ネメシア秘境
「レイ。白骸の狙いについて、君に話そう。」
2人きりになった時、突然ナターシャはそれを告げた。白骸、何故その集団と戦争状態にあるのか、明確な理由をレイは確かにまだ知らなかった。
「奴らの狙いはネメシア秘境、と呼ばれる場所だ。戦線に立った時、砂漠は見たか?」
「うん、見たよ。」
「秘境は砂漠にある。砂漠の地中、どちらかと言えば天穹寄りの場所にな。」
「その秘境が、白骸の狙いなの?」
「そうだ。奴らが求めているのは秘境の最奥にあるとされる遺物、【天啓の碑】だ。」
「天啓の碑.....どういう物なの?」
「天穹に語り継がれる伝承に寄ると、持った者が最も知りたい物事の答えを示すとされている。最も、誰も秘境の最奥まで辿り着けていない。そのためこれはあくまで推測に過ぎないんだ。」
「誰も辿り着けていない.....?さっき場所は割れてるみたいな話をしてたよね?」
「場所は分かる。だが秘境の内部には試練が存在するんだ。」
「試練.....」
「ああ。何人もの兵士が天穹の為に試練に挑み、戻ってこなかった。」
「それがあったから今は放置されてる.....そういう事?」
「放置というのは違うな。今でも数名は秘境に抜擢される。そして───私達が、そうだ。」
「えっ───」
レイは先程信用が薄いと言われたばかりだ。そんな人間に普通、戦争の勝敗に関わる秘境へ立ち入らせるだろうか?仮に彼女が試練に打ち勝ち、天啓の碑を手に入れたら?
「.....私が遺物を持ち逃げする可能性は考えてないの?」
「何を言う。それを防ぐための私だ。」
「あぁ.....そういう事ね。それに、最悪私程度なら死んでもそこまで損失にならないしね。」
「そこまでは言っていないが.....とにかく、秘境に向かうぞ。」
2人は再び砂漠へと向かった。未だに激しい戦闘音が響いてくる。
「少し戦場を通らなければいけない。媒体は持っているな。」
「うん。いつでも行ける。」
「よし───行くぞ!」
2人は駆け出す。周りの兵士がナターシャを見て援護にまわる。銃弾、魔術───様々なものが飛び交う中を2人は駆け抜けていく。
しかし、秘境に向かうことを勘づいた白骸の兵士が押し寄せる。対する天穹の兵士は全員手一杯。
「私達もやるぞ!」
「了解.....!」
レイが刀を抜き、振り抜く。雷鳴が轟き、白骸の兵士を感電させていく。それでも兵士は大量に押し寄せる。やがて天穹の兵士も彼女らの援護に来た。
「───あれ?」
レイの動きが止まる。そして辺りを見回す。
───見覚えがある。この景色、この場所。どこかで見た。彼女は頭を抑え、ぎゅっと目を閉じる。
どこだ、どこで見た。
「おい、来るぞ!」
ナターシャの言葉で我に返り、レイは敵に刀を振るう。無心で、命を奪っているという現実を受け入れるのを拒否するように。
やがて敵は一掃された。周りは死んだ兵士や負傷した兵士で溢れている。
そして、彼女は思い出した。この、景色は───
「伏せて!!」
レイがナターシャの頭を掴んで下げると同時に、近くの崩れた建物から銃声が響く。放たれた銃弾は、数秒前までレイの頭があった位置を正確に射抜いた。
「うおおおぉっ!!」
レイの横にいた兵士が魔術で狙撃し、潜んでいた白骸の兵士は倒された。彼女は掴んでいたナターシャの頭から手を離した。
「ごめん、乱暴に.....大丈夫?」
「大丈夫だ、むしろお礼を言おう。よく気づいたな。」
「.....うん、偶然見えてね.....」
彼女が少し前から感じていた疑問は確信に変わる。この景色は、見たことがある。
───兵士を一掃したと思えば狙撃手に頭を撃ち抜かれて死ぬ。昨日戦場に立った時、唐突に頭に流れ込んできた景色と完全に一致している。
「どうしてあの景色通りに.....」
その問いの答えにはたどり着けない。今の状況は未知なことが多すぎる。この問いは後回しだ。
「秘境に向かおう、ナターシャ。」
「ああ。着いてこい。」
2人はやがて、古びた建物にたどり着く。苔が生え、植物の生い茂った場所だ。まさに古代の遺跡と言える。
「これがネメシア秘境。天啓の碑が眠っているとされる場所だ。」
「ここで、試練に挑むんだね?」
「ああ。だが、受けるのは君だけだ。」
「え?ナターシャは受けないの?」
「同時に受けられるのは1人まで。私は君が試練を突破し、逃走するのを防ぐ役割だ。」
「.....なるほど。やっぱり私は捨て駒ってことね。」
「.....だから、そこまでは言って───」
「───いいの。あなたが思ってなくても、他の人はそうだろうし。じゃあ行くよ。」
「生きて、戻ってきてくれ。」
レイはその言葉には答えずに秘境に足を踏み入れる。いつ試練が始まるかと身構えたが、何も起こらない。とりあえず彼女は道なりに進む。階段を降り、道を抜けていく。やがて開けた場所に出た。
《汝に不死の加護を与えん。》
「.....っ!?」
不意にその声が響き、彼女は振り向く。しかし誰もいない。代わりに彼女の体に光が入り込む。
「不死の加護.....?なんで、それなら今までの人も...?」
不死の加護があれば秘境から出てこられるはず。もしかすると、この先に秘境から出ることを妨げる何かがあるかもしれない。警戒しながら彼女は歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
秘境の外、ナターシャはレイを見送った後で兵士を呼んだ。彼女の魔術はあまり一人で戦うのには向かない。それにレイにも警戒心がない訳では無い。護衛の役割を果たす兵士だ。
「ナターシャ様。お呼びでしょうか。」
「私の護衛を頼みたい。なんせ私の魔術は1人で戦う時には適さないのでな。」
「はっ。了解致しました。」
数名の兵士が護衛を始めたのを確認すると、彼女は秘境の入口の前に座った。彼女はレイの足音を聞き逃さないように注意しつつ、兵士の動向も確認していた。
「───ッ!ナターシャ様!!」
その瞬間、兵士の1人の首が飛んだ。血が吹き出し、胴体はその場に崩れ落ちる。同時に何者かが着地し、砂埃が舞う。
「───うぇぇ.....まだこんなにいるの.....?」
場違いな、気怠げな声が響く。しかしその体から滲み出る魔力は余りにも強大だ。砂埃が晴れていく。そこに立っていたのは、髪はボサボサ、手には短刀を握った女。
「.....どーも。《白骸》第二位、シオン・ヴァイスでーす。」
「白骸......!総員戦闘準備!」
彼女の言葉に、即座に兵士が構える。対するシオンは欠伸をし、呑気に立っている。
「我が主、執行者様の申し付け通りに.....あなたたちを殺しまーす.....」




