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大罪の英雄  作者: 虚無人
1章『始まりの街』
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3.『お前は、何なんだ。』

目の前を支配したのは、激しい轟音と木と、瓦礫の破片だらけの世界だった。

天井が崩れたのを理解するより先に、床が崩れ落ちて、空中に投げ出された様な感覚が身体を支配した。


「―――」


喉が潰れてしまいそうな程に、声を出すが、自分の耳にすら届かない。

全てが崩れ落ちて、何もかもが終わってしまいそうだった。


「――っでぁ!」


ゴンッと、後頭部に鈍い音が響き、激しい痛みが襲ってくる。より先に、今度は瓦礫と木材の山が上から落ちてくるのが分かった。


「...て、まってぇ!」


醜く、手足をバタバタ動かして激しく抵抗するが、そんな零に、容赦無く瓦礫の山は落ちてくる。


「――ルド!」


遠くから、エルナの声がした気がした。だが、そちらに顔を向ける余裕も時間も無く、黒澤 零は瓦礫の下敷きとなった。


△▼△▼△▼△▼


「...ん」


ゴツゴツした床に顔を伏せて、零は最悪の感触味わいながら、閉じた瞳を再び開ける。


「あ、そうだ、天井が崩れて、それで...」


寝ぼけている己の脳を必死で叩き起す。

先程起こった事象を理解する事に神経を注げる。


何が起こった。どうして、部屋が崩れた?ひどい轟音が鳴り響き、その瞬間、零の視界は瞬く間に地獄へと変貌した様子だった。

エルナの瞳を映していた視界が、一瞬で瓦礫の山脈へも変化した。


「....待て、なんで、俺生きて....ん?」


状況を整理すれば、するほど、何故自分が今こうしてその状況整理に頭を費やせるのかという疑問に行き着く。

本来であれば、あの状況なら生きてる訳がない。だと言うのに、どうしてら今もこうして考え事が出来ているのか、そう思っていたら、目の前に不思議な事が起こっている事に気付く。


「...これは?」


透明な半球体が、零を瓦礫の山から守っていた。

六角形の小さな粒子が規則的に並べられ、綺麗な円状となっており、零の身体をすっぽり覆って、いや、守っていた。


「...まさか、エルナか?」


轟音の中聞こえた彼女の声、まさか、彼女があの最中零を守る為にこうしてバリアの様なモノを作り上げてくれたとでも言うのか?


「エルナ...エルナは、どこに...!」


そうと分かったら、こうしてはいられない。同じくあの状況に巻き込まれた彼女を助けなくては。


「ぉ」


バリアに触れると、直ぐに消えて、零の動きを自由にしてくれる。

本当に守る為に作り上げられた、優しさの塊だと確信。


零はいても立ってもいられず、エルナを探す為、崩れた瓦礫の山を探し回る。


「エルナ!エルナ!エルナどこに――」


「――そこまでだ。」


「――っ!」


崩れた木材と瓦礫の山の中、天井が無くなった事で差し込む青々とした快晴空で一際輝く太陽の光。

その光に照らされる形で、1人の男が零を見下す形で立っていた。


「...ルイ・レルゼン、だな?」


男は、そう言いながら、零の前まで軽やかにジャンプと着地を決める。


黒い髪を揺らして、細く鋭い目つきで睨みをきかせる。

そんな表情に似ても似つかない程、真っ白なマントが、風に揺らされている。金の紋章が左胸に掲げられ、確かな"強者"のオーラを纏う男。


「――『大罪人』ルイ・レルゼン、武器を捨て投降しろ。既に、お前は包囲されている。」


「.....はい?」


包囲?なんで?

『大罪人』?誰が?


