16.『ルイとしての覚悟』
終わる世界、始まる世界、その両方を一斉に感じた気がした。
金色の靡く髪の少女を、左手で収め、暴風の脅威から出来るだけ守るよう神経を注いだ。
皮膚の皮がひっぺ剥がされると思うくらいに、威力は盛大だった。
「――終われる訳、ねぇ。」
零の微かな言葉は、真横のエルナにすら届かず、自分自身に言いかける独り言となった。
「――終われる訳ねぇ!」
レイの言葉が胸の高鳴りと共に熱くなる。何の魔法かは知らないが、風以外にも何かが施されている。全身が焼けるように熱い。
「――終われねぇ!!!!」
ルイの言葉が、エルナの耳にも届く程、大きくなる。溢れた感情を爆発させ、新たなる物語の始まりを雄叫びと共にスタートさせる。
ルイ・レルゼンの物語が始まり、いきなり死線な訳だが、この異世界に来てからの始まりに比べれば全然マシだ。
――君が、居る。君が見てくれてる。
その事実だけで、頑張る理由は十分だ。
もう逃げず、言い訳もしない。
ここから先は正真正銘、黒澤 零改め、ルイ・レルゼンの物語なのだから。
君に信じられる、『英雄』に、ルイ・レルゼンになる為、ルイ・レルゼンの力を証明する。
ルイは右手を高く上げて、エルフがいるであろう方向に掌を広げる。
その行為に何の意味があるのかと言われると、答えられないが、ルイはその行為に意味を見つけ出そうとした。
これは、小さな抗い。
降りかかる運命、自ら導いてしまった運命、その全ての運命に丸ごと抗う、小さな英雄の抗いだ。
ルイは、開いた右手の掌に全ての神経を注げて、エルフの魔法を受け止め、抗った。
――"ルイ・レルゼン"に、魔法はあるのか?そもそも、"ルイ・レルゼン"が使えた魔法を、俺は使えるのか?これで何かが変わるのか?
何が出来るのか、何をすればいいのか、何が起こるのか、何もかもが分からない。
だって、ここは、今まで暮らしていた世界とは違う、剣と魔法の世界、異世界なのだ。
故に――
「っ!?手が熱――」
ルイの開かれた右手はから、体温からは考えられない異常温度が放たれ、迫り来る灰色の世界に一線の白い光が放たれる。
無造作にうねる白い光は目にも止まらぬ速度で風を切っていき、エルフの魔法に風穴をこじ開ける。そして、
届く。
「っ!なん――」
だ、と言う前に、エルフの視界は一瞬で白く光り輝き、無数の白く輝く光の粒子が小さな爆発反応を起こす。
その爆発が連鎖的に繋がっていき、魔法を放ったハズのエルフ本人が謎の爆発を起こすという、衝撃的な光景となった。
「...まじかよ。」
ルイの光よって放たれた白い光、その影響か、灰色の世界が一瞬にして先程同様の灰色の雲空の世界に戻る。
同じ灰色でも、青い快晴は見えなくとも、その雲が視界に入ってる時点で、ルイとエルナの世界は終わりを脱却したことが分かる。
エルフの魔法は、ルイの魔法によって、打ち砕かれた。
――ここは異世界、何が起こるか分からない。故に、黒澤 零改め、ルイ・レルゼンによる土壇場の初見魔法で、強敵エルフの魔法を打ち消す事も、有り得る世界なのだ。
濃い灰色の霧が晴れたことにより、エルナは目を丸くして驚きの表情を見せつける。
「...嘘、ルイが、やったの?」
左腕の中にいるエルナの幼気な瞳は、ルイを輝かしく映していた。
暗い世界の中で、光が差し込んだ訳では無い。
絶望的光景が白い光によって切り裂かれ、広がるのは、未だに竜巻が起こり、建物を崩壊し続け、灰色の雲空が広がる世界で、目の前でルイによって刺されたギルが倒れ、少女がルイに怯えている世界。
何一つとして状況は打開出来てない。
たった一瞬、最悪の結末を奇跡的に避けたに過ぎない光景。だと言うのに、エルナの目には光が宿り始めていた。
そして、それはルイも同様だった。
「...ありがとうエルナ。俺に、俺を信じさせてくれて。」
「私は...守られて、ばっかだなぁ...!」
エルナが目をうるうるさせて、ルイの胸の中に顔を埋める。
胸の中心で暖かい水滴の温度を感じて、ルイの魂に再び火がつく。
「守られてるのは、俺だよ。」
「ルイ...!」
エルナの小さな身体を抱きしめ、拳を決意と共に硬く握る。
――絶対に、もう間違えるなよ、ルイ・レルゼン。
この子を、泣かせるな。悲しませるな、絶望させるな、失望させるな、独りにするな。
「今度こそ、君を守り切る...エルナ!」
「...うん...うんっ!ルイ!」
「さて、決意が固まった所で...状況整理とするか!」
何度も迷走し何度も失望させる行動を取り続けたルイであったが、エルナの言葉によって気力を立て直した。
だが、これはあくまで自分で堕ちて行った分の回復であり、元々ある問題は何一つ片付いていない。
「...っひ!」
チラリと下を見やると、動かないギルとその近くでルイに怯える少女の姿。
「兄貴、今の魔法もうちょい早く出来たでしょ。腕落ちやしたか?」
上を見やると、ニヤニヤしながらこの緊張感のある状況にに使わない青年が1人。
「...っく、...ルイ....レル、ゼェェェェンッ!!!!!!」
更に上には、立ち上る白い煙の中から、腕を振るい煙を掻き分け、怒り狂ったように怒号を上げるエルフ。
「大丈夫、ルイ、私が着いてる。」
横を見やると、さっきまで、"期待を押し付ける存在"から、"期待に応えたい存在"になった少女。
そして、自分の固く握られた拳を見やると、
「行くぞ...ルイ・レルゼン!『大罪人』でも、『英雄』でも、"ルイ・レルゼン"でも、無いっ!俺は...ただの、ルイ・レルゼンでいい!」
"ルイ・レルゼン"を取り戻そうとし、"ルイ・レルゼン"になろうとし、ルイ・レルゼンになった、黒澤 零が居た。
「ここに、"ルイ・レルゼン"は居ない。黒澤 零もいない。ここに、居るのは……俺は……ルイ・レルゼンだぁぁぁぁぁッ!!!!」
ルイ・レルゼンの、雄叫びが大通りに響き渡る。
何一つ解決していないこの状況から、ルイ・レルゼンの世界が始まる。




