して言い訳を考えてくださいとしか感想はないのである。

バーン家にはアタシが考えていた以上の罰が執行されたみたいだから、後は王子である。

国から追いかけられたくないから何を仕掛ける事になっても身バレはしないようにしなければならない。

嫌がらせを仕掛けるのも命がけだ。肉体的ダメージは駄目だから精神的にくるものにしなければなるまい。

古典的だが備品が少し動いていると言うのはどうだろう。片付けた場所とは違う場所に必要な物が入っているとか。あるべき場所に無いから見付からない。これはストレスが溜まりまくること間違いない。ついでにミスまでしてくれれば国王に叱られるだろうし嫌がらせとしたらこれ以上のことは無いだろう。

そんな悪魔的な思考で暗い事を考えている間も、王子の執務室は人の出入りが激しかった。アタシには関係無い話しを聞く気がないので元の世界でも重宝していたスルースキルを使って聞き流していたが、

第3王子と言えども何かしらの責任は抱えているのね、人の出入りは無くなったが日が落ちても光の魔道具を使い真面目に書類作成をしている王子をただぼんやり見ていた。


書類の作成が終わったのは深夜を過ぎていた。なんでわかるのかと言うと執務室には時計があるからだ。どれだけ正確な物かわからないが時を刻み続けていて、その表示が12時を過ぎていたからである。思わずため息が出たアタシもその間は観察と言う名の仕事をしていた事になるから残業手当てが欲しいと思うところでもある。

そこでようやくラーディッシュ王子が書類の束を持って立ち上がった。

今日の執務は終了か。アタシもやっと解放されるよと疲れてもいない肩をトントンしていると。

『トントン』とドアをノックする人がいた。

ラーディッシュ王子は書類の束を置いてイスに座り直した。

こんな深夜に訪問者が居るなんて王族も大変だな。なんて思うが、残業延長にがっかりした。

ラーディッシュ王子が「どうぞ」と言うとドアが開き訪問者が入室してきた。

その訪問者を見てアタシは驚いたが、ラーディッシュ王子も驚いたようである。

訪問者の背はアタシと同じかもっと低く。目の色は黒、真っ白な髪をして歳を重ねたシワの多い顔だが、不思議とハリがあり背筋も延びて歳をまったく感じさせない。

「お婆様。なんの御用ですか」とラーディッシュ王子が言う。

なんと。夜営地でアタシに向かって「婆さんみたいだ」と暴言を吐いていたが、なるほど背格好だけ見れば似ていないことはない。ラーディッシュ王子め、あの時のセリフは嫌みではなく本心だったのか。アタシの事を本気で婆さん扱いしたのか。嫌がらせを倍増してやる。

新たな決心のもと二人の話しを聞くと。

ラーディッシュ王子は何か事を起こすらしい。苛立ちが声から溢れている。お婆さんは優しく受け止めてそれを止める構図であった。


「何もしない奴等は王国に不要だ。私の意志は硬い。説得するなら奴等を動かせ。そうなれば私だってこんなことをしないですむ」とラーディッシュ王子は最後にそう言い放ち書類の束を持って出ていった。

兄弟喧嘩中なのかなと漠然と思わなくもないが情報不足である。どうなっても良い国でどうでもいい話しを聞いただけだ。

キナ臭い話だけど放置決定。アタシには重要な目的があるのだから、これから真剣に取り組まなければならないのである。

そう、王子が出て行ったから嫌がらせを仕掛けたいのだが、お婆さんが残っている。

お婆さんが歩きだすと風が流れたような気がした。

お婆さんは出ていかずに部屋の真ん中、執務席に近寄ると何かを書きはじめた。

もしかしたらアタシと同じように嫌がらせでインクを使いきるつもりなのかと有り得ない妄想をしていたら。

どうやら書き終えたらしく紙を見つめている。アタシは妄想を払いのけ、真面目に考え直してラーディッシュ王子への書き置きかなと思っていたら。突然振り返りアタシに向かって紙を突き付けた。

紙に書かれていた、いや、描かれていたのは本棚とその上で座っているマントを着た人の絵であった。

アタシは驚きすぎて姿を現してしまったかもしれない。だがその事を確認することも出来ない。

お婆さんの眼差しが鋭くアタシを射抜いているからだ。次の瞬間、ラーディッシュ王子に対して優し声で説得していた声とは別人のように鋭く冷たい声で言い放たれた。

「そこに居るのは誰だい?」


アタシどうしよう。



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