敗北と未来
アイリスの3回戦敗北から数時間後。
「───魔法大会優勝、シエラ・クローネ!」
会場は熱狂の渦に包まれていた。その喧騒をアイリスは医務室から聞いていた。尊敬の気持ちこそあれど、今のアイリスの感情は悔しさがほとんどを占めていた。
(あんなに手も足も出ず負けるなんて...)
アイリスは悔しさに歯噛みした。そんなアイリスの元に、エリオット・アスターが現れた。
「君の試合、見てたよ。...君は強い。でも、クローネ君は強すぎた。相手が悪かった、と言うべきかな。」
「...アスター先生。私は、シエラさんに勝てますか?」
「.....どうだろうね。君次第かな。」
「私次第...」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私はそれから数日間、この敗北を引きずった。それでも魔法の訓練は怠らなかった。それが体に吸収されているかは別問題だったが。
私は数日間あまり中身のない生活をしていた。たった一度の敗北でも、千影への道が遠くなった気がすると挫折するには十分だった。この世界に来た時の感情を思い出してようやく前を向けたのは、4日ほど経った頃だった。
私は屋上で、彼女と会った。
「...シエラさん、ありがとうございました。」
「次はもう少し強くなったあなたと戦いたいわ。これか
頑張りなさい。」
そう言ってシエラさんは去っていく。私はその背中を見つめ、無意識に手を伸ばしていた。
「...いずれ、あなたを超えてみせる。」
私はそれから、シエラさんに勝つこと、超えることを今の目標とした。最終目標はもちろん千影だが、そのために必要なことを積んでいこう。
そのためには、1人の力じゃ無理があるかもしれない。
「アスター先生、魔法についてアドバイスを貰えませんか。」
「.....また、急だね。でも、意欲があるのはいいことだ。」
「たしか...アスター先生も私と同じで氷魔法が使えるんですよね。」
「そうだね。私なら、君に幾つか教えられることがあるかもしれない。訓練場へ行こうか。」
私と先生は訓練場へと向かう。アスター先生が私と同じで氷魔法使いだと言うことは知っていた。けれど、その戦い方は知らない。
「君の戦いを見る限り、氷を武器として扱うことに特化しているようだけど、氷はそれだけじゃない。」
「...例えば?」
アスター先生はその場で飛んで見せた。着地する先に氷を生成し、どんどん高く登っていく。やがて天井に触れると、そのまま降りてきた。
「このように足場として使ったりしてね。氷は武器だけじゃない。環境そのものを変える力なんだ。」
環境そのものを変える力、か。私は手っ取り早く戦闘を片付けることに囚われすぎていたのかも知れない。
「...ありがとうございました。」
「うん、これから頑張るといい。」
次のチャンスは、半年後の王都総合演習。優秀な成績を収めれば、王への謁見もできる可能性がある。現王、セレネ・センテリアは基本的に表には出てこない。そのため、顔すらよく知られていない。まあ、私にはどうでもいい。隙を見て、書庫に入れればそれでいい。
シエラさんに追いつく努力もしながら、総合演習で好成績を収めて王城に入る。その二つを並行して行おう。
さて、次だ。次のチャンスをこの手に掴むため、努力は怠れない。
もう敗北には屈しない。私は、千影のために何もかも捨てると誓っているのだから。




