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貴族の娘の涙の理由?

女の涙は女には効かない。

それはそうだ。

いくら泣き叫んでいたところで節々に見え隠れする感情がまる見えだからだ。

泣くことによって相手の感情を揺さぶり反応を見て自分の思う最良の状況に持っていくための武器なのだ、それを熟知している同じ女には効かないのは当然である。


だが武器として使われていない、ほんとうにただ悲しくて泣いている場合は効果抜群である。


素の感情は強烈に伝播するものである。考えを読み取ろうとしてレーダーを向けすぎるとあっという間に感情だけが伝わり。

理由が分からなくとも悲しくなり一緒になって泣いてしまう。

泣くと言う感情が出てしまうと冷静でいられなくなるのはよくあることだ。

その悲しみの感情の余韻を残したまま話しを聞いてしまい。

つい道中だけの同行は了承してしまった。



悲しみの理由は単純であった。

マリッジブルーである。

何も得られないまま自由気ままな冒険生活が終わると考えていた時に

妖精に出会い冒険の糧を得ることができた。

冒険は無駄では無かったのだ、この思い出があれば私は頑張れると思った。

でも冒険は楽しい。少しでも長く続けたい。


だが、突然現れた死を暗示させる黒い炎による恐怖。

妖精さんと兵士達に助けられて生を歓喜した。

冒険を続けたいとも思うが兵士達に見つかり、武器も防具も無くした。

兵士達に探しに行ってもらう訳にはいかない。

なにせ彼らは私を結婚させるために連れ戻しにきた部隊だ。

見つけたところで隠されてしまうに違いあるまい。

もう冒険を続けることは出来ない。


そう思っていた時に妖精さんが武器と防具、更に御祝儀としてリストバンドを持ってきてくれた。

妖精さんと武器防具があればまた冒険が出来るかもしれない。

胸元で眠る妖精さんを見ていると心が落ち着き安らかな気持ちになる。

妖精さんの持つ癒しの効果なのか。

妖精さんが居てくれればなんでも乗り越えることが出来そうだ。

兵士達を振り切ることも出来るかもしれない。


私はよこしまな感情を持ってしまっていた。だがその感情に引き寄せられて来たのか、再び襲ってきた死の恐怖。

テントを突き破って現れたのは死を暗示させられた時と同じ黒い炎。

黒い炎は私の身を炎に焼くその時まで付きまとってくるのだろうか。

冒険とはこれほどに過酷で恐怖に彩られたものなのかと今更ながらに理解した。

頭上から近寄ってくる死の象徴である黒い炎から少しでも逃げるために。

身体を低くして地に伏せた。

この程度の事で逃げられる訳がない。諦めかけた時に奇跡が起こる。

妖精さんは、実は女神様であった。そしてその力により死の恐怖は再び取り払われた。

私は今回も生き残ること、生を繋ぎ止めることが出来た。

だが代償として心の癒しである妖精さんが居なくなってしまうという。

失意に打ちひしがれている時間はなく妖精さんの中身である女神は去る前に試練を残していき乗り越えられずに混乱した。

感情が揺さぶられ過ぎて何が良くて何が駄目なのか分からなくなった。

そんな感情のまま、倒れているマッキーを抱き寄せると、良い香りがした。

妖精さんの香りだ。混乱した感情の波が緩やかになりはじめた。

これは妖精さんの残り香なのだろうか。

それとも。

残り香ならば無くなってしまう瞬間まで嗅いでいたかったが、冒険者であるマッキーが目を覚ましてしまった。

あの方と言っていたが女神様の事だろう。

女神様が抜けたのなら私の妖精さんでは無いと言うことだ。

でも良い香りは続いている。離したくない。

冒険者マッキーは軽い、本当に軽い。

こんなに軽い生き物が人とは思えなかった。

初めて抱き寄せた時に、その軽さに驚き妖精さんと確信したのだが、女神様が抜けて妖精さんで無くなったと言うのに今でも軽い。

人ではなく実は身体は妖精さんであって、そこに女神様が入っていたのではないのかと考えた。

香りのお陰でだいぶ冷静になれたのでマッキーの事を兵士達に伝えることにした。

女神様が抜けたマッキーはただの冒険者。

兵士達には私の疑惑は黙っておこう。

私だけの妖精さんにしたいからだ。

武器防具は返ってきた。

後は妖精さんが返ってくればと考えて夜営地の外れ、他に人がいない場所で勧誘した。

本人が人であると言うから人ならば誰しもが望むであろう、自由気ままな安定した生活を提供するから代わりに傍らにいてほしいと望んだ。

だが返ってきたのは失望の眼差しと拒絶。

そして言われて分かった自由の意味。

なんて自分は愚かなのだろう。私は自分の考えのあさはかさに悲しくなり涙を止めることが出来なかった。


と、そう言うことだそうだ。


移動する馬車のなかで何度か話しを聞いたが、それがどういうことで、何でそうなったのかよく分からない。

まったく分からないことはないけど根っこにある貴族の考えをアタシが理解できないからなのだろう。

だから、結婚したくないわけではないが、結婚に不安を感じて揺れ動く乙女心。マリッジブルーだったのねと結論付けた。


悲しみの感情だけに流されてしまって同行してしまったが。

今のところ問題は一つしか無いので、少なくとも共通の目的地である、セントラル王国の首都までは一緒である。

だがその一つというのは大問題であった。


初めての馬車での旅は快適


とは、ほど遠い劣悪な旅であった。

馬車は常に揺れ続ける。

小石でも踏めば跳ね上がる。

クラウさんは何とも無さそうなのだが、アタシは半日も持たずに音をあげた。

クラウさんに、きつく無いのか聞いたら、きついが我慢できないほどの事ではないと、マッキーはやわだなぁとばっさり切り捨てられた。


柔らかいクッションはあるのだが、そんなものでは吸収しきれない。

車輪が小石を踏んだりわだちを乗り越えたりする時の衝撃で体重の軽さ故の災いなのかアタシは宙に浮く。そしてお尻を打つという事を繰り返していた。

お尻の試練なんてしたくなんかないのに。


因みに今はマントの下は作業着(緑)である。

何故なのかは語る必要は無いだろう。



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