11.『落ちて行く――』
天が裂け、稲妻を携えた風の暴力が、シワレスの街に巨大な輪を形成する。
家々の屋根を引き剥がしていき、瓦礫を飲み込み、全てを平にする勢いで、風の暴力は止まる気配が無かった。
そんなこの世の終わりの光景を目にして、零の目は情報をインプットにするのに時間を要していた。
先程まで平然と、平和な街並みだったシワレスが、みるみる内に地獄へと化していく。
目の前の宙に浮き続けるエルフの魔法によって。
「...エ、エルフ...か?アレは!」
「嘘でしょ...!なんで、エルフが!」
「...お主を探しているようじゃぞ、ルイ。」
「まさか...そんな....俺を、見つけ出す為に、こんな...!」
荒れ狂う世界を目にして、その惨状の根源である者の狙いは、まさかの"ルイ・レルゼン"。
つまり、今まさにシワレスを破壊し続けるエルフの最終目的は"ルイ・レルゼン"を見つけ出すことにある。
「....見つかったら、どうなる...?」
当然、その疑問が頭をよぎる。
「殺されるに決まっとる。」
「...やっぱり?」
分かってはいたことだが、やはり言葉されると危機感が増幅する。
今、シワレスを襲っているエルフは、"ルイ・レルゼン"を殺そうとしているに決まってる。
何故そんな事をしようとしているのか、全く見当がつかないとは言えないのがこの身体の嫌な所。
『大罪人』と言われているんだ、神に近い存在にすら喧嘩を売っていても不思議じゃない。
「俺は...どうすれば...!」
「...止めなきゃ。」
先陣切って窓から飛び出たのは、金髪を揺らす少女、エルナだった。
彼女の瞬発的な行動に、ルイは呆気に取られ、瞬きをする間もなく、エルナがエルフへ杖を向けながら宙を舞っていくのを見届ける。
「エルナ!」
手を伸ばし、叫んだところで、エルナはもう届かない。救える可能性のあるものが目の前にあれば、迷わず救う、それが彼女の生き方なのだとこの瞬間に理解出来た。
なら、お前はらどうする?黒澤 零。
「...俺...も...行くのか?」
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荒れ狂う竜巻は、シワレスの街を引っ張り剥がしていき、大災害と言っても過言では無い被害が出ていた。
「...差し出せ、ルイ・レルゼンを。」
エルフのその言葉を耳にする者は、居なかった。全員が自分の命を守るのに必死で、それどころではなかったのだ。
街中がから叫び声が聞こえてくる。
阿鼻叫喚の大合唱が崩壊する家々の中から聞こえてくる。
そんな中、
「――待ちなさい!」
一線の、金色の声が響き渡る。
「――もう、好きにさせない。」
「...ん?きさ――」
「――喰らいなさい、人間の力。」
飛んできたエルナが背中にへばりつき、杖を突き出してくるのが背中越しに分かったエルフ。
咄嗟に体勢を整え、カウンターを狙うも、魔法出力の速さで、エルナに適うものは存在せず――
「っ!」
エルフは、シュワの時計塔に身体をめり込むこととなった。
「っ、やった!喰らった!」
「...今のは、なんの魔法...?...いえ、どうでもいい。」
エルフはめり込んだ壁に足をつけ、エルナに焦点を合わせる。
「来る...」
エルナも理解した。エルフが反撃を企んでいることを視線で理解。
防衛魔法を――
「――フェリス様、お力を。」
「な――」
空を切り、音を置き去り、エルフの右手から放たれ風の槍は、エルナの腹部を貫通した。
「....ぁ...」
解放された腹の穴から噴水のように湧き出る血液が地上に垂れ流しになり、エルナは落ちる血と共に、地上へ崩れ落ちて行く。
僅か、1分にも満たない命のやり取りだった。
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そんなやり取りを、零は飛び出ようとした窓から眺めていた。
足と手を窓口にかけ、完全に飛び出る準備万端だと言うのに、目の前でエルナがやられた。
「....ぁ」
あんなに凄い魔法を繰り広げられる少女が、あっさりと地上へ叩き落とされた。
時計塔の下から瓦礫を薙ぎ払い、空中浮遊し続けるエルフの姿がチラリと見える。
先程、エルナを一瞬で倒した、エルフ。
「...ぁ、ぁ...あぁ...!」
お前はどうする?黒澤 零。
答えは、簡単。
「お主!」
「っひ、ひぁ!っは、はっ!」
窓から離れ、尻もちを着き、醜い走りでその場から逃げ去る。
生にしがみつく為、少年は目から水滴を零し、暗い階段を下って行った。
「はっはっはっはっ!」
無理だ、無理だ、無理だ、無理だ、無理だ、無理だ、無理だ、無理だ。
あんな化け物に見つかれば確実に殺される。
エルナが一瞬で殺されたんだ。零なんて1秒も持たない。
「嫌だ...嫌だァ!嫌だあああああ!死にたくなああいいいぃ!!!!」
喉の奥から魂の叫びを吐き散らかし、長い階段を走って下る。何段も飛ばしながら降りていき、今すぐこの塔から、この街から逃げ出さなければ、命が無い。
零の身体は生命の危機を感じ取り、鼓動が早くなる。
残酷な光景を目の前にして、自分を慕ってくれていたエルナが一瞬で消えて、悲しみよりも怒りよりも、恐怖が思考を支配する。
「死ぬぅ、死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!死っ、っぁ」
足がもつれ――
「がああああああぁぁぁぁぁ――――――――」
螺旋階段を転げ落ち、醜い少年は身体を回しながら降りて行く。
ゴロゴロ――
落ちていく。
「がぁっ!だっ!がっ!ああぁっ!」
ゴンッ、ゴンッと、何度も何度も後頭部と顔面に硬いコンクールの階段の端がぶつかって顔面がボロボロになっているのではないか。
「ふぎぃ、っぐぁ、ぎいぁあああ」
頭だけではない、体も、どうなってる、どこもかしこもへし折れてはないか。
ゴロゴロ――
ゴロ...
「――ぁ」
やがて回転が終わり、1階の大広間に辿り着いていた。
「....ぁ...あぁ、いっだ...」
身体を上げようとするも、全身が激しいアザのように悲鳴をあげている。
歩くことで精一杯の状態となり、涙目になる。
「...なんで...俺が...こんなぁ...」
右腕を抑えながら、ズルズルと足を引きずり、歩いて行く。
出口へ、
出口へ。
もう、たくさんだ。こんな異世界嫌だ。
逃げてやる、もう何も知らない。
『英雄』も、『大罪人』も、『ルイ・レルゼン』も知らない。
こんな所、逃げてやる。
エルナの事も、構ってる暇はない。
俺は、俺のことでたくさんなんだ。人のことをどうこうしている場合では――
「...はぁ...はぁ..........ぁ?」
シュワの時計塔 1階の大広間において、
中心部を歩く零は床に刻まれる文字を発見する。
「...なん、だよ...これ。」
『――お前は、英雄だ。黒崎 零。』
ハッキリと、そう刻まれていた。




