1.『異世界転生』
黒澤 零は17歳の高校2年生、進路について考え、受験にいよいよ取り掛かる頃合いの年齢であり、零も受験が始まることに対して、憂鬱な日々が続いていた今日この頃。
そして、ボケーッと何の気なしに歩いていた結果
「トラックに引かれてご愁傷様、って、呆気なさすぎるにも程がある...。」
自分の最期があまりにもあっさりとした幕引きだった事に対して、更に憂鬱な気分になる。
だが、自分の最期についてそんな感想を零せるなんて、生前なら予想だにしていなかった。
「...で、ここはどこだ?」
黒澤 零は、辺りを舐め回すように見渡した。
木材が主に使用されている小さな部屋の中で、ベッドに横たわされている自分。
絶対に病室でも、自分の部屋でも無い事は確信出来るが、だとしたらここはどこだと言うのか。
「身体は...普通に動く、って、ん?あー、あー、声が...おかしいな。」
上体を起こして、自身の手を開いては閉じ、開いては閉じ、動作確認を進める。
今の所、身体の動きは正常に見える事から、トラック事故の後遺症は無い事は確認出来た。だが、一つ気になった事がある。
声が、おかしい。
「特段、自分の声なんか気にした事無かったけど、流石にこんなにイケイケボイスだった気がしない...。よく見りゃ服もなんだこれ、知らねぇ服になってる...。」
声帯に違和感を持ち、いつもより声質が良くなっている事に気付く。同時に、自分の服がダサいパーカー姿から、どこぞのファンタジーに出てきそうな服装に変化していた。
「―――」
何か、おかしな事が起こっているというのは、言うまでもなく分かってる。
零は、自身にかけられているシーツをそっとめくり、ベッドから立ち上がる。
向かう先は、先程見えた鏡の置いてある机だ。
おかしなことが起こっている、そして、そのおかしなことに対する、零の考察が当たっているのだとしたら、もし、そうだとしたら――
「――ぁ」
鏡を目にして、零は確信した。自身の考察が当たっている事に。
そこには、白髪の、全く知らない青年が映っていたのだ。
青い瞳に整った顔立ち、真っ白な髪質は男とは思えないほど綺麗な質感だった。
黒澤 零が、全く知らない誰かになっている。
そして、その契機は黒澤 零がトラックに引かれ死んだ事だった。
要するに、これは、そういう事だ――
「――異世界、転生だ。」
アニメや小説で見ていた、アレが、黒澤 零の身に起きている。
その事実を確信した瞬間、零の身体はどうしようもなく熱くなっていき、血が昇っていき、身体が反射的に興奮しているのを感じた。
「いや、いやいやいやいや!落ち着け、落ち着け!異世界転生?ありえない、ありえない!そんな現実離れした事象、あるわけないって!」
無理矢理自分を落ち着かせる為、零は興奮する自分の脳に現実的な話を持ちかける。
「どーせこれも、夢だ夢。ほら、ほっぺたつねれば――いってぇ...!」
幻想のハズの整った顔立ちの頬を、力いっぱい伸ばすが、痛みが伴うだけで、夢から覚める事はなかった。
それもそのハズ、だって、夢じゃないんだから。
「マジで、異世界...転生してる。」
決定的となった。
黒澤 零の17年間の人生はトラックに引かれて、終幕を迎え、新たな人生へ転生したのだ。
が、ここで気になる事がある。
「...異世界転生って、こんな感じだっけ?」
"異世界転生"についてだ。
「俺の知る異世界転生って、赤ん坊に生まれ変わる...もしくは、元の姿のまま異世界に飛ばされるって、感じだったのに...」
今、鏡に映るのは、知らない青年。
赤ん坊とはとても言えない年頃で、なんなら、元の黒澤 零より大人びている雰囲気さえある。
「俺は、この世界に元々生きていた"誰か"に転生した?...あ、もしかして、身体入れ替わりみたいな、そういう話も無くはない...分かんねぇ、これってホントに異世界転生で合ってんのか?」
どうやら、従来の異世界転生とは状況が違う事に、頭を悩ませる。異世界転生に従来とかあるのかはさておき。
しかし、零の身に起こってる事は、明らかに普通の異世界転生とは異なっていた。
黒澤 零の魂が、異世界人に移った。その解釈の方が、しっくりくる。
「つまり、異世界転生と言うより、魂の憑依?いやでも、異世界は異世界だよな、剣とかあるし。」
そう言い、部屋の隅にたてかけららている剣の存在に視線を移す。
零が異世界転生だと躊躇いもなく直感できたのは、最初に見えた、あの剣の存在もデカい。
現代では見られない施しのされている、ファンタジーそのものの剣だった。
「あ、獣人とか、魔物とかもいんのかな?流石にその辺の生物いたら、異世界って確信でき――」
零が、外の世界を見ようと、扉の方向に足を進めた時だった。
扉が、ゆっくりと開いたのだった。
「――ぁ」
腑抜けた声を漏らした零が見たのは、
「...あ」
「...可愛い」
金色の美しい髪を靡かせて、部屋に入ってくる美女。黒いマントを羽織っており、服装は見れなかったが、美しい顔立ちはハッキリと視認でき、零の瞳を奪う。
「え、えと...あの、その、」
女の子耐性の無い零には、この状況は荷が重い。ただでさえコミュ症だと言うのに、美女ときたら、もうお手上げだ。
聞かなきゃいけない事が山ほどあり、頭がパンクしそうになった。
だが、美女の様子が、おかしい。
「....ル.....イ...」
「...へ?」
「ルイ!!!」
「――んぶ!」
美女は、零目掛けて飛んできたのだった。
小さな身体をキャッチしつつも、胸の中で彼女が肩を揺らしながら、感情を昂らせているのがよく分かる。
一体どうして、何が、君は一体何なんだ、色々な質問が出てくるが、それより先に、彼女が言葉を放つ。
「心配...したんだから!突然居なくなって!あんな所で倒れてて!私、もう...ルイが居なくなったら...!もう!」
「...あ、あの」
「ホントに!もう、どこにも行かないで!一人になろうとしないで!私が、私だけは!貴方の隣に居続けるから!」
彼女は涙を大粒流しながら、零の胸の中でそう叫び続ける。
美女に抱きつかれれば、キョドると思っていたが、今この状況だと、そうも言ってられない。
何やら、この美女はこの、男に特別な感情を抱いている様子で、涙無しにはいられない再会シーンなのかもしれない。
「...」
そう、この美女の感情は、多分黒澤 零に向けてのものじゃない。
「...ねぇ、お願い。もう、一人にしないで。一人に、ならないで。」
「...」
「...ルイ。」
この美女の感情の矛先は、きっと、"ルイ"という男に向けられたモノなのだ。
そこに、黒澤 零はお邪魔だ。
「...えっと、」
「...ん?どうしたの?」
言わなければ、ならない。
心苦しい、悲惨な現実を、彼女に伝えなくちゃいけない。
「...その、君は...誰...なのかな?」
「.............ぇ?」
彼女の瞳から、光が消えるのがわかった。
彼女の中にあった、"ルイ"という男は、この身体の、本当の持ち主、"ルイ"は、黒澤 零によって、居なくなってしまった。
"ルイ"は、黒澤 零になってしまった。




