頭の中の景色
天穹の端に行くにつれ、激しい音が響いてきた。爆音や、魔術を使う音。そして、彼女は1つの事実に気づく。
「.....押されてる.....」
天穹の端の建物は壊滅し、炎が上がっている。国の中心部にはあまり分からなかったが、白骸はかなりこちら側へ攻めてきているようだ。やがて、広大な砂漠が見えてきた。あちこちに、崩れた建物が見える。
2人は戦線に辿り着く。そこは、惨状としか言いようがなかった。あちこちに死体が転がっている。洗車の爆撃に巻き込まれたか、1部しか残っていないものまである。
彼女はそれを見て、どこか車に轢かれた人間を連想してしまった。少し顔色が悪くなり、彼女は目を逸らした。
「どうした、大丈夫か?」
「ああ.....うん、大丈夫.....」
ユーマが横から話しかけてくる。彼女は1度深呼吸し、自身を落ち着かせた。
「.....ごめん、もう大丈夫。それで、私はなにをすればいい?」
「あんたは俺がサポートするから、前線に出てくれないか。他の兵士達には味方だと伝えてある。」
「わかった。」
彼女は媒体の刀を抜く。まだ使い始めたばかりで少し不安だが、これがなければ戦えないのもまた事実である。
「じゃあ、援護は任せるよ。」
「ああ。任せてくれ。」
彼女は雷を宿す。これもまた新しい魔術で使いこなせるかは分からない。それでも彼女は駆け出した。雷を纏い、加速する。
「.....思っていたより、使い易い。」
彼女はぽつりと呟いた。そしてそのまま敵を蹴散らしていく。人間相手なら彼女は十分戦える。しかし、戦車らが出てくればどうだろうか。その漠然とした不安だけは、消えなかった。
───と、その瞬間。彼女の頭に、激痛が走る。
「うっ.....!?」
そのままその場に膝を着く。そして、彼女の頭の中に映像が流れ込んできた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アイリスや味方の兵士が並んでいる。全員が見据えるその先から敵が押し寄せ、彼女は無心でそれを切り刻む。
返り血が彼女を赤く染めていく。やがて敵が全て居なくなる。周りには負傷した兵士や無傷の兵士、命を落とした兵士が散らばっている。
と、その時。近くの崩れた建物の上に、光が反射した。その場所を彼女がばっと振り向いた、その瞬間。
銃声が響く。彼女の頭が、撃ち抜かれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「っ!?」
唐突に流れ込んだその景色に、彼女は困惑する。すると、ユーマが駆け込んだ。
「どうした、大丈夫か!?」
「......今、私.....何を....」
「急に頭を抑えて苦しみ出したんだ。.....おい、この場は任せるぞ!」
「了解!」
辺りの兵士が返事をする。彼は彼女を抱えあげ、その場を離脱した。
「1度医療兵に診てもらった方がいい。」
彼女の脳内は、あの映像でいっぱいだった。自分が頭を撃ち抜かれる映像。あれは、どういう意味か。彼女の顔色は悪く、まだ少し残る頭痛に顔を歪めていた。
やがて、1つの建物の中に入っていった。
「どうしたの、大丈夫?」
「ああ、急に苦しみ出したんだ。診てくれ。」
「了解。そこ寝かせといて。」
マスクを付けたその女性は、手袋をはめてアイリスの側へと寄った。
「私はロザ。医療兵よ。今解析魔術と、治癒魔術をかけるわね。」
アイリスの額に触れたロザは、アイリスの頭を読み取る。彼女は解析を進めるにつれ、不思議そうな顔をした。
「.....どこにも異常はなしね。」
「そんなはずないだろう。人が急に苦しみ出すなんておかしくないか?」
彼女の頭に流れ込んだ景色の話を彼女はしなかった。なんとなく、言うべきではないと思ったから。
「なら、もうそんなに痛くないし.....大丈夫。」
「ダメよ、少し休んでいきなさい。」
「俺は戦線に戻る。あんたも、休んでから来てくれ。」
ユーマはもたれていた壁から離れると、建物を出て行く。残されたアイリスは、しばしの間目を閉じていた。
「.....にが起きてるの!?説明して!!」
周りの喧騒で、彼女は目を覚ました。ぼんやりとした体を起こし、周りを確認する。すると、大勢の負傷兵が運ばれてきていた。
「どうして急にこんなに!?何かあったの!?」
ロザが困惑したように、1人の兵士に詰め寄っている。その兵士は比較的傷も浅く、まだ話せる余力があった。
「それが.....敵の統治者と思われる者が出てきて.....」
「.....まさか.....!」
ロザより先に、アイリスが反応した。彼女はすぐさま刀を握り、ベッドを降りる。
「ちょっと、まだ寝ていなさい.....!」
「そんなこと言ってる場合じゃない!行かないと!」
「待ちなさ.....ああ、もう!とりあえず負傷者を中に運んで!」
その喧騒を背後に、彼女は戦線へと走り出す。敵の統治者、それが事実なら。
この先に、代理人がいる。




