天秤
学園に入学することを決め、早くも入学試験の日がやって来た。魔法に関する知識は小さい頃から母が教えてくれたお陰で筆記試験は楽に突破できた。問題は、次の実技試験だ。
私は生まれてこの方、魔法をろくに扱ってこなかった。氷の魔法が宿っており、今も氷を出したり飛ばしたりすることは出来るが、他の者がどの程度の実力者なのか分からない。私は何か一つでも起死回生の一手を用意するため、実技試験までの数日間を修行に費やした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
実技試験は1対1、在校生と相手をする。その中で魔法の扱い、応用などを評価される。だが、在校生の振り分けはランダムであり、相性の良し悪しは運で決まる。まずはその関門を突破しなければ。上位成績者が相手になることは無いが、私と相性の悪い魔法が出てくると厄介だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
実技試験当日、私は試験官数名に囲まれ、対戦相手を待っていた。
「やあ、すまないね。少し遅れてしまって。僕はレオン・グレイスだ。」
「...アイリス・ノアです。」
「まずは僕の魔法を説明しておこう。僕のは説明しないとアンフェアだからね。僕の魔法は、賭命魔法。お互いに自分のもの...金貨でもなんでもいい。大切なものを賭けたほうの魔法が強化される。でも、負けたら失うから気をつけることだね。」
「ご丁寧にどうもありがとう。あなたの魔法はよく分かった。私も、氷を扱うとだけは伝えておく。」
「氷ね。うん、君によく似合っている。それじゃあ、始めようか。」
「───賭博開始。」
その声と共に、私とレオンの間に天秤のようなものが出現する。何を賭けるべきか。まずはそこそこのものを賭けて彼の実力を探るべきだろうか。
「そうだね...僕は金貨100枚だ。」
「なら私は、金貨120枚。」
天秤が私の方向に傾いた。私の身体が軽くなるのを感じる。そして悟る。レオンはわざと私に勝たせたのだ。金貨なんて価値の分かりやすいもの、多く賭けた方が当然勝てる。だからこそ、レオンは私の実力を測りに来ている。
「──《氷獄》。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ノアの手に氷で生成された刀が握られる。レオンはそれを見つめ、すぐさまノアの間合いの内側へと入り込む。彼女はそれをなんとか交わし、切り込む。しかしレオンは早く、正確にそれを避けて見せた。
「っ...早い、でもこれはどう?」
ノアを中心とし、氷の杭が地面から出現する。流石のレオンも足場を封じられ、ノアの作戦通り上へ飛んだ。
「──はぁっ!」
ノアの一撃がレオンの頬を掠める。血が滲む傷を見ながらレオンはまだ地面から出ている杭を破壊して着地した。
「かなりやるね。なら、第2セットだ。僕は右腕を賭けよう。」
試験官が少しざわつく。まさか新入生相手に腕を賭けるとは思いもよらないことだったのだろう。
「さあ、君は何を賭ける?」
「私は...自分の最大魔力、その半分。」
「なるほど...これは僕にも分からないな、どっちだろうか?」
天秤が揺れ動く。ノアにもレオンにも結果は分からない。やがて少しづつ、傾き始めた。結果───
天秤は、レオンの方へと傾いた。
「残念、僕の勝ちだ。」
ノアを強化していた力が抜け、ノアは一瞬ふらついた。その隙を見逃さず、レオンがノアの腹に一撃を叩き込む。そして、間髪入れずにもう一撃。
「ッあ...!」
ノアはその場に倒れ、それでもなんとか立ち上がった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
かなりまずい。このままでは私は負ける。先程までの勝機は、彼の魔法によってもたらされたはりぼてだ。所詮、私は他人に頼らなければ勝てないのか。
...そんなことは許されない。千影と再開すると決めたのに、こんなところで止まっていてどうする。そうだ、千影ともう一度会うために───私は全てを捨てられると決めたはずだ。
「...レオン。次、私は命を賭ける。」