頭が、おかしくなりそうだ。手一杯な脳に、また新たな混乱の種が舞い降りる。


「ま...って、は?どういう事だ、『大罪人』って誰が」


「お前以外に誰がいる!ルイ・レルゼン!!!!」


男の振り上げられた剣は、一瞬で零の目の前まで届く。

鋭い剣先が目玉の数ミリ先で止まっており、血の気が一瞬で引くのが分かった。


硬直して、身体が言うことを聞かない。

人体の全てが命の危機だということを感じ取り、何もかもが動こうとしない。


「.....ぁ....ぁの.......えっ...と、」


「腑抜けた声を出すな、お前の罪の被害となった者たち、そのら苦しみを味合わせるまで、お前を殺してやらない。簡単には、死なせない。」


「...」


「業火でも足りない、水埋めでも生温い、串刺しごときでは話にならない。考えうる最大の苦しみを、お前に味合わせる。」


鋭い目つきが、怖くて、向けられた剣が今か今かと目玉を突き刺さないか恐ろしくて、


こんなにも、"憎悪"を、向けられて、悲しかった。


零は必死に身体を動かし、両手を挙げる。

武器を捨てろと言われても武器など無いし、向けられた剣に歯向かう為の剣も、度胸も、理由も分からない。


だから、今は、


「...あの、ごめん...なさい........俺、実は、記憶...喪失で....何が、何だか...。」


醜く、無防備を露わにして精一杯の弁明をする。

全くもって理解が追いつかない状況だった。何が何だか意味不明だ。

それでも、きっと、真摯に、素直に釈明すれば、きっと、報われる。


今は、祈るしかない。このおかしな状況が、何か少しでも良い方向に傾く事を。今は、祈るしか。


「...見苦しいな。ルイ・レルゼン。」


「ま、って...本当なんだ!本当に、俺は何も分かんなくて!何が何だか――」


目の前の矛先が、突然姿を消して、今度は腹部に猛烈な熱が込み上げてくる。


「――ぁ?」


「それが、お前の導き出した結論か。....堕ちたな、ルイ・レルゼン。」


「ぁ、あぁ?あぁ、あぁ。」


剣が、零の腹に貫かれていた。


「ぎぃやああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


血が、溢れ出す。

真っ赤な噴水が土手っ腹から吹き上がり、空前絶後の激痛が腹部を中心に広がり始めた。


「ぐぎぁやぁああああ――」


「お前....ふざけてんのかぁ!!!」


再び、剣の矛先が暴れ回る零の背中に突き刺さる。


「――ぁ!っが、あぁ、あああああああだああああああああああああああああ」


痛い、痛い、痛い、痛い、


なんで、俺が


こんな、


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


「な、んで...こんな、こと」


掠れた声を振り絞って、捻り出した言葉は疑問の投げかけだった。


溢れる血を抑えるので精一杯で、今にも意識がどこか遠くへ飛びさそうなのは踏ん張って、疑問を投げる。


「なんでこんなことを!」


「ふざけるなぁあああ!!!!」


「――っ!」


そんな零の言葉を覆す程の、無情な怒号が、瓦礫の山の中で響き渡る。

周りを見ると、同じく白いマントを羽織った屈強な者たちが、零を取り囲むように立ち塞がっていた。


「『大罪人』の分際で、何を惚けたことを宣う!お前は、世界の災厄だ!この程度の痛み、お前の被害者の苦しみに比べれば話にならない!!!」


唾を飛ばしながら、倒れる零を見下しながらも、その瞳には確かな"憎悪"、憎しみだけは忘れていない男を見ると、"ルイ・レルゼン"への認識が変わってくる。


「――オマエは....」


「あぁ?」


「お前は....『英雄』...じゃないのか?"ルイ・レルゼン"。」


失われた記憶、そして"ルイ・レルゼン"の中身。

彼は、エルナからは『英雄』と呼ばれた男だった。

あの瞳は嘘じゃない、あの顔は、確かに愛する誰かを見つめる目だった。


なのに、何でお前は今、殺されかけてる?


「...どういうことだよ...おい..."ルイ・レルゼン"!」


「何を言ってる。」


「黙れ!お前じゃない!お前に...言ってるんじゃない!!!」


「...この、何を狂気のフリをしやがる。」


白いマントの男の澄まし顔が、零を見下しその滑稽な姿を嘲笑ってる様に感じた。

そんな、ゴミを見るような目で見るな。


「...知ら、ねぇんだよ!誰なんだよ!いきなり!お前ら寄ってたかって何なんだよ!」


「あぁ?」


「訳わかんねぇ!もっと説明しろよ!意味が分かんねぇ!理解出来ねぇ!いきなり異世界に行かされて、『英雄』だの、『大罪人』だの、"ルイ・レルゼン"だの!お前ら一体、誰の、何の話をしてやがる!!!」


