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王子と貴族と盗み聞きと

新しい朝がきた絶望の朝だ。

と言っても絶望を味わうのはアタシでは無いけどね。バーン家当主ブラウンさんはどんな報告をするのかな。

でも昨日の今日で逃げられた事を素直に報告するとも思えないから間を置くとしたら今日はまだ絶望の朝ではないかもしれない。

しかも、すぐ逃げられることが想定済みであったとしたら王子に「やっぱりそうか。ご苦労」とでも言われれば罰にもならない可能性だってある。

昨夜から色々と腹立たしいことが続いていたが朝日を浴びたら、なんだか憤りが沈静化していった。何かしらの仕返しはしたいと考えているが、悪魔や魔王にはなってはいけないと考え直した。

冷静に省みて、この先まだ人として生活をしていくつもりなら自分を抑えなければなるまい。

相手は王族。王族に危害を加えるつもりなら全てを捨てる覚悟が必要なのである。それこそ悪魔や魔王になるくらいのね。

でも、そう言うのってネット小説では成功した試しが無いのよね。

よっぽど悪辣な王家でなければ最後の最後で真の主人公が現れて王族を守りきる。めでたしめでたし。それがお約束の展開である。

アタシの話しはアタシが主人公だけど、人の数だけ話しがあり、それぞれの人が主人公なのでこの世界の中心人物と言うアタシの話しには未登場の真の主人公が突然現れる可能性だってある。

そんな事を考えながら城門が見える木の上で観察しながら作業を行う。

城門の警備はさすがに厳重である。貴族らしき馬車にでさえ、中に入って確認までしてから通行許可を出している。貴族も文句を言わないところをみると、癒着等の不正はないようだ。

建国から長いわりには珍しいと考えてしまうのは元の世界が荒れすぎているせいか?

次々に入場していく馬車を見ていると、昼前にようやく待ち人が来た。待ち人とはバーン家の馬車である。

入場待ちをしているところに忍び足で近寄り、馬車の下に掴まる。

久し振りに使った純粋な蜘蛛の能力である。壁でも天井でも貼り付いて自由に移動できる便利な能力だが野外活動が多いので使いどこが殆どないのが実情ではある。

何でこんなことをしているのかと言うと。アタシの妄想ではこれだけ厳重なのだから正規の手順を取らなければ何かしらの魔法が働き侵入がバレるというお約束だ。自分から難易度を上げるのは避けたい。

それにバーン家の馬車なら乗っているのはブラウンさんであろう。きっと王子に会うだろうから城内に入ったら着いていけば案内してくれるだろうという考えである。

それでも走られたら着いていけないのでアウトだがそんなことは普通王城では無いだろう。

はたして、アタシは王子の執務室に潜入することが出来た。こうもスムーズにことが進んだのは王子と言っても第3王子だからかもしれない。王国としても予備の予備だ重要性は低いだろうから。


ブラウンさんとラーディッシュ王子との話しは、クラウさんとの婚約発表から結婚式の日取り、規模、場所を候補日から決めていっている。アタシは出来るだけ人が近づかない場所、本棚の上を潜伏場所に選んで座って話しを聞いていた。


他人の結婚式と聞いても式の話しは心が踊る。

次々に決まっていく日程なのであったが何かおかしい気がしてきた。

決定されたもの自体には何も問題はないと思う。第3王子だとは言え王族の式だ、それなりに華やかである。

だが聞こえる会話とは別に筆談をしているのである。始めは覚書かと思っていたが式の予定を決める会話よりも余程熱心である。下手に近寄るとバレる可能性が高いので内容を見ることは出来ないことが余計に気になった。

まあ、別にいいや。

最近、多くなってきたこの思い。貴族や王国はアタシにとってどうでも良い存在なんだなと無意識に感じているのだろう。直接アタシに関わることでなければ本当にどうでも良い。

また忍び込むのがめんどくさいから、ブラウンさんがアタシの報告を今日することを祈って待った。


良かったのか悪かったのか無事に報告はなされました。

「アレが旅出た訳ではなく、逃げられただと。うかつだった。お前はアレがどれだけ価値がある存在なのか知らなかったのか」


王子はアタシの事を価値があると言っているがアレ呼ばわりされると台所で見かけるG見たいな気がするのはなぜだろう。


「親の遺産の金貨1万を商人に貸し出して儲けを生活費に充てている何処にでも居る少し裕福な冒険者だと。馬鹿を言うな。それはアレが自らが稼いだ金だぞ」


なるほど。ブラウンさんは銀行の利子で生活している子供と考えたのか。

そうでも考えなければ、子供があんなに金貨を持っている訳がないか。


「『氷』の魔道具は知っているだろ。アレが作り出した新種の魔道具だ。

この魔道王国の歴史の中でさえ遺跡から見付けた物を長期間かけて研究するしか新種を開発出来なかったことだぞ。それをアレはあの歳で開発した。王国に先駆けてだ。

幸い初登録のブラクソン王国は気が付いておらず、出身国不明で冒険者ギルドが身元引き受け人となっていたから。騒ぎなく我が王国貴族出身と出来たと言うのに。

あの魔道具一つでバーン家は未来永劫名を残すことが出来るのだぞ。

アレは出生は隠しているが子供ではない、間違いなく妖精だ。妖精は書類上だけの出身国なぞ気にもしないだろう。理由を話し、後は自由にさせておけばクラウを気に入っているようであったから。何かの時には進んで力を貸してくれたであろうに。

私は気心しれたクラウの事を心から愛している。だからクラウの為にもこれ以上アレに干渉する気はないが、ブラウン・バーンよお前はどうする」


なんだかラーディッシュ王子もテンパっているのか、脈絡が続いていない気がする。でもある程度はアタシの考察通りだったらしい。

ただ未来の栄誉までは考えていなかったようだ。王国の歴史単位で考えればそう簡単に新種の魔道具を開発できるとは思えないだろうからね。

それにしてもクラウさんは愛されているようで、その点だけはラーディッシュ王子を誉めてあげよう。

ただし無罪放免とはしない。量刑は軽くしてやろう。アタシを妖精だと思っているなら。クラウさんの為にも嫌がらせをするだけに留めておこう。


それに対して、ブラウンさんはこれから大変だろうな。『氷』の魔道具の開発者の血筋として、現当主として、たくさんの問い合わせや、是非我が息子の嫁にとか、開発者に会わせて欲しいとか、パーテーに連れてきて欲しいとかたくさん来るだろう。

ラーディッシュ王子は干渉しないと言うからにはフォローはしないだろう。会わせられない理由は何だと問われても『逃げられたから』だなんて貴族の面子を潰す事になるから言えるわけがない。


ラーディッシュ王子は頭は良いがテンパると説明不足がちになるのが欠点らしい。

唐突にブラウンさんは頭を抱えてラーディッシュ王子に許可を取り足早に退室していった。アタシを探す為だったりして。


って。置いていかれた。

厳密には違うが、王子と二人きりになった部屋の本棚の上で取り残されてしまったマッキーであった。


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