膝の上の妖精
アタシは何故かラーディッシュ王子と行動していた。とうぜんクラウさんも一緒であるが。
今は王子の馬車で揺られているが揺れは少ない。さすがに王族の馬車は作りが違うと感心半分、気恥ずかしさ半分である。
なぜならアタシはクラウさんの膝の上にいるからだ。
シートベルトのようにがっちりホールドされてしまい抜け出すことも出来ない。ラーディッシュ王子も微妙な表情をしている。
もう大丈夫と言っているのだがまったく聞いてくれない。離して欲しいのに力を緩めてくれない。なお悪いことに正面を向いている。ラーディッシュ王子と対面状態である。
アタシが何をした。これはどんな罰ゲームなのか。何でこうなった。
それは急を知らせる報告から始まった。
王都への行軍が急停止した。何事かと聞けば闇教の信者かと思われる者達からの攻撃を受けてスライ隊に負傷者が出ているが後方部隊での迎撃を開始しますので、お待ちくださいとのことであった。
闇教徒に関わらずはラーディッシュ王子からすれば命を狙われる事は稀にでもあることであったので「そうか」の一言で済ませたが、
がクラウさんからすれば後方には『私』の妖精さんがいる。
とたんに心配になり王子を説得して単身アタシの乗っている馬車に来たところ。
顔色が悪く無表情で涙を流して立っているアタシを見つけた。
状態がおかしいことは一目瞭然。声を掛けても揺さぶっても反応がない。
揺さぶる時に触った身体は冷たく感じた。
これは悪い何かが付いていると思い。袖の長いドレスを捲りリストバンドを見ると淡く光っている。
あの時に妖精さんが言っていた闇が近づくと光と。
妖精さんが闇に襲われている。そう考えたクラウさんはリストバンドをアタシに押し付けたまま抱き締めたそうだ。
きっとこれが力を後押ししてくれた存在なんだろう。
クラウさんの為に渡した魔道具に結果助けられるなんて。世の中判らないことばかりだ。
それからアタシが双丘に気が付くまで頭をポンポンしながら抱き締めていてくれていたそうだ。
その時にアタシが「ありがとう。お陰で助かりました」と言っていたらしいが記憶が曖昧になっていて覚えていない。
現にアタシがそう言ったあと、すぐに眠ってしまったらしいからだ。
闇魔との戦いで精神的に疲れていた上に、頭ポンポン攻撃を受けていたからだろう。
クラウさんはアタシを抱っこしたまま王子の馬車に連れてきたと言うことであった。そして今に至る。
眠っていたのは長くはなく、今はまだ昼前だと言うことであった。
微妙な表情を浮かべていたラーディッシュ王子であったが、クラウさんが「この子は良い香りがするの。この香りに包まれていると落ち着くのよ」と話してしまったところで表情が変わる。
まるで良いことを思い付いた子供みたいだ。
「そんなに良い香りがするなら僕にも味合わせて欲しいな」
すぐに拒否をしないクラウさん、まさか、まさか、やめてくれー。
次の瞬間、対面にクラウさんが居た。
男に対する嫌悪は新しい記憶により払拭されているが男を苦手と思い続けていた長い元の記憶も有るために、二つの記憶によるせめぎあいによるパニックを起こしてしまい何も考えられなくなる。
頭上では「本当だ良い香りがする。これは確かに落ち着くね」とアタシをクラウさんの横に置いてくれた。
パニック状態から解放された時にラーディッシュ王子を見るとニヤリとしていた。
どうやら見かねて助けてくれたようだ。
ラーディッシュ王子、ありがとう。「婆さん」発言はこの恩で許すと心の中だけで思った。
だがニヤリとしていたラーディッシュ王子であったが自分の両手とアタシを訝しげに交互に見ている。
そしてアタシにではなく「なあクラウ。この娘、軽すぎやしないか」とクラウさんに言い出した。
女性の年齢と体重は話題にしてはいけないとは知らないのかと言いたかったが話し掛けた相手はクラウさんである。
王族に対してアタシが口を挟んではいけないことくらいは解っている。
だから、クラウさん。アタシの代わりにビシッと言ってやってくれ。
幼馴染みなら言えるでしょ。
さあ。さあ。さあ。
そんな意思を込めてアタシはクラウさんを見つめる。クラウさんもアタシを見て。
「(私の)妖精さんだもの軽くて当たり前でしょ」
とアタシの意思を受け取れずに爆弾発言をしてしまった。
驚くラーディッシュ王子であったがアタシが口をパクパクしていることを見て発言を許してくれた。
最近、詐欺師になれるのでは無いかと思うくらい嘘が上手になってきた気がする。
「……と、言う訳で、女神様と報告が上がっている存在は居なくなってしまわれたので、今のアタシはただの人なのであります」
そう言い切るとラーディッシュ王子は納得してくれていたが、まったく諦めないのは何故かクラウさんである。
「ラルク。貴方もこの軽さは妖精だとしか思えないでしょ」
あらあら。昨日は王子付きで呼んでいたのに、一晩明けたら呼び捨てですか。そうですか。昨夜はお楽しみでしたか。アタシは馬に蹴られて死にたくないから突っ込みませんよ。
「確かに軽いけど、だからと言って妖精ってことはないのでは。」
クラウさんをたしなめてくれている。ラーディッシュ王子頑張れ!
「それにギルドから報告を受けている内容からすると、この娘は子供でありながらギルドランク星3で父親はタローと言うらしい。人の子が妖精ってことは無いと僕は思うぞ」
なんと一晩でアタシの調査もしていたんだ。それもそうか怪しげな子供が婚約者にくっついてきているのだから身元調査くらいするよね。
ラーディッシュ王子はちょうど良い機会だとアタシにギルドカードを見せるように命令してきた。
アタシは断る理由もないのでギルドカードを渡した。
そのカードを見て「商人ギルドにも加盟しているのか。ん。マッキー? もしかして貴女は『氷』の魔道具を開発した者か」
うわっ。バレた。開発者非公開だった筈なのに、王族には隠せないのか。
何も言えないでいるアタシにギルドカードを返してくれたが。
ラーディッシュ王子は「たしかにこの娘は妖精さんかもしれないな。クラウ。悪かったな」とクラウさん側に付いてしまった。
もうアタシを擁護してくれる存在は居なくなってしまった。
それよりもこのままではまずい。
アタシはたまたま目的地が同じであったから行動を共にしただけだ。
用事が終わったら次の旅に出なければならないと言うことを伝えなければならない。
そうしないとクラウさんにもバーン家にも迷惑を掛けてしまう。
でもどうすれば良い?
アタシは発言する許可を得るために片手を挙げてみた。




