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アタシの証明と昔話

夕食後に約束通りブラウンさんはアタシの居る客室に現れた。

そして貴族に取り入ろうとしていないと言う、アタシの身の潔白は証明された。

これで晴れて無罪放免である。それ自体は嬉しい事ではあるのだが結果的には思い描けない事になってしまっていた。


それは。


客室にはアタシとブラウンさんとマリアさんの3人だけである。

クラウさんはブラウンさんの判断により外されている。

因みにマリアさんとは暴露本の最後のページに『いつまでも愛している』と書き残されていた相手であるアントニオさんの妻である。

クラウさんが外されているのは分からないこともないが、マリアさんが居ることは疑問である。

アタシは生前のアントニオさんを知らないのだから、妻であるマリアさんがここに居る理由はないはずだ。

油断大敵、これから話される内容に関してマリアさんが伏兵の立場であると考え、話しが始まる前に理由を考えたがクラウさんのこと以外では思いつかない。

マリアさんの表情は暗くて固く不気味である。

言い知れない緊張の中、話しは始まってしまった。


ブラウンさんは何故か商人ギルドの話しからはじめた。

どうやらアタシは商人ギルドからの受けが良いらしい。

知らなかったのだが、契約上アタシの貯金は元金を保証さえすれば商人ギルドで自由に使えるとなっているそうだ。

ピエールさんめ、アタシには損はさせないとか言っていたから信用してある程度契約内容は任せてしまっていたけど妙な契約をしている。

でもそのお陰で商人ギルドから信用を得ているなら良しとしよう。

でも金貨100枚くらいの預金だろうから、日本円で一億円くらいでしょ。個人なら遊んで暮らせる金額だけど商人ギルドは商売で使う金だ。その程度の金額では信用を得られるほどのことは出来ないような気がする。

そんな感想を持っていたら。

なんとアタシの預金は金貨1万枚を越えているらしい。あくまでもらしいと言うのは高貴族相手とは言え商人ギルドは個人情報を漏らさなかったからだ。

だが先程のように契約内容を教えた個人が居り、推測の域でしかないが最低でも金貨1万枚なければあのような契約は結ばれないと言うことであった。

ピエールさんめ、やはり余計なことを。

だがブラウンさんはあっさり「それだけあれば遺産狙いということはないだろう」と流した。


さすがは高貴族。日本円にして100億円くらいでは何とも思わないらしい。

マリアさんの反応も薄いので高貴族とは恐ろしい程の金持ちの集まりなのであろう。


次にラーディッシュ王子に話したことについてであったが、本人から話が聞けたので取り入る気がないと言うことも証明された。


ここまで聞いてアタシは安心した。後は冒険者ギルドで証書をもらっている内容である。アタシの父親は『タロー』ですからアントニオさんとは無関係である。

不安要素として、ここまでの話しでやはりマリアさんが同席しているのは不明ではあったが。


そして最後に一番の問題であるアントニオさんの子供かどうかの話しになった。

アタシは冒険者ギルドと言うかモーリス支店長を信頼しているので、大船に乗った気分で話しを聞いた。

記述されていることは概ねアタシが支店長に言ったことである。

マッキーの父親は『タロー』と言うものである。アントニオ・バーンさんの子供だと言う証拠や証言はギルドでの調査ではただの一つもない。マッキーはバーン家に迷惑を掛けることはない。とまで書かれているそうだ。これで迷惑を掛けていたなら支店長にまで責任が及んでいただろう。

そこまでアタシのことを信頼してくれていた支店長に感動してしてしまっていた。ありがとう支店長。

「と言うことで、冒険者マッキー。貴女がこのバーン家に来たのは遺品を届けに来ただけであることが証明された。アントニオの娘を助けてくれた恩人を足留めしたことを謝罪する」と言って頭を下げた。なんと貴族が頭を下げたのである。

アタシは心にも無いのだが、慌てた体を装って「貴族様に謝罪を頂けて感謝致します」と頭を下げ返した。

そこで無罪放免。今夜は遅いから明日旅立てば良い。と続いて話しが締められる思っていたら。


続きがあった。


「冒険者マッキーが遺品を届けに来ただけであると言うことは証明されたが、アントニオの娘ではないと言うことは証明されていない。すべては冒険者マッキーの言葉だけであるからだ」

うわ。まだ疑惑を持たれているのか。もういい加減にしてほしい。この二人も『タローです』ノイローゼにするしかないのか。

「貴女の父の名前はタローと言っていたな。それに間違いは無いのだな」

アタシは「タローです」攻撃をすることに決めた。

「アタシの父親はタローです。間違いなくタローです」

この攻撃は自分自身にもダメージが入る両刃の剣である。気合いを入れ直して次に備える。

「わかった。では少し昔話しをしよう」

昔話し?思いもよらない展開に入れていた気合いが流されてしまった。

そして語られた事とは。


アントニオとマリアの間に産まれた娘は双子であった。

一人は『クラウディア』

一人は『マキシミリア』と名付けられた。

この世界では双子だからと言って忌むべき存在ではない。二人は平等に可愛がられ幸せな日々を過ごしたそうだ。

だが、一年経たずにその幸せは崩された。突然現れた闇魔と言う存在に『マキシミリア』が拐われてしまったからだ。

アントニオは妻であるマリアにだけ一言「闇魔を追う」と伝えすぐに『マキシミリア』を取り返す為に旅立った。

高貴族であるバーン家の娘が『闇魔』と言う存在に敷地内で拐われたなんてことは到底公表できない。

アントニオが無事に連れて帰ることを祈るだけであった。

そして1年が過ぎたが何の連絡もない。

さすがにそこでバーン家はアントニオを捜索するために冒険者ギルドに依頼を出した。

1年経っているとは言わずに出した依頼だ、冒険者ギルドでいくら調べたと言っても王都から忽然と姿を消したとしか思えない。

一年前ならば『闇魔』のことを尋ねて回るアントニオの姿が各地で目撃されていたのだが。

その結果、アントニオは『闇魔』に取り付かれて失踪したと言う噂が広まってしまったそうだ。

一年ずれている捜索である。足取りはまったく掴めず10年の区切りで依頼を下ろし今に至るという。


その話しを聞いてアタシは嫌な予感しかしない。

話し終えたブラウンさんは嵐の前の静けさのように口をつぐんでいる。


今の話しとアタシに何の関係があるのかと問いたいが、重苦しい雰囲気によって口を開く事がはばかれる。


この話しとこの展開、次に言われることは一つしかないだろう。

アタシは抵抗する為に『タローです』語録の準備を始めた。


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