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見つめる目の正体

暗闇の中から覗く目と合った時、何故か恐怖は感じなかった。なんだかこの目は知っているような気がしたからである。しかも先程目が合った筈なのに周囲を伺うように覚束なかった。

さっき目が合ったはずなのに変だな。もしかして見えていないのかもしれないと、自分でも意外だと思ったが冷静に見ていることができた。

そして気が付いた。この目の人は幽霊じゃないあの人だ、アタシは確信をもって見つめ続ける。

でもこの状況は非常に不味い。

いつからどうやってアタシの部屋のクローゼットに入ったのか分からないが、それは今は悩んでもしかたがないことだ。

不味いのは部屋中蜘蛛の糸だらけの状態である。

こんな状態を人に見られたらアウトだ。

それこそホントにドロップアウトしないといけない。

あの雰囲気だと目の人は暗視が出来ない事が最後のアドバンテージだ。

なんとしても片付けをしなければならない。そうと決めればすぐ行動。アタシがハンモックから降りようとしたところで

「マッキー起きていますか」

目の人に声を掛けられてしまった。予想通りクラウさんの声である。

行動に移る前に先制されてしまったアタシは、進退窮まってしまった。

ここで「起きている」と伝えてしまえば、室内に設置してある光の魔道具を発動されてしまう。

当然、片付けようと動けば音が聞こえてしまう。

起きていると判断されれば同じだ。

ではこのまま寝た振りを続ければ良いのかと思いきやそんなのは無駄だ。

クラウさんがこんな遅くの時間に話しにアタシの部屋に来たと言うことは、兵隊さん達に聞かれたくない話しをしにきたと言うことである。間違いなく起こされる。

その手段として、まず明かりを灯されることは決定事項である。


どうしようだなんて考えている暇はない。最善を尽くすしかない。

アタシが選んだのは。

『起きているけど今裸なので明かりは点けないで下さいね』作戦だ。

すぐに服を着るから少し待ってくださいと続けた。

「あらそうなの。でも構わないわよ。少し話しがしたいだけだから」

そんな短い会話をしているあいだも急いで蜘蛛糸を片付ける。

周囲の糸を切り、集めて丸めているところで

「取り合えずここから出たいから明かりを点けるわよ」

間に合わなかった。

光の魔道具によって灯された光は室内の隅々まで明るく照らす。

アタシは蜘蛛糸の束を持ったままである。

「貴方、それって」


うわっ。見られた。

「えっと。その。あの。」

口にするとそれしか言えない。どうしよう。どうしよう。

あと少し、時間にすればあと2秒あれば隠しきることが出来たのに。

包帯は回復魔法として信頼出来る人に口止めして見せたことはあったが、見られてしまったのは初めてだ。どんな反応をされるのか分からない。アタシ史上最大のピンチだ。


「まぁ良いわ。あなたのそれ、色々聞きたいけど今はいい。あとでじっくり話しましょ」


時間的有余を貰えたようだ。アタシは蜘蛛糸を適当に丸めてベッドの中にに放り込んだ。


クラウさんの話しはやっぱりと言うか、ここまでよく持ったなって感じのマリッジブルー再発であった。

詳細は省こう、私は結婚したくないから始まりこのままで良いのかとか自由がなくなるとか、もうとにかく話しが長い。


アタシはそれに合わせて「そうだね。分かるよ」と肯定の言葉を駆使して応対した。

クラウさんは未体験の不安に苛まれているだけなのだから、解消させるためには否定しないで話させるに限る。

その中で聞けた重要なことは、このような高級宿の貴族用の部屋には抜け道が作られていて、何故か殆どの場合侍女部屋に繋がっているそうだ。

クラウさんは何かの際には護衛の部屋に繋がっているほうが安全なのにと不思議そうに話していた。

話しを聞いて、いやそれはと思いつつも、未婚の少女に大人の秘め事を説明するのは憚れるので言葉を濁してしまった。

とにかくその抜け道がクローゼットに繋がっていたと言うことがわかった。


私も勉強になりました。以後気を付けるようにします。っと言っても明日もう一度泊まるだけだ、もう侍女部屋に泊まることはないだろう。

クラウさんはたくさん話しをして満足したのか、一つ欠伸をしてからクローゼットに消えていった。

アタシは長話に疲れきっていたが眠ることが出来ない。

いつ気が変わってクラウさんが再びやって来るか分からない。潜伏スキルなんて使ったら、やっと普通の冒険者として応じて貰えるようになったのに再び疑われかねない。蜘蛛糸警報装置のベッドがなければこんな街中では振動感知が煩くて眠れない。

アタシは今夜眠ることを諦めて明日の最終日は眠れるように、魔道具の開発をすることにした。

うまくいけば、明日以降は街中で眠ることが多くなるはずだからである。


なんとかして開発しなければならない。そんな脅迫感情に追われたまま、実験を続けた。



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