不幸の配達人
その後、朝になってもクラウさんはベッドから動かなかったので魔道具の開発を集中してすることができた。
開発と言うものは不思議なもので頭で色々理論的に考えて作ったものはうまくいかないものである。
振動を遮断すれば良いと考えたのだが、魔力を通しても『振動遮断』は発動しなかった。
よく考えてみると『力』の言葉が無いことに気が付いた。ここで困った振動は『土』魔法なのか『空気』=『風』魔法なのか分からない、どちらも試してみたがやっぱり発動しない。
蜘蛛君の能力なのだから『土』だと思っていたが違うようだ。
もしかしたら『スキル』>『魔法』なのかもしれない。
発動していないように思えても実は発動はしていて、でも振動感知の能力の方が強くて遮断出来ないのかもしれない。
そうだとすると魔道具ではどうにかすることは出来ないのかもしれない。
因みに空中に浮いてしまえばと、浮遊の魔道具を作ったが出力・持続力共に不足で断念している。
あれこれ振動感知が効かなくなるように作ってみたが振動は遮断出来なかった。
朝日が昇り始めた。結局魔道具を作ることは駄目なのかと諦めた時に気が付いた。
そもそも振動を遮断する方法の答えは始めから出ていたのである。
蜘蛛糸のハンモックで眠ればいいと言うことだ。
でもここは異世界。何があるのか分からない。眠っている間に肉食獣や魔物に襲われるかもしれないと考えて至近に寄られた時に目が覚めるようにと開発したものであったのだ。
宿の部屋で寝るとき、初めは人が信用できなかったから蜘蛛糸警報装置を設置した。
でもブラン砦の宿屋では一度も起こされることはなかった。
部屋に居て起こされたのは雑貨屋で子供がノブに手にかけた時だけだ。
アタシが過剰に疑って、それが当たり前だと考えていた事による弊害だっただけである。
その事に気がついた時に思わず脱力してしまった。
知らない世界で警戒はしなければなるまい。だが過剰な警戒はしなくてもいい。
そう考えれば宿屋でもハンモックで寝る変人と言われてもそれは小さな問題でしかない。そう小さな……小さいよね?
眠るのはこれで大丈夫だとして、やっぱり警戒はしたい。だがそれも解決済みだ、従来通り細い、本当に細い蜘蛛糸を張れば良いのだから。
古い商品も見方を変えれば新商品。開発とはそんなものである。
後は見られてしまった蜘蛛糸の塊である。後回しにされたが長い馬車の旅である。必ず聞かれるであろう。
対応を考えることにしたが基本は待ちである。自分から話してしまうと言う自爆は極力避ける方針をとるしかない。
朝食をとり馬車に乗り込み、夜営している兵隊さん達に合流して先を進む。
クラウさんから何も言われないことをいいことに、アタシの事を誤魔化すために出来る限り別の話しをしていた。そしてアタシは旅の目的の一つである王都に向かう理由をつい話してしまった。
話さなかったのは貴族はどこでどう繋がっているか分からない。もしかしたら敵対している可能性を考えたからだ。
アタシ的には荷物を届けて「はい。さようなら」とするつもりであった。荷物の一つに暴露本があるのだから巻き込まれたらたまらない。
だったらギルドに頼んでしまえば良かったのだが、そうしたら旅が出来なくなる。目的のない旅はただの放浪だからだ。
それに自分で決めた目標だし、初志一貫としたいからだ。
話しを聞いたクラウさんは内容を理解した瞬間、微笑みを浮かべていた。
訳を聞けば、バーン家はクラウさんの実家であり今まさに家に向かっているのである。
王都までの同行のはずがクラウさんのお宅訪問。しかも仲良くしてくれているクラウさんへの不幸の配達人に変わってしまったのである。
クラウさんの名前はクラウディア・バーン。
そうアントニオ・バーンさんの娘であった。
よく思い出せば、ギルドで聞いた話しとクラウさんの身の上話は一致している。
バーンさんを助けるために力を付けて冒険者となったのに、本人はすでに亡くなっている。
しかも今までの話しからすると、亡くなったという証明であるギルドカードが見つかったという事も知らないようだ。
アタシがギルドに届けて1年経ったわけでもなく、その間クラウさんは冒険を続けているのだから報告が届いて居ないのかもしれない。
嬉しそうに「家まで一緒だね。何の用事なの」と、はしゃいでいたクラウさんであったが、何も話さないでいるアタシを見て表情を硬くした。
その間、アタシは迷っていたが引き延ばしても意味がないと考えてバーンさんが亡くなっていたことをクラウさんに伝えると共にバーンさんの再使用不可処理を施したギルドカードを渡して見せた。
初めは驚いていたクラウさんであったがギルドカードを見ると表情を歪めた。が泣き出すことはなかった。
暫くのあいだ「やっぱり。そうだったのか。10年以上経ったのだから当然か」と一人言を続けていたが何かが吹っ切れたのかアタシに向き直り
「教えてくれてありがとう。やっぱり妖精さんに会うことが私の運命だったのね。母もきっと生死の真実を知りたいと思っているから、ぜひ家まで一緒に来てね」と悲痛なところはまるでなく明るく話し掛けてきた。
父親の事はすでに整理できていたようだ。それもそうか。物心がつく前から居なかった父親だ。亡くなっていると聞いたところでやっぱりそうだったのかと思うだろう。
アタシも同じ立場だったらそう思うに違いあるまい。
この態度を冷たいとは思わない。この世界は死が身近にあるからだ。
その後、馬車に揺られながらクラウさんと冒険の話しをした。
森に住む猿に食べられる物を教わったのだよと言ったら唖然としていた。
そんなに変なことなのだろうかと真剣に問いただしたら、クラウさんが楽しそうに笑っていた。
笑うクラウさんを見てアタシも笑った。
馬車も楽しそうに軽く揺れながら王都への道を進んでいった。




