レイ
彼女は地面に倒れていた。扉に入ったは良いが、身体が耐えられずに意識を飛ばしていたのだ。目を覚ますと、そこはどこかの森の中のようだった。
彼女は立ち上がると、光が見える方へ歩き出した。やがて建物が見え始める。開けて場所に出て、彼女は驚愕した。
「.....なに、これ.....」
彼女も、分かってはいた。第二世界、それは今まで彼女がいた世界で言う「異世界」なのだと。それでも今、目の前に広がるファンタジーに目を奪われた。
アイリスはしばらくの間、その世界を眺めていた。今までと全く違うその世界は、彼女の脳に現実だと信じさせなかった。
しかし、それに浸る間もなく、爆音が轟く。熱風が吹き付けた。
「なに.....爆発.....!?」
彼女が風から身を守っていると、辺り一帯に影が落ちた。彼女は空を見上げて驚愕に目を見開く。
「戦闘機.....!?」
それに続き、ヘリコプターのようなものも飛んでくる。その乗組員が、彼女を補足した。手には狙撃銃が握られている。
「.....っ!」
彼女は撃たれることを察知した。だが防ぎようがない。
「っ、何か防ぐ手段は───」
そんな事を言っている暇はなかった。彼女の頭上で銃声が響く。そのまま、彼女の頭へ向けて一直線に殺到する。もう、避けられない。こんなすぐに、千影と会うと意気込んでおいて、何も出来ずに死ぬ───
「伏せろ!!」
その言葉は、彼女の背後から響いた。彼女は弾かれたように伏せる。すると、防壁が彼女を覆った。銃弾はそれに着弾し、彼女に当たることはなかった。
「あんた、大丈夫か。」
「.....あ......っ、うん。ありがとう。」
彼女は護られたその男を見る。スーツをよく着こなした、若い男性。彼女を護った壁は、彼の持っていた一丁の銃に吸われて消えた。
「.....あなたは?」
「俺はユーマ・クロイス。あんたは......見ない顔だな?」
「あ、うん。今第一世界から来たところ。」
「.....ん?第一世界とは、なんの事だ?」
「えっ......!?」
彼女の瞳が驚愕に見開かれた。第一世界という概念を知らない。それは、早くも発生したトラブルだ。管理人はそんなこと言っていなかった。
「まさか.....保持者なのか、君は?」
「保持者?」
「前世の記憶を持つ者のことだ。」
「.....!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
この世界には、稀に前世の記憶───第一世界の存在を知るという者が現れる。
最初こそ相手にされなかったが、数が増えるにつれ、皆同じことばかり言うことが分かった。第一世界、第二世界の存在。ここではその記憶を持つ者を「保持者」と呼び、長年その世界を突き止めようとしてきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「......そう。私は覚えてる。全部。」
「そうか、分かった。さっきの戦闘機も去ったようだし、街が気がかりだがここについて説明をしておこう。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
大国・天穹。それは1人の王に統治される国。この国の発展は早く、周りの国と少しづつ力の差を付けていった。
しかし、今からおよそ60年前。突如として、天穹を敵視する、隣国の集団「白骸」が現れた。その者達は天穹を攻撃し、攻め込んだ。それは大規模な戦争となり、結果として天穹はそれを退けるが、白骸は健在であり対立は止んでいない。
隣国、蒼環は天穹にこそ及ばないが、文明の発達した大国である。その国は長年天穹と不可侵を貫いていたが、突如として侵攻を開始したという。
1度目の対立から40年が経った頃。2代目の統治を受けた白骸は、再び天穹を攻撃。攻撃に備えていたにも関わらず、天穹は大打撃を受ける。しかしながら天穹の設備は白骸をまたも退けるに至った。
そして半年前。3度目となる侵攻が開始された。「第3次天穹戦争」と呼ばれるようになったその戦争は、戦闘機やヘリコプター、戦車などが総動員されて今なお戦火を広げつつある。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「───これが、現在の状況だ。」
「.....なるほど。よく分かった。」
「.....あんたはこの戦争に力を貸してくれる気はないか?」
「.....私には目的がある。けど、この状況じゃ戦争を先に片付けた方がいいかもね。」
「なら、協力を頼みたい。俺も、戦争に動員されているんだ。」
「.....そうだ、さっき魔法みたいなの使ったよね?あれは?」
「ん?魔術のことか?」
魔術。異世界物ではよくある展開だ。彼女は自分の手を見つめる。しかし今までと違う雰囲気はない。
「......全然感じないけど。」
「ああ、それは媒体が無いからだな。この世界で魔術を使えるのは、媒体という武器に魔力を流した時だけだ。」
「.....なるほど。じゃあ、その媒体を手に入れないと私は無力って事ね。」
「ああ。それと、魔術の扱いに関しては安心しろ。媒体が、あんたに戦い方を教えてくれる。」
「あんたが協力してくれるなら、今から媒体を受け取りに行こう。無償で支給してくれる。」
「分かった。私は.....えっと......レイ。よろしく。」
レイ、咄嗟にそう名乗った。この世界の名付けの基準はよく分からないがとりあえずこれでいい。
彼女とユーマは握手をし、歩き始めた。先程、戦闘機によって攻撃された建物の火は、既に収まっている。
その時、彼女の頭はその疑念に辿り着いてしまった。
───千影に、記憶はあるのか?例え千影と再会できようと、千影に記憶がなかったらそれはレイの望んだことではない。
そうなった時、彼女が壊れない保証はどこにもない。自分を、また殺してしまうかもしれない。そんな不安が蝕む中、ユーマの話がレイを現実に引き戻す。
「.....白骸について話をしておこう。白骸の統治者は【執行者】と呼ばれる存在だ。それに加え、第一位から五位までの実力者が存在している。」
「つまり、最も脅威なのはその6人.....」
「そういうことになる。だが一般兵もそれなりに力があって厄介だ。」
「了解。頭に入れておくよ。」
一旦、記憶の話は置いておくべきだ。未確定の未来に怯えているようじゃこれからやって行けない。
氷室零は、心の底に封じ込めよう。今は白骸を滅ぼすべく、「レイ」に徹する。次に元の名を名乗る時は、夢を叶えたその時に。
「千影......絶対に、あなたに辿り着くから。」




