絶対に
鮮血が、舞う。シエラは袈裟斬りにされ、その場に倒れた。
「シエラさぁぁぁぁん!!!」
アイリスの声が響くも、もうシエラの体が動くことはなかった。その様子に気づき、群衆が悲鳴をあげる。そんなことを気にせず、代理人はルビーの元へ戻る。
「なっ、何を.....!貴様.....!」
「何の話だ。ただ、処刑の邪魔をする奴を消しただけだ。」
「場所を教えろとは言ったが、殺せとは言っていないぞ.....!貴様も犯罪者だ.....!」
「.....そうか。それは困るな。」
「何をふざけたことを言って───」
「なら、貴様も死ぬがいい。」
その言葉が落ちた瞬間、場の空気が凍った。そして、代理人が目で追えない速さでルビーを斬った。ルビーの腕が飛ぶ。アイリスが見ていた幻想ではなく、本当にルビーの腕は飛んだ。
「がッ.....!」
「お前、何をしている!」
警備が駆けつける。群衆も避難誘導に従って散っていく。群衆は代理人はルビーへ歩み寄ると、もう片方の腕も落とした。
「安心しろ。そこの死刑囚は、すぐに殺してやる。」
「き、さまぁッ...!ふざけたことを───」
最後まで、その言葉が綴られることは無かった。代理人の刀がルビーの首を刎ねる。再び鮮血が舞い、代理人のローブが血に染まる。
「ルビー様!!」
護衛が代理人に向かって魔法を打つも、簡単によけられる。つかつかと歩み寄り、1人、また1人と切り刻む。その様子は、アイリスが兵士を殺していた時とよく似ている。彼女はそれを見ることしか出来ない。千影を、シエラを殺したこいつの残虐を、眺めることしか出来ない。
「.....っ.....あんた、何がしたいんだ...!!」
「.....答える道理はない。お前の命はもう終わりだ。」
「ふざけるな.....!千影も、シエラさんも殺して.....!私の大切な人ばかりを!!」
「喚くな。むしろここまで少し延命してやったことを感謝しろ。」
そこで、アイリスは気づいた。シエラが死んだなら、自分を助けていた魔法も解けるはず。しかし彼女はまだ生きている。つまり、代理人が一時的にシエラの真似事をして彼女の首が絞められるのを防いでいたのだ。そして、もう終わりだと告げた。ならば───
「舐めたことを.....ぐっ、あ.....!?」
彼女の体が宙に浮いた。ロープが首を締め付け、彼女の呼吸は止められる。代理人はそれをただ見ている。
苦しい、痛い、怖い───様々な感情がアイリスを巡る。しかし、彼女の奥底にあるのは恨みだった。目の前の、こいつが。千影や、シエラまでも殺した。意識が薄れていく中、ただひたすらに代理人を睨む。
「.....ぜ、ったい.....」
彼女の口から、掠れた声が漏れる。首が圧迫され、また体が酸素を求める。あの時と同じこの感覚を、体が全力で拒否する。死がすぐそこまで迫る恐怖を、代理人への恨みが上回る。その決意を、心の底から叫ぶ。
「.....絶対に.....お前を、殺してやる...!」
代理人はその言葉を聞こえなかったかのように歩き出す。アイリスの目が閉じ始めた。死が手を伸ばす。アイリスの意識を奪おうと。最期のその瞬間まで、アイリスは代理人を睨み続けた。
そして、アイリスの視界はブラックアウトした。