「...お前...」


「俺は!『英雄』じゃない!『大罪人』でもない!"ルイ・レルゼン"でもない!俺は!黒澤 零だ!何者でもない!ただの黒澤 零なんだよ!!!!」


血を抑えながら、世界の理不尽に対して精一杯の抗議をする。

ただ、下校していただけだと言うのに、ここまでひどい扱いを受ける筋合いはどこにも無いはずなのだ。


零は、自分が間違ったとは微塵も思わない。そして、それはその通りであり、彼は別に何もおかしな事を言ってない。

彼は黒澤 零で、ルイ・レルゼンでは無い。

彼の言い分は間違いようのない正論なのだ。それでも、


「誰なんだよ..."ルイ・レルゼン"って...一体何者で、なんなんだぁ...この、意味分かんねぇ奴は...!」


「――それで?戯言は済んだか?」


それでも、"憎悪"は収まる気配が無かった。


「....どうして、分かってくれないんだ...。」


「分かるわけねぇだろ、『大罪人』の言葉なんかに、耳を傾ける奴があるか?」


「...なんで、俺が...『大罪人』なんだよ...。俺は、"ルイ・レルゼン"は...『英雄』だったんじゃないのか?」


「英雄?笑わせんな、お前は世界を脅かす最悪の勇者、『大罪人』ルイ・レルゼンだろ?」


男は冷酷な眼差しを向けたまま、低い声色で零に対してそう告げた。

瓦礫の山からゆっくりと押し寄せる人々の影が目に入り、零は再び恐怖の渦へと精神が呑まれそうになる。


「...なん、で...俺は、何も...」


「ルイ!!!!」


そんな絶望の闇を切り裂くのは、一筋の黄金色の鐘音の様な声だった。


「その人に、手を出すな!」


「...エルナ・リーベか、お前も処刑対象だ。投降をお勧めする。」


「エルナ...」


砂埃によって汚れが目立ってしまっている黒いマントだったが、相も変わらず金色の髪は美しかった。

そんなら感想、抱いてる暇などないと分かっていても、自然と目が彼女を捉えてしまうのだ。


この世界で、零を見てくれる人に。


「捕えろ!」


男が包囲している者たちに向けて、エルナの捕縛を命じた。

だが、それより先に彼女は地面を蹴り上げ猛スピードで零の元まで近付いていた。


「――っ!」


目の前に現れる、心を許せる美女によって、零は身体を持ち上げられ、一気にその現場から姿を消そうとする。


「離さないで!」


エルナの手を握りながら、彼女の腕の中に収まる。

柔らかい身体を堪能、なんて考えてる余裕は今の零にはなく、ただただ恐怖が零を汚染していた。


「エルナ...」


「死なせない!貴方だけは!」


「行かせるわけねぇだろ」


今度はエルナが地面を思いっきり蹴り上げて、開かれた空へジャンプをするが、轟音を鳴り響かせ、目の前まで現れた白マントの男。


再び鋭い剣先がコチラに向けられ、零はトラウマのように、今も尚痛む腹を抑える。


「ひっ」


「退きなさい!!!」


「死ねよ、エルナ・リーベ。」


エルナが零を抱き抱える左手の逆、右手を大きく広げ、掌から魔法陣を生み出した。


「っ!お前!その魔法は!」


「ネクロス」


エルナの詠唱と共に、零の目の前にいた男は黒と紫のレーザーによって呑み込まれ、その姿が消えて行く。


そんな、非現実的な光景を目にしても、零の目はあの男に釘付けだ。

レーザーで消えいく中、影だけがうっすらと見えており、零の心を蝕む。


「...ぁ...あぁ...」


「――絶対に!殺してやるぅ!!!!」


男の声だけが、耳に届いた。


憎しみを込めた、怨念とも言える憎悪の声が。

向けられたその感情に対して、零の応えはただ一つ。


疑問だ。そして、その疑問の先、


「...俺は......俺....お前....は、なんなんだ..."ルイ・レルゼン"....!」


精神を支配する恐怖の中、零がこぼした疑問の先は、"ルイ・レルゼン"へと向けられるモノだった。

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