王子さまとお姫さま
アタシは怒り心頭中である。いくら謝られても心におった傷は癒えないのである。
昨日の晩、色々あったよ。あったけど。面倒事だよ。はっきり言って最後は思い出したくもないけど。一つ言っておこうアタシはまだピチピチのアラフォーだと。
それは王都まで半日ちょっとにある宿場街イースト。
王都から徒歩で出発した旅に慣れていない者達が旅の厳しさを知り進む者と挫折して引き返す者と別れるところから決断の街とも言われている。
そんな街にアタシたちが着いたのは日が落ちて間もない頃だ。いつもなら先触れの兵隊さん達が部屋を確保しているのだが、今回は駄目だったようだ。
貴族を泊めるような宿は全室満員で空きがない。街が賑わっていることは良いことなのだが兵隊さん達は「申し訳ありません」とクラウさんに謝罪していた。
クラウさんは宿に泊まれないなんて、どこ吹く風のごとし気にしている様子は無かった。
さすがは貴族と言っても冒険者である。先触れの兵隊さん達に「ご苦労様」と言って仮眠を取るためテントに入っていった。
宿に泊まれないならこの地に居てもあまり意味がない。
兵隊さん達はたいへんだが訓練という名目の元、夜間強行をすることになった。とは言っても治安の良い王都周辺である。大変なのは馬さん達だけかもしれない。
アタシは整備された道に入ってからは接触の機会が減ってしまった馬さん達の所に行きこっそり回復包帯を巻いていく。
岩砂漠にいるとき初めて見る回復包帯に馬さん達は警戒していたものだが今では慣れたものだ。
大人しく包帯を巻かれている。疲労も体力も回復するのだから馬さん達も気持ちがいいらしい。
お礼に鼻面を押し付けてきたり顔を寄せてきたりしてくれる。喜んでくれてアタシも嬉しい。
気分よくしていられたがここまでであった。
馬さん達に包帯を巻き終えてぼんやりしていると、テントの方が騒がしくなった。何事かと思いテントに向かうと。見知らぬ人が居た。
貴族であろう事は金銀刺繍の施された手の込んだマントをみればわかる。
貴族が貴族に用事があるのならアタシが顔を出す必要はないだろう、喧嘩を吹っ掛けられたら兵隊さん達に任せれば良いだろうからね。
アタシは傍観を決め込んで近くのテントの影に身を隠し、視線が無いことを良いことに潜伏スキルを使った。
部隊長は貴族の人に、今は仮眠中ですから会わせることが出来ないと言っているが、貴族の人は無視してテントに手をかけようとしたときに。
「騒がしい。何事だ」
とクラウさんが不機嫌そうにテントから現れた。
そして貴族の人と見つめあうこと数秒、跳んで距離を取りひざまずいた。
「ラルク王子。どうして貴方がこんな場所にいるのですか」
貴族の人では無くて王族であったらしい。
その後もやり取りを聞いていたが、要するに馬に蹴られてしまえの内容だった。
親の決めたクラウさんの結婚相手はセントラル王国第三王子であるラーディッシュ・セントラルと言うことらしい。
ラーディッシュをどう縮めればラルクになるのか分からないが、二人は幼馴染みであったらしい。
ラーディッシュさん曰く婚約者が迎えにくるのはとうぜんと言うことであった。
でもそのせいで高級宿が満室扱いとされてしまい締め出してしまったことを謝罪していた。
今夜イーストにつく筈なのに未だに着かない。
不振に思った王子が宿に問い合わせたところ、それらしき兵士が着ていた事を知り、慌てて探したところ夜営の部隊を見つけたと言うことだった。
クラウさんは王子が結婚相手だと初めて知ったらしく混乱しているようだ。
部隊長も足止めをした相手が王族と知り平謝り中である。
兵隊さん達も王族の登場に混乱している。
ラーディッシュさんは冷静そうに見えるがよく話しを聞いているとクラウさんに謝ったり昔話をしたりを繰り返しているだけでやっぱり混乱中のようだ。
ため息を一つ吐いてアタシは混乱の収拾に乗り出した。
王族相手にこちらから話し掛けるなんて元の世界の話からすると失礼なことだと知ってはいたが
「初めまして。冒険者ギルド所属、白い風のマッキーと申します。大変失礼ながら物申しあげます」
冷静かと思っていたがアタシも混乱していたみたいだ。何この言い回しは、もしかしたら無礼切りされてもおかしく無いのではあるまいか。
でも口から出てしまった言葉は戻らない。
強引に押し進める。
ラーディッシュさんにクラウさんの為に宿を確保していたのではないのかと目的を思い出させた上で部隊長の謝罪を受け取って欲しいとお願いする。
部隊長には謝罪を受け取って貰えたのだから、やることがあるでしょとクラウさんの護衛を選出させながら兵隊さん達の混乱を静めてとお願いする。
クラウさんには宿に行く準備をさせるためにテントに押し込み、アタシのマントを被せてとにかく落ち着かせる。
そして再びテントから出てラーディッシュさんに「準備させますので少々お待ちください」と伝えてからテントに戻る。
世界の王が洗濯したマントは未だに効果を発揮しているようで。
わずかな時間であったにも関わらずクラウさんは落ち着きを取り戻していた。
クラウさんの髪に櫛を通し身の回りを整えた。
ラーディッシュさんに「冒険の旅の帰りなのでお見苦しいと思いますが御容赦ください」と伝えながらクラウさんを預けた。
部隊長も兵隊さん達も流石と言うべき。すでに混乱から立ち直り、整列していた。
アタシも整列に加わり見送っているとラーディッシュさんが
「白い風のマッキーだっけ。まだ子供なのにさっきはしっかりさばいていたね。まるで婆さんみたいだよ。これからも宜しく」
と言い残してクラウさんと街に向かって行った。
『婆さん』だと。
成人前の子供を捕まえてよりによって婆さん扱いなのか。
確かに精神年齢はアラフォーだ。15歳で成人扱いのこの世界なら10歳程度の孫が居てもおかしくないけど。
子供は背伸びしたい早く大人に見られたいと思うものだけど、大人を飛び越して老人扱いとは酷すぎはしないか。
アタシはその後も憤慨し続けていた。




