保持者暗殺事件
「なっ.....代理人!?」
アイリスはユーマに掴みかかる。
「本当に!?間違いない!?」
「あ、ああ.....急にどうした.....?」
「.....あ、ごめん。取り乱した.....」
彼女はユーマから手を離し、1度深呼吸する。代理人が敵にいるという事実は、厄介だと同時にチャンスでもあった。
「私がここに来た理由は、そいつを殺すため。」
「代理人を知っているのか.....!?」
「.....知ってるって言っても、正体とかは全く知らないよ。」
「.....まあ、そうだよな。だが助かった。共通の敵なら、協力し合えるしな。」
「そうだね。」
「そういえば忘れていたが、君の武器は?媒体は様々な様式があるんだ。」
「.....刀はある?」
「あるぞ。じゃあ刀だな。ここで待っていてくれ。貰ってくる。」
「うん。ありがとう。」
彼女らは1層大きな建物の前で足を止めた。彼曰く、媒体の譲渡を行っているらしい。工房で作られた媒体は、魔力を流し込む為の器となってここに送られるのだ。彼女は空を見あげ、先程の戦闘機を思い返した。
(あの戦闘機......第一世界で見るようなものにそっくりだった.....見た感じ白骸側からのものだったし.....代理人の記憶で作られたもの.....?)
そんな考え事をしているうちに、彼が戻ってきた。その手には鞘に収まった刀が握られている。
「これでいいか?」
「うん、助かるよ。」
彼女はそれを受け取り、鞘から抜く。光を受けた刀身は美しく、綺麗に磨がれていた。彼女が氷で作り出すものとは全く違う、鋭い切っ先だった。
「これに魔力を込めればいいの?」
「ああ。そうすれば媒体を通して魔術が使える。」
彼女は言われた通り、魔力を流す。幸い、第二世界と同じようにすんなり魔力の制御ができた。刀身が彼女の魔力を受け、馴染んでいく。やがて彼女が振るうと、第二世界のように氷が───
「.....え。」
氷ではなかった。彼女が振るった瞬間、稲妻が迸る。雷鳴に近い音を響かせ、目の前に電撃が走った。
「雷か。いい魔術だな。」
「えっ.....?私、氷使いのはずなんだけど.....」
「氷?ああ、保持者だから前の記憶があるのか。俺にはよく分からないが、世界が変わって魔術も変わったんじゃないか?」
「何それ.....まあ、よく分からないけど馴染んでるからいいよ。」
「よし、これで魔術も使えるようになったわけだし、本格的に戦争に参加してくれるか?」
「うん。代理人は私の目的だから。」
2人はそのまま歩き出す。彼が先導し、戦線へと向かっていく。その道中、彼が足を止めた。
「.....これは話すか迷ったんだが。」
彼女はその言葉に彼を見る。彼は振り返り、2人は目線を合わせる。しばしの間沈黙が流れる。
「あんたが保持者な以上、話すべきだと思う。結論から言えば、もうこの世界に保持者はあんたしかいない。」
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保持者暗殺事件───それは、今から2年前の出来事。政府に協力し、第二世界などの解析、研究を進めていた保持者達が、1夜にして惨殺された。その者達は皆、同じ研究室の中で息絶えていた。政府はセキュリティシステムなどの履歴から犯人を割り出そうと奮闘する。
結果として、犯人として判明したのが《代理人》である。代理人という名称は最初から付けられていた訳ではなく、犯人が割り出されてからしばらくは仮称で適当な名前が付けられていた。
しかし、半年前に第3次天穹戦争が勃発すると、白骸の統治者が事件の犯人と同一人物だと判明し、戦争中に1度、その人物が自ら代理人と名乗ったことで付けられた名前である。
以降、天穹は代理人の殺害、白骸の殲滅を第1目標とし、戦争に国家を総動員して戦火を広げている。
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「───という訳だ。」
「なるほどね.....なんで、私にそれを話したの?」
「あんたが保持者である以上、命を狙われる可能性が高かった。だがあんたは代理人と戦うことを望んでいる。ならせめて、代理人の立ち位置くらいは教えておこうと思ってな。その為に、事件の説明がいると思った。」
「別に私は、そんなことで怖気付いたりしない。ただあいつを殺せれば、それでいい。」
「.....そうか。助かるよ。」
再び彼らは歩き始める。もうどちらも口を開かない。ただ、静寂を破るように激しい交戦の音が聞こえてくる。間もなく、戦争の最前線に到着する。
「.....着いた。ここだ。」
彼女は状況を確認し、目を細めた。白骸側は重機を主にして戦い、天穹側は魔術を主にして戦っている。彼女がよく知る戦闘機と道の魔術がぶつかる光景は、どこか空想じみていた。
「よし、俺たちも行くぞ。」
「.....うん。」
2人は戦線へと降り立った。




