天穹戦争
アイリスはしばらくの間、その世界を眺めていた。文明の発達したこの世界は、どこか空想染みて馴染まなかった。
しかし、それに浸る間もなく、爆音が轟く。熱風が吹き付けた。
「なに.....爆発.....!?」
彼女が風から身を守っていると、辺り一帯に影が落ちた。彼女は空を見上げて驚愕に目を見開く。
「戦闘機.....!?」
それに続き、ヘリコプターのようなものも飛んでくる。その乗組員が、彼女を補足した。手には狙撃銃が握られている。
「.....っ!」
彼女は撃たれることを察知し、氷の壁で防ごうとした。魔力が迸る。だが───
「......!?出ない───」
出ない。確実に魔力は体を流れている。それなのに、彼女の手からは何も出ない。
「なんで.....世界が変わったから.....?」
そんな事を言っている暇はなかった。彼女の頭上で銃声が響く。そのまま、彼女の頭へ向けて一直線に殺到する。もう、避けられない。このまま、何も出来ずにまた死ぬ───
「伏せろ!!」
その言葉は、彼女の背後から響いた。彼女は弾かれたように伏せる。すると、防壁が彼女を覆った。銃弾はそれに着弾し、彼女に当たることはなかった。
「あんた、大丈夫か。」
「.....ええ。ありがとう。」
彼女は護られたその男を見る。スーツをよく着こなした、若い男性。彼女を護った壁は、彼の持っていた一丁の銃に吸われて消えた。
「.....あなたは?」
「俺はユーマ・クロイス。あんたは、いつここに来たんだ?」
「私はアイリス・ノア。今来たばかりで、状況を教えて欲しいんだけど。」
「分かった。さっきの戦闘機も去ったようだし、街が気がかりだが説明をしておこう。」
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大国・天穹。それは情報化が進んだ、言わば未来都市である。人々は安泰な暮らしを確立し、平穏な日々を送り続けた。
しかし、今からおよそ60年前。突如として、天穹を敵視する、隣国の集団「白骸」が現れた。その者達は天穹を攻撃し、攻め込んだ。それは大規模な戦争となり、結果として天穹はそれを退けるが、白骸は健在であり対立は止んでいない。
隣国、蒼環は天穹にこそ及ばないが、文明の発達した大国である。その国は長年天穹と不可侵を貫いていたが、突如として侵攻を開始したという。
1度目の対立から40年が経った頃。2代目の統治を受けた白骸は、再び天穹を攻撃。攻撃に備えていたにも関わらず、天穹は大打撃を受ける。しかしながら天穹の設備は白骸をまたも退けるに至った。
そして半年前。3度目となる侵攻が開始された。「第3次天穹戦争」と呼ばれるようになったその戦争は、戦闘機やヘリコプター、戦車などが総動員されて今なお戦火を広げつつある。
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「───これが、現在の状況だ。」
「.....なるほど。よく分かった。」
「それはそうとして.....君は保持者か?」
「保持者?」
「前世の記憶を持つ者のことだ。」
「.....!」
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天穹では、命が生まれ落ちる時、母親の体内を介して───などではない。ただ、皆気づいたらそこに存在しているのだ。それがこの世界では常識である。しかし、その中にしばしば前世の記憶を持つというものがいる。
最初こそ相手にされなかったが、数が増えるにつれ、皆同じことばかり言うことが分かった。第一世界、第二世界の存在。天穹はその記憶を持つ者を「保持者」と呼び、長年その世界を突き止めようとしてきた。
その研究は未だ実っていない。天穹戦争により、その研究も止まっているのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「.....そうだね。持ってるよ。」
嘘をつくような事でもない。彼女は素直に答える。ユーマはその返答を受けて考え込む。
「.....そうか。いや、それよりあんたはこの戦争に力を貸してくれる気はないか?」
「.....私には目的がある。けど、この状況じゃ戦争を先に片付けた方がいいかもね。」
「なら、協力を頼みたい。俺も、戦争に動員されているんだ。」
「.....そうだ、さっき魔法みたいなの使ったよね?あれは?」
「ん?魔術のことか?」
魔術と魔法。彼女にはその違いがイマイチ分からなかったが、魔法が使えなかったのを考えれば、魔力という根本は同じだが別物なのだろう。
「そう。私、さっき前世の記憶の通りに使おうとしたんだけど、使えなくて.....」
「ああ、それは媒体が無いからだな。この世界で魔術を使えるのは、媒体という武器に魔力を流した時だけだ。」
「.....なるほど。じゃあ、その媒体を手に入れないと私は無力って事ね。」
「あんたが協力してくれるなら、今から媒体を受け取りに行こう。無償で支給してくれる。」
「分かった。これからよろしく。」
彼女とユーマは握手をし、歩き始めた。先程、戦闘機によって攻撃された建物の火は、既に収まっている。流石といっところだろう。
「.....そういえば、白骸の主力メンバーに目星は着いてる?」
「ああ。白骸を統治している、3代目の親玉は───」
「代理人と呼ばれる、正体不明の人間だ。」




